目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

109 おっさんたちの飲み会

 俺は少し考える。正体を明かすかどうかだ。

 基本的に、俺は親しい人に正体を隠したくないと考えている。

 正体を隠したままだと、信用していないことになる気がするのだ。

 とはいえ、不用意に正体を明かして問題が生じたら本末転倒だ。


 だが、ハイロードをソロで討伐したことを知っているのなら問題ないだろう。

 それにシアとニアの父親なのだ。


「実はダントンどの。今まで言っていなかったことがありまして……」

「ほう? ロックどのの強さの秘密ですか?」


 冗談めかしてダントンは笑う。


「あながち間違っていません」

「おお、それは知りたいですね」


 ダントンは真剣な表情になる。強さへの探求心があるのだろう。


「実はですね……」


 俺は英雄ラック本人だと告げた。

 隠している理由も説明する。


 ダントンは俺が話している間、ずっと黙って聞いていた。


「そうだったのですか……」

「隠していて申し訳ありません」

「いえ、機密ですから当然です。むしろ私を信用して明かしてくださって感謝いたします」


 ゴランが笑いながら言う。


「ウルコット卿、ロックの正体を聞いて、驚きましたか?」

「多少は……ですが、おどろきより納得の方が大きいですぞ」

「納得ですか?」

「はい。陛下やモートン卿との関係、そして何より尋常ではない強さ。英雄ラックなら納得できます」

「確かに……」


 そして、ゴランは真面目な顔で俺たちと向き合う。


「ロックも正体をばらしたことだし……。もう我々は友人ということでよいのではないかと思うのだが」

「そうだな、だがそれがどうかしたのか?」


 俺が尋ねると、ゴランは呆れるような表情になった。


「敬語とか堅苦しいのは抜きにしたいって言ってるんだよ、俺は」

「たしかにそうだな。ダントンどの。どう思われますか?」

「そうですね、いや、そうだな。そのほうが俺も楽でいい」

「なら決まりだ!」


 そう言ってゴランはガハハと笑った。

 そして、改めて乾杯して、酒を呑み交わした。


 ゴランが酒を呑みながら言う。


「それにしても、エリックの奴、ハイロード討伐を報告するのは当然だが……」


 国王と族長たちのヴァンパイア情報の共有なのだ。

 ハイロードが討伐されたというような、重要なことを報告しないわけにはいかない。

 報告しなければ信頼を失うし、そもそも情報共有の意味がない。


「ロックのことまで報告しなくてもいいと思うんだがな」


 もう友人同士の会話なので、ゴランはエリックのことを陛下と呼ばない。


「誰が討伐したか言わなかったら、誰が討伐したんだ? って話題になりかねないしな」

「それはそうかもしれねーが」


 口外禁止と言っても、どんな戦士がいるんだと知りたくなる。

 狼の獣人族の族長たちは、俺とともにハイロード討伐の論功行賞の場にいた。

 族長たちが、俺がハイロードを討伐したことに気が付くのは時間の問題だろう。


「俺が討伐したと知れば、その時の様子を聞きたくなるだろう?」

「確かに、知りたくならないわけがない」


 ダントンは真面目な顔で言う。


「ダントンも知りたいのか?」

「当然だ。陛下がロックが討伐したと明かさなくても、すぐに気が付いただろうと思う」

「まあ、気づくよな。ソロと言わずとも少数精鋭で、ハイロードを倒せるのは、エリックかゴランぐらいだろうし」


 大規模に討伐部隊を編成したのなら、狼の獣人族が気づかないはずがない。

 いまやかなりの数の狼獣人族の精鋭戦士が王宮に仕えている。

 そもそも、ヴァンパイア討伐隊を編成するなら、狼の獣人族に声がかかるはずだ。

 だから族長たちは討伐隊を編成せずに少数でハイロードを倒したとすぐに理解する。


「そうか。エリックや俺なら隠す理由もないから、隠したら、ロックしかいないことになるのか」


 ハイロードを討伐したパーティーメンバーは、エリック、ゴラン、シアと俺の四人だ。

 まずその四人が疑われるだろう。


 狼の獣人族であるシアならば、明かさないわけがない。エリック、ゴランでも同様だ。

 ならば残りの俺が討伐したのだろうと気づかれる。


 ダントンが言う。

「俺なら、何かと理由をつけてロックの元を訪れたと思う」

「たしかに、そうなりそうだな」

「無理にとは言わないが……。ハイロード討伐に関して教えてもらえると助かる」


 ダントンに頼まれて、俺は少し考えた。


「エリックはどこまで話したんだ?」

「そうだな……陛下は……」


 エリックの報告は、俺によってハイロードが討伐された。

 まだ、ハイロードクラスが暗躍している恐れがある。

 その上、王都にヴァンパイアの手の者が入り込んでいる可能性もある。

 ヴァンパイアの眷属を見かけたら、すぐに退治しないように。

 どこに住んでいるか、なにをしているか調べてからだ。


「そのようなことを陛下はおっしゃっていたな」

「……なるほど」


 そして、俺はダントンに言う。

「シアさんは知っていることなんだが……」

「ほう?」

「知っているというより、当事者の一人というか、ハイロード討伐任務に深く協力してもらったのだがな」

「うちの娘が役に立ったか」

「それはもう、素晴らしく」

「それは何よりだ」


 ダントンは嬉しそうで、誇らしそうだ。

 俺はダントンに、ハイロード討伐に関する事件について語ることに決めた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?