俺は少し考える。正体を明かすかどうかだ。
基本的に、俺は親しい人に正体を隠したくないと考えている。
正体を隠したままだと、信用していないことになる気がするのだ。
とはいえ、不用意に正体を明かして問題が生じたら本末転倒だ。
だが、ハイロードをソロで討伐したことを知っているのなら問題ないだろう。
それにシアとニアの父親なのだ。
「実はダントンどの。今まで言っていなかったことがありまして……」
「ほう? ロックどのの強さの秘密ですか?」
冗談めかしてダントンは笑う。
「あながち間違っていません」
「おお、それは知りたいですね」
ダントンは真剣な表情になる。強さへの探求心があるのだろう。
「実はですね……」
俺は英雄ラック本人だと告げた。
隠している理由も説明する。
ダントンは俺が話している間、ずっと黙って聞いていた。
「そうだったのですか……」
「隠していて申し訳ありません」
「いえ、機密ですから当然です。むしろ私を信用して明かしてくださって感謝いたします」
ゴランが笑いながら言う。
「ウルコット卿、ロックの正体を聞いて、驚きましたか?」
「多少は……ですが、おどろきより納得の方が大きいですぞ」
「納得ですか?」
「はい。陛下やモートン卿との関係、そして何より尋常ではない強さ。英雄ラックなら納得できます」
「確かに……」
そして、ゴランは真面目な顔で俺たちと向き合う。
「ロックも正体をばらしたことだし……。もう我々は友人ということでよいのではないかと思うのだが」
「そうだな、だがそれがどうかしたのか?」
俺が尋ねると、ゴランは呆れるような表情になった。
「敬語とか堅苦しいのは抜きにしたいって言ってるんだよ、俺は」
「たしかにそうだな。ダントンどの。どう思われますか?」
「そうですね、いや、そうだな。そのほうが俺も楽でいい」
「なら決まりだ!」
そう言ってゴランはガハハと笑った。
そして、改めて乾杯して、酒を呑み交わした。
ゴランが酒を呑みながら言う。
「それにしても、エリックの奴、ハイロード討伐を報告するのは当然だが……」
国王と族長たちのヴァンパイア情報の共有なのだ。
ハイロードが討伐されたというような、重要なことを報告しないわけにはいかない。
報告しなければ信頼を失うし、そもそも情報共有の意味がない。
「ロックのことまで報告しなくてもいいと思うんだがな」
もう友人同士の会話なので、ゴランはエリックのことを陛下と呼ばない。
「誰が討伐したか言わなかったら、誰が討伐したんだ? って話題になりかねないしな」
「それはそうかもしれねーが」
口外禁止と言っても、どんな戦士がいるんだと知りたくなる。
狼の獣人族の族長たちは、俺とともにハイロード討伐の論功行賞の場にいた。
族長たちが、俺がハイロードを討伐したことに気が付くのは時間の問題だろう。
「俺が討伐したと知れば、その時の様子を聞きたくなるだろう?」
「確かに、知りたくならないわけがない」
ダントンは真面目な顔で言う。
「ダントンも知りたいのか?」
「当然だ。陛下がロックが討伐したと明かさなくても、すぐに気が付いただろうと思う」
「まあ、気づくよな。ソロと言わずとも少数精鋭で、ハイロードを倒せるのは、エリックかゴランぐらいだろうし」
大規模に討伐部隊を編成したのなら、狼の獣人族が気づかないはずがない。
いまやかなりの数の狼獣人族の精鋭戦士が王宮に仕えている。
そもそも、ヴァンパイア討伐隊を編成するなら、狼の獣人族に声がかかるはずだ。
だから族長たちは討伐隊を編成せずに少数でハイロードを倒したとすぐに理解する。
「そうか。エリックや俺なら隠す理由もないから、隠したら、ロックしかいないことになるのか」
ハイロードを討伐したパーティーメンバーは、エリック、ゴラン、シアと俺の四人だ。
まずその四人が疑われるだろう。
狼の獣人族であるシアならば、明かさないわけがない。エリック、ゴランでも同様だ。
ならば残りの俺が討伐したのだろうと気づかれる。
ダントンが言う。
「俺なら、何かと理由をつけてロックの元を訪れたと思う」
「たしかに、そうなりそうだな」
「無理にとは言わないが……。ハイロード討伐に関して教えてもらえると助かる」
ダントンに頼まれて、俺は少し考えた。
「エリックはどこまで話したんだ?」
「そうだな……陛下は……」
エリックの報告は、俺によってハイロードが討伐された。
まだ、ハイロードクラスが暗躍している恐れがある。
その上、王都にヴァンパイアの手の者が入り込んでいる可能性もある。
ヴァンパイアの眷属を見かけたら、すぐに退治しないように。
どこに住んでいるか、なにをしているか調べてからだ。
「そのようなことを陛下はおっしゃっていたな」
「……なるほど」
そして、俺はダントンに言う。
「シアさんは知っていることなんだが……」
「ほう?」
「知っているというより、当事者の一人というか、ハイロード討伐任務に深く協力してもらったのだがな」
「うちの娘が役に立ったか」
「それはもう、素晴らしく」
「それは何よりだ」
ダントンは嬉しそうで、誇らしそうだ。
俺はダントンに、ハイロード討伐に関する事件について語ることに決めた。