俺は、事情を話す前に、ダントンに尋ねる。
「今から話すことは、最高機密だ。俺の正体なんて目じゃない」
「ふむ? ロックが英雄ラックという以上の秘密とは……なんだ?」
「確認したいのだが、一族の者たちにも話さないで欲しい。狼の獣人族の他の族長にもだ」
「それは……」
「信用していないわけではない。だが、知れば危険が及ぶ可能性がある」
「そうか。そういうことならば、秘密は守ろう」
くどいとは思うが、一応念押しする。
「俺の正体など、自分の身や仲間が危なければ、ばらしてもなんてことはない。だがこれは違う」
「命に代えてもってやつだな?」
「聞かないという選択肢もあるぞ? 知れば、ダントンの身にも危険が及ぶ可能性も捨てきれない」
「シアは知っているんだろう?」
ダントンは娘を危険なことに巻き込んだことを怒らないだろうか。
そう思ったが、隠すわけにはいかない。
「そうだ。シアさんは当事者。どっぷりとこちら側の人間だ」
「ならば、父の俺が聞かないわけにはいかない」
ダントンの返事は力強かった。
「……シアさんを危険に巻き込んだこと、怒らないのか?」
「まさか。怒るわけがない。シアは誇り高き我が一族、一流の戦士だ」
そう言ってからダントンは微笑む。
「俺がそう言ってたこと、シアにはいうなよ? 調子に乗ったら困る」
「わかった。俺もシアは一流だと思うぞ」
「ああ、ハイロードとの戦いの際、俺も同行したが、そう思う」
俺とゴランがそういうと、ダントンは嬉しそうに微笑んだ。
そして一気に盃を飲み干す。
「英雄ラックと当代最強の戦士ゴランにそう言われたら、嬉しいな。たとえお世辞であっても」
「冒険者の力量に関して、俺はお世辞は言わないことにしている。だから事実だ」
「そうか。それならとても嬉しい。一族の誉れだ」
ダントンは少し涙ぐんでいた。
しばらく三人で、酒を呑んだ。
少したって、ゴランが言う。
「しみじみ酒を呑んでいる場合じゃねえ。ダントンに説明するって話だっただろ」
「おお、そうだったな。説明してもいいか?」
「頼む」
俺は頭を整理してから、口を開く。
「どうやら、ヴァンパイアの奴らが、王都の内部にかなり入り込んでいたようだ」
「それはゆゆしき事態だな」
「エリックの王都でも気をつけろって話にもつながるんだがな」
「ふむ」
俺は先日あった事件のあらましを説明した。
町の悪党カビーノから、マスタフォン侯爵家の話。
昏き者どもが、神の加護を破る手段を持っていること。
そして、邪神の頭部の話に繋がる。
「頭部だけで、それほど強いのか?」
「ああ、ハイロードよりも強いだろう」
「それは王都、いや世界に対する脅威となりうる」
ダントンは真剣な顔でつぶやいた。
俺はさらに続ける。
「それにだ。獣人族にとってはこっちのほうが問題だろうとおもうのだが、頭部はヴァンパイアを強化することができるらしい」
「強化?」
「ああ、アークヴァンパイアがロード級に、ロードがハイロード級に……。ワンランク上がると考えていい」
「レッサー狩りだと思ったらアークが出てくるというようなことが起こるってことか」
「そうだ。だが、強化は無尽蔵ではないらしいからレッサーを強化することは、現状ではなさそうだがな」
俺は強化されていないロードやアークもいたことを説明する。
ダントンだけでなく、すでに知っているはずのゴランも真剣に聞いていた。
聞き終わった後、ダントンはいう。
「俺も戦いたいものだ」
「それは怪我を治してからだな」
「そうだ、それまでは俺たちに任せてくれ」
ゴランがそういいながら、ダントンの盃に酒を注ぐ。
「今は情報収集をしているところなんだ。俺もすることがあまりない」
「そうだな。いざ戦闘ってなってからだろうな。ロックが活躍するのは。それまでは俺たち冒険者ギルドに任せてくれよな」
「俺も出来る限りの協力はしよう」
「ダントンにそう言ってもらえると、心強い」
その日は、夜遅くまで酒を呑んだ。
そしてダントンもゴランも泊まっていった。
次の日、俺が起きると、ミルカは既に起きていた。
てきぱきと働いている。
「ミルカおはよう」
「ああ、ロックさんおはようだぞ! 朝ごはんすぐ持っていくぞ」
「すまない。ありがとう」
食堂に入ると、ダントンとシアとニアは既にいた。
「おお、三人とも早いんだな」
「父から聞きました。私を徒弟にしてくださるとのこと。感謝いたします!」
「ニアはそれでいいのか?」
「もちろんです!」
「そうか。それならば、これからもよろしく頼む」
「はい!」
それから、ルッチラとゲルベルガさま、ガルヴたちも加わって、朝ごはんを食べた。
朝ごはんを食べ終わった後、ゲルベルガさまが寄ってくる。
「どうしたんですか? ゲルベルガさま」
「ココゥ」
ゲルベルガさまは、鳴きながら俺の手を突っつく。
「ルッチラ、ゲルベルガさま、怒っているのか?」
「いえ、怒ってはいないと思うのですが、不満はありそうですね」
「どうしました?」
「こここ!」
「もしかしたら、ゲルベルガさまは、ロックさんに敬語使ってほしくないのかもです」
「ふむ? そうなのですか? ゲルベルガさま」
「こぅ」
ゲルベルガさまは、俺のひざの上に乗り、体を押し付けてくる。
「やっぱり、敬語を使ってほしくないみたいです」
ルッチラが言うなら、そうなのだろう。
ダントンに敬語を使わなくなったのを知り、我慢できなくなったのかもしれない。
「わかった。これからもよろしくな、ゲルベルガさま」
「こぉ!」
満足そうにゲルベルガさまは鳴いた。