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107 シアとニアと父

 王都に向かって帰る途中。ニアが尋ねてきた。


「ロックさんは、どうして魔導士であることを隠されているのですか?」

「そうだなー。色々と事情があるのだが」

「あ、変なこと聞いてごめんなさい。冒険者同士あまり事情を詮索するなって姉上にも言われていたのに」

「ニア。そうでありますよ」


 シアがニアを窘める。俺はニアの頭を撫でた。


「シアの言うとおりだから、気を付けるべきではある」

「ごめんなさい」

「だが、別に今回に関しては大丈夫だ。どうせバレるし、近いうちに話すつもりだったしな」


 ニアは首をかしげていた。


「実はここだけの話、俺は例のラックなんだ」

「その、例のラックさんっていうとあの通貨単位の?」

「そう、その通貨単位の」

「す、すごいです!」


 ニアの目が輝く。


「英雄ラックにお会いできるなんて! 光栄です!」

「一応、秘密だからな」

「了解です! 命に代えてでも秘密はお守りします」

「いや、命に代えなくてもいい」


 シアも命に代えても秘密を守るみたいなことを言っていた。

 だが、そこまでして守る秘密ではない。


「絶対に命の方が大事だからな。それは肝に銘じてくれ」

「わかりました」


 ニアはうんうんと頷いていた。

 そんなニアに、名前を隠している理由を説明する。

 大公であることがばれたら、政治闘争に巻き込まれかねないとかそういうことだ。


 ニアは首をかしげる。


「名前を隠している理由はわかりましたけど、どうして魔導士であることも隠しているんですか?」

「それはだな。冒険者ランク的な問題なんだ」

「冒険者ランクですか?」


 ニアに冒険者ランクを偽装していることについて説明する。

 魔導士として登録すると、Sランク魔導士と表記されてしまう。


「Sランクの魔導士なんて、ラックさんぐらいしかいないからばれちゃいますね」

「実は魔導士というのも正確ではなくてな」

「そうなのですか?」

「大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士のSランクなんだ」

「そ、そうだったのですね。それなら一発でばれてしまいますね」

「そうなんだ」


 そんなことを話していると、セルリスがぽつりと言った。


「うちのパパがごめんなさい」

「いや、ゴランのせいってわけでもない」


 もちろんゴランのせいでもあるのだが、主犯はエリックだろう。


「だから、俺は冒険者ランクも上げたくないんだ。ランクを上げるときには色々調べられるからな」

「なるほど。了解しました!」


 ニアは賢い少女のようで、事情を理解してくれたようだ。


 俺とニアの会話を聞いていたセルリスが言う。


「ロックさん。ミルカちゃんにも言った方がいいんじゃないかしら」

「それは悩みどころなんだ」


 ミルカには凄腕の冒険者だとは言ってあるし、国王と友達というのも伝えてある。

 だが、ラック本人だとは言っていない。


「ミルカを信用していないというわけではなくてな。余計なことを知らせると、それだけミルカの危険が増える気もするからな」

「考えすぎじゃないかしら」

「そうだな。考えすぎかもしれない」


 考えすぎなら何よりだ。

 それに、ミルカは賢い。近いうちにばれるだろう。

 ならば、告げたほうがいいのかもしれない。


「帰ったら、ミルカにも話してみよう」

「それがいいと思うわ」


 セルリスは笑顔でそう言った。

 可愛がっているミルカが寂しい思いをするのではと心配していたのかもしれない。



 帰りは特に何事もなく、平穏なまま王都についた。

 帰り道でもシアはニアに冒険のいろはを教える。

 シアは面倒見のいい教師のようだ。


 冒険者ギルドに任務達成を報告し、魔石を提出してから自宅へと戻った。

 屋敷に入ると、ミルカが出迎えてくれる。


「ロックさん、お帰りなさいだぞ。それにみんなもおかえりだぞ」

「ただいま」


 俺に続いて皆がただいまと言っていると、ミルカが言う。


「ロックさんに来客だぞ」

「来客? エリックか?」

「違うぞ」


 俺は皆と別れて応接室に入る。そこにはシアとニアの父がいた。

 シアたちの父は俺が入室すると即座に立ち上がって頭を下げた。

 傍らには杖が置いてあった。移動する際には杖を使っているのだろう。

 立つことはできても、しんどいに違いない。


「これは、ダントンどの。ああ、ご無理なさらず、どうかおかけください」


 会釈するとシアたちの父は、姿勢を正して頭を下げようとした。

 慌てて椅子をすすめて、着席させてから俺も座る。

 そして、改めて頭を下げた。


「ハイロード討伐の論功行賞のとき以来ですね」


 ちなみにシアとニアの父の名前はダントンというのだ。

 論功行賞の後、雑談しているときに教えてもらった。


「ロックどの。娘たちがいつもお世話になっております」

「いえ。こちらこそ大変お世話になっております。お怪我はよろしいのですか?」

「はい。おかげさまで。日常生活を送る分には問題ありません」


 論功行賞のとき、ダントンは右手を三角巾で吊るしていた。

 今はそれはない。右手は治ったのだろう。


「それはなによりです」


 お茶を運んできたミルカに、シアたちを呼んでもらった。

 すぐにシアとニアがやってくる。


「ち、父上! 急にどうしたでありますか?」

「娘がお世話になっているんだ。父としてご挨拶に出向くのは当然だろう」

「それはそうかもしれないでありますが……」


 ダントンは心配そうに言う。


「シアがたびたびお世話になっているとは聞いていて、近いうちにご挨拶にと思っていたのですが」

「いえいえ! こちらも色々と調査任務などで協力していただいておりますし」

「そういって頂けると……。ですが、この度はシアに加えてニアまで……。本当にご迷惑ではありませんか?」

「いえ、全く迷惑ではないです。お気になさらないでください」


 俺がそういうと、ダントンはほっとしたようだった。

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