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3章

94 飲み会

 邪神頭部を倒した日は夜遅くまでエリックとゴランとお酒を飲んだ。

 セルリスとシア、ミルカとルッチラ、そしてゲルベルガさまはもう眠りについた。

 俺の屋敷に住んでいる徒弟のミルカとルッチラは当然屋敷で眠る。

 セルリスとシアも最近はよく泊まっていく。

 にぎやかでいい。


「ガルヴも寝てきていいぞ」

「がふぅ」

 眠そうにあくびをしながら、ガルヴは俺の横で伏せていた。


 俺はガルヴを撫でながら、酒を飲む。 

 楽しい飲み会というよりも、お酒を飲みながらの話し合いだ。

 色々と情報を共有しなければいけないこともある。


 俺は知りえたことを、詳しくエリックとゴランに話しておいた。

 そうしてから尋ねる。


「枢密院に捜査本部を置くということは、エリックが自ら陣頭指揮を執るってことだよな」

「いや、陣頭指揮を執るのは難しいのだ。王としての職務がある故な……」

「それはそうか」

「だが、なるべく捜査状況を把握しようとは思っておる」


 俺はゴランにも尋ねる。


「邪神やヴァンパイアの件について、冒険者ギルドはどのくらい動いているんだ?」

「Aランク冒険者のパーティーを三つ専属に動いてもらっている」

「それはすごいな」


 報酬だけでかなりの額になりそうだ。


「そのぐらいやばい案件だからな。当然俺が直接陣頭指揮を執っている」

「忙しそうだな」

「ああ、忙しい。それに加えて、ヴァンパイア関連の情報は全て俺に報告するシステムをつくっているところだ」

「ガセねたが多くならないか?」

「それを精査させていたら、俺のとこまで情報があがってくるまで、一週間とかかかるんだ。仕方ねーだろ」

「それもそうだな」


 そんなことを話していると、エリックが言う。


「ラック。まだこの家には余裕があるか?」

「何の余裕だ? 金か? 部屋か?」

「部屋だ」

「部屋ならあるぞ? それがどうかしたのか?」

「うむ。フィリーの研究室を作ってもらえないかと思ってな」


 フィリー・マスタフォン。

 マスタフォン侯爵家の五女にして、愚者の石の生成に成功した天才錬金術士だ。


「俺は構わないが、王宮で保護したほうがいいのではないか?」

「宮廷錬金術士たちに、愚者の石の生成法が知られるのは避けたいのだ」


 それを聞いて、ゴランが言う。


「宮廷錬金術士が信用できねーってことか?」

「信用はしている。だが、どこから昏き者どもの手が伸びるかわからぬ」

「なるほどな」


 ゴランは納得してうなずいた。

 昏き者どもはフィリーを失ったことにより、愚者の石を作れなくなった。

 つまり邪神召喚に用いる像が作れなくなるということだ。

 それだけではなく、次元の狭間を開くためのメダルも作れない。


「愚者の石の生成法を知っている錬金術士を昏き者どもは喉から手が出るほど欲しておる」

「さらわれるかもしれないし、魅了をかけられたり、眷属化されたりするかもしれないな」

「ラックの言うとおりだ。宮廷錬金術士を護るためにも、フィリーを錬金術士たちから離しておきたいのだ」

「そういうことなら、いいぞ。いつでもフィリーを送ってくれ」

「ありがたい」


 この屋敷は王宮と近く秘密通路がつながっている。だからエリックも安心なのだろう。


 これからの色々な話をした。その結果、俺はふと思う。


「俺は戦闘は得意なんだ。怪しい家に忍び込むのも得意だ」

「異論はねーぞ」

「だが、情報収集という意味ではあまり得意ではない気がする」

「そうなのか? ラックの侵入術を使えば、情報収集もお手の物ではないのか?」


 エリックの言葉に、ゴランは首を振る。


「侵入ってのは、確かに情報収集の有力な切り札だ」

「であろう?」

「だがな、それは最終局面で初めて役に立つ技術だって思わねーか?」

「つまり、一軒一軒忍び込むってのは、あまりにも非効率ってことか」

「その通り。状況証拠がその家だとはっきりと示しているとき、侵入して証拠をつかむのはありだろうがな」


 ゴランの言うとおりである。

 情報収集の大半は、聞き込みなどの地味な作業が占める。

 それに、交友関係を築いて、日常会話から情報を得たりするのも大切だ。

 戦闘とは全く異なる特殊技能が求められるのだ。


「あくまでも侵入ってのは違法行為だからな。確証もないのに片っ端から侵入するってのはな」

「それもそうであるな。俺の枢密院が得た情報を、ラックにも報せるようにしよう」

「それは助かる。よろしく頼む」

「冒険者ギルドが得た情報も、なるべく早くラックに報せよう」

「頼む。戦闘が必要な局面になったら任せてくれ」


 その後も色々と話した。

 夜も更けてきたので、眠ることにした。

 エリックもゴランも、泊っていくことになった。


「ガルヴ、もう寝るぞ」

「……がぅ」


 もう半分眠っていそうな感じだ。

 このまま寝かせてやった方がいいかもしれない。


 俺は一人で寝室に向かう。

「がぅ」

 するとガルヴは一生懸命追ってきた。


「寝てていいんだぞ」

「ががう」


 ガルヴは寝室で眠るようだ。狼もベッドで寝たほうが疲れが取れるのかもしれない。

 俺がベッドに入ると、ガルヴも入ってくる。


「がうぅ」

 ガルヴは俺の腹の上に顎を乗せる。

 まだ子狼だから甘えん坊なのだろう。俺はガルヴを撫でる。

 ふわふわしていて、気持ちがいい。毛並みがいい狼だと思う。

 すぐに、ガルヴは寝息を立てて眠りについた。

 そして、俺も眠った。

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