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第3話 ガトリー

 ガトリーはOLD TOKYOのMOTO KABUKIに来ていた。

 普段飲んだくれているので、でっぷりと出たビール腹、あごひげ、そしてアメリカンコミックのTシャツ。さながら、典型的なギーク(オタク)といったところの外見で、普段もまったくモテないのは言うまでもない。

 普段は電子部品の買取やら修理やらで生計を立てている。手先が器用なのが唯一の取り柄だった。まだ使える電子機器を壊れているとしてタダで引き取り、分解して需要のある部品を横流しするなんてのはまだいいほうで、明らかに盗品だろうというような品にまで手を出すので、ガトリーは自分でも良くないという自覚があった。だが、コネもなければ資格も、学歴もない。友人のステイトとサムは優秀で、どこかガトリーは劣等感にさいなまれ、バカにされていると思い込んでいた。

 MOTO KABUKIにある、かつて巨大なゴジラの像であった鉄くずを眺めながら、ガトリーは「でも、俺にはNIPPONがある」と独り言ちた。


 MOTO KABUKI に、通称・ゴジラ前というスポットがある。くだんのゴジラだった鉄くずの前に、薬物中毒者が集まるのだ。

 ガトリーも気の毒にと思う。NIPPONに生を受けた最貧困層は、アメリカに職を探すことなど当然出来ず、さらにNIPPONの唯一の希望ともいえる自警団にも入れなかった者たちが、低価格で品質の悪い薬物に手を出すのだ。

 品質の悪い薬物に手を染めたが最後、依存症となり精神障害を起こす。

 ゴジラ前の通りを這うように男女がいる。みんな、薬物依存者。ガトリーはその中の一人の女に目をつける。身体は骨と皮だけのようだ。しかし、なぜか髪だけは手入れしているのか、腰まである長髪が特徴的だった。昔、NIPPONにまだ風情があったころに、雪女というのがいて、ガトリーはその絵を見たことがあったけれど、まさにそのようだと思った。ガトリーはアメリカ的な豊満なボディが嫌いで、痩せていれば痩せているほど好みだった。さらにNIPPON女であれば、言うことなし。

 ガトリーは呟く。「これは、搾取じゃない。取引なんだ」

 そう言って、女の目の前に10ドルを差し出す。女はすぐに10ドルに飛びつき、ガトリーの腕を引っ張って物陰へと入った。

 それからは、ガトリーは女とお楽しみだ。

「やっぱり、NIPPON女は最高だな。クッ、クックックッ」


【つづく】

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