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110 おっさんたちの飲み会2

 俺は、事情を話す前に、ダントンに尋ねる。


「今から話すことは、最高機密だ。俺の正体なんて目じゃない」

「ふむ? ロックが英雄ラックという以上の秘密とは……なんだ?」

「確認したいのだが、一族の者たちにも話さないで欲しい。狼の獣人族の他の族長にもだ」

「それは……」

「信用していないわけではない。だが、知れば危険が及ぶ可能性がある」

「そうか。そういうことならば、秘密は守ろう」


 くどいとは思うが、一応念押しする。


「俺の正体など、自分の身や仲間が危なければ、ばらしてもなんてことはない。だがこれは違う」

「命に代えてもってやつだな?」

「聞かないという選択肢もあるぞ? 知れば、ダントンの身にも危険が及ぶ可能性も捨てきれない」

「シアは知っているんだろう?」


 ダントンは娘を危険なことに巻き込んだことを怒らないだろうか。

 そう思ったが、隠すわけにはいかない。


「そうだ。シアさんは当事者。どっぷりとこちら側の人間だ」

「ならば、父の俺が聞かないわけにはいかない」


 ダントンの返事は力強かった。


「……シアさんを危険に巻き込んだこと、怒らないのか?」

「まさか。怒るわけがない。シアは誇り高き我が一族、一流の戦士だ」


 そう言ってからダントンは微笑む。


「俺がそう言ってたこと、シアにはいうなよ? 調子に乗ったら困る」

「わかった。俺もシアは一流だと思うぞ」

「ああ、ハイロードとの戦いの際、俺も同行したが、そう思う」


 俺とゴランがそういうと、ダントンは嬉しそうに微笑んだ。

 そして一気に盃を飲み干す。


「英雄ラックと当代最強の戦士ゴランにそう言われたら、嬉しいな。たとえお世辞であっても」

「冒険者の力量に関して、俺はお世辞は言わないことにしている。だから事実だ」

「そうか。それならとても嬉しい。一族の誉れだ」


 ダントンは少し涙ぐんでいた。

 しばらく三人で、酒を呑んだ。


 少したって、ゴランが言う。


「しみじみ酒を呑んでいる場合じゃねえ。ダントンに説明するって話だっただろ」

「おお、そうだったな。説明してもいいか?」

「頼む」


 俺は頭を整理してから、口を開く。


「どうやら、ヴァンパイアの奴らが、王都の内部にかなり入り込んでいたようだ」

「それはゆゆしき事態だな」

「エリックの王都でも気をつけろって話にもつながるんだがな」

「ふむ」


 俺は先日あった事件のあらましを説明した。

 町の悪党カビーノから、マスタフォン侯爵家の話。

 昏き者どもが、神の加護を破る手段を持っていること。

 そして、邪神の頭部の話に繋がる。


「頭部だけで、それほど強いのか?」

「ああ、ハイロードよりも強いだろう」

「それは王都、いや世界に対する脅威となりうる」


 ダントンは真剣な顔でつぶやいた。

 俺はさらに続ける。


「それにだ。獣人族にとってはこっちのほうが問題だろうとおもうのだが、頭部はヴァンパイアを強化することができるらしい」

「強化?」

「ああ、アークヴァンパイアがロード級に、ロードがハイロード級に……。ワンランク上がると考えていい」

「レッサー狩りだと思ったらアークが出てくるというようなことが起こるってことか」

「そうだ。だが、強化は無尽蔵ではないらしいからレッサーを強化することは、現状ではなさそうだがな」


 俺は強化されていないロードやアークもいたことを説明する。

 ダントンだけでなく、すでに知っているはずのゴランも真剣に聞いていた。

 聞き終わった後、ダントンはいう。


「俺も戦いたいものだ」

「それは怪我を治してからだな」

「そうだ、それまでは俺たちに任せてくれ」


 ゴランがそういいながら、ダントンの盃に酒を注ぐ。


「今は情報収集をしているところなんだ。俺もすることがあまりない」

「そうだな。いざ戦闘ってなってからだろうな。ロックが活躍するのは。それまでは俺たち冒険者ギルドに任せてくれよな」

「俺も出来る限りの協力はしよう」

「ダントンにそう言ってもらえると、心強い」


 その日は、夜遅くまで酒を呑んだ。

 そしてダントンもゴランも泊まっていった。



 次の日、俺が起きると、ミルカは既に起きていた。

 てきぱきと働いている。


「ミルカおはよう」

「ああ、ロックさんおはようだぞ! 朝ごはんすぐ持っていくぞ」

「すまない。ありがとう」


 食堂に入ると、ダントンとシアとニアは既にいた。


「おお、三人とも早いんだな」

「父から聞きました。私を徒弟にしてくださるとのこと。感謝いたします!」

「ニアはそれでいいのか?」

「もちろんです!」

「そうか。それならば、これからもよろしく頼む」

「はい!」


 それから、ルッチラとゲルベルガさま、ガルヴたちも加わって、朝ごはんを食べた。


 朝ごはんを食べ終わった後、ゲルベルガさまが寄ってくる。


「どうしたんですか? ゲルベルガさま」

「ココゥ」


 ゲルベルガさまは、鳴きながら俺の手を突っつく。


「ルッチラ、ゲルベルガさま、怒っているのか?」

「いえ、怒ってはいないと思うのですが、不満はありそうですね」


「どうしました?」

「こここ!」


「もしかしたら、ゲルベルガさまは、ロックさんに敬語使ってほしくないのかもです」

「ふむ? そうなのですか? ゲルベルガさま」

「こぅ」


 ゲルベルガさまは、俺のひざの上に乗り、体を押し付けてくる。


「やっぱり、敬語を使ってほしくないみたいです」


 ルッチラが言うなら、そうなのだろう。

 ダントンに敬語を使わなくなったのを知り、我慢できなくなったのかもしれない。


「わかった。これからもよろしくな、ゲルベルガさま」

「こぉ!」


 満足そうにゲルベルガさまは鳴いた。

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