改めてダントンは姿勢を正した。
「ロックどの。まことに厚かましいお願いなのですが……」
「何でもおっしゃってください」
「シアとニアをロックどのの屋敷に下宿させてはいただけないでしょうか?」
「もちろん構いませんよ」
俺の返事を聞いて、ダントンはとても嬉しそうにする。
「ありがとうございます。当然、下宿代は払わせていただきます」
「お気になさらないでください」
その後、適当に雑談している間に、ミルカの夕ご飯の準備が終わる。
ダントンを含めて、皆で一緒に夕ご飯を食べることになった。
食事の途中でゴランがやってきた。
「おお、ゴラン。お疲れさま」
「ああ、ただいま。今日もいい匂いだな!」
ゴランは当然のようにただいまと言っている。
俺はそれに違和感を覚えないことに気が付いた。
ミルカがゴランに言う。
「ゴランさんも食べるかい?」
「お、いいのか?」
「もちろんさ! 今すぐ持ってくるぞ!」
ミルカがゴランの食事を用意するため、走っていった。
そして、ゴランはダントンに気づく。
「これはウルコット卿。このようなところで会うとは奇遇ですな」
ダントンやシアは騎士爵をもらった際、家名も同時に必要になった。
だから、エリックから家名ももらったのだ。
それが、ウルコットである。
「モートン卿、お会いできて光栄です」
「今日はどうされたのですか?」
「娘たちのことをロックどのにお願いに参った次第です」
「そうでしたか! うちのセルリスもロックに世話になっていますからな。同じですな」
それから、ゴランとダントンは娘トークで盛り上がりはじめた。
「セルリスがいつもお世話になっているようで!」
「いえ! こちらこそ大変お世話になっております」
二人が盛り上がっている間、セルリスとシア、ニアは非常に気まずそうにしていた。
食後、女性陣が風呂から上がった後、俺とゴランとダントンは風呂に入ることにする。
「ルッチラもどうだ?」
「いえ! ぼくはいいですので!」
「ルッチラは本当に風呂が苦手なんだな。だが、入った方がいいぞ」
「か、風邪気味なので!」
「そうか。それは入らないほうがいいかもな」
「はいっ!」
「こここ」
ルッチラはゲルベルガさまを抱いて、自室へと戻っていった。
「がう」
「今日はお客さんと入るから、ガルヴは風呂の外で待っていなさい」
「がうぅ」
ガルヴは少し悲しそうな眼をする。
「ちゃんとまた今度、洗ってやるからな」
そういって、俺はガルヴを撫でまくっておいた。
そして、俺は風呂に入った。
三人で風呂にはいっていると、ダントンが言う。
「立派なお風呂場ですな」
「元々貴族の屋敷だったんですよ」
「それにしても立派な気がしますな」
元はと言えば、先々代の国王の愛人の屋敷だ。
国王が入ることも想定されていたのだろう。立派な風呂場だと自分でも思う。
ゴランは気持ちよさそうに浴槽の中で体を伸ばす。
「やはり、思いっきり体を伸ばせるのは最高だな」
「気に入ってくれたようでなによりだ」
のんびりしながらゴランは言う。
「ダントンどのは、ニアさんをロックの徒弟にさせたりしないのですかな?」
「もちろん私としてはそうなれば、安心なのですが、ご迷惑でしょう」
徒弟となれば、仮親のようなものになる。身元保証人も兼ねた保護者だ。
ダントンが遠慮するのもわかる。
「いや、迷惑ということはないですよ? もうルッチラとミルカという徒弟もいますし」
「もし、本当にご迷惑でないのならば、ニアのことを徒弟としていただきたい」
「まったくもって、かまいませんよ。私としては歓迎です」
「ありがとうございます」
ダントンは深々と頭を下げた。
「ですが、ニアさん自身が嫌がりませんか?」
「一応聞いてみますが、その心配はないと思います」
「なぜ、そう思われるのですか?」
「我ら狼の獣人族は強者を尊敬します。ロックさんは明らかに強者ですから」
「なるほど。そういうものなんですね」
「俺も強者は尊敬するぞ」
ゴランもうんうんと頷いていた。
それから、俺たちは風呂を上がる。
風呂場のすぐ外で、ガルヴが待ち構えていた。
「がうがう」
しきりにふんふんと匂いを嗅いできた。
「なんだ、匂いが気になるのか?」
「がう」
ガルヴは手をぺろぺろと舐めてきた。
その後、俺たちはガルヴも一緒に居間へと向かう。
そして、三人で酒を呑んだ。
酒を呑みながら、俺はダントンに尋ねる。
「ダントンどのの一族から王宮に仕えることになった方はいらっしゃるんですか?」
王宮での雇用は論功行賞の際にエリックの用意した褒美の一つだ。
ヴァンパイア対策も兼ねて、狼の獣人族を大量雇用したのだ。
「我が一族の精鋭が三名ほどですが、陛下にお仕えすることになりました」
「それは素晴らしい」
「ロックどのは、またハイロードを退治されたとか」
「どこでそれを?」
「狼の獣人族の族長と陛下の間に、ヴァンパイア情報を共有するための会合が開かれることになったのです。その席上で陛下にお聞きしました」
「そうだったのですか」
狼の獣人族はヴァンパイア狩りの専門家だ。
日常的にヴァンパイアの情報を集め、ヴァンパイアたちを狩っている。
狼の獣人族と情報を共有できることは、王宮側のヴァンパイア対策にとても有効だ。
「おひとりで、ヴァンパイアハイロードを退治されるとは大したものです」
ダントンはうんうんと頷いていた。