朝ごはんを食べ終わると、狼の獣人の若い衆が迎えに来てダントンは帰っていった。
何度も何度もお礼を言われて、娘たちをお願いしますと頼まれた。
ダントンを見送った後、俺は庭でゲルベルガさまとガルヴと遊ぶ。
「ゲルベルガさまは外に散歩に行きたくなったりしないのか?」
「こぉ?」
虫を捕食していたゲルベルガさまは、こっちにパタパタとかけて来る。
「こここ」
「……なるほど」
正直何を言いたいのかわからない。
だが、それほど散歩に行きたそうではなさそうだ。
一方、ガルヴは散歩という単語を出しただけで俺の前に来て尻尾を振っていた。
期待のこもった目をしている。
「ガルヴは散歩に行きたそうだな」
「がう」
俺はミルカとルッチラに一言告げて、散歩に行くことにした。
ゲルベルガさまをいつでも入れられるように加工された金属の胸当てをつける。
「私も行きます!」
ニアがついて来てくれる。
「シアにちゃんと外出することを言ったか?」
「もちろんです」
それなら何の問題もない。二人と一頭と一羽で散歩に行くことにした。
王都の通りを歩きながら、ニアが言う。
「ガルヴさんの散歩でしたら私がやりますのに……」
「俺も運動不足になるからな。それに冒険者ギルドにも顔を出しておきたいし」
「任務をこなされるのですか?」
「そういうわけではないんだが、友達の冒険者の様子も見たいし」
「こここ」
ゲルベルガさまは俺のすぐ横を歩きながらついてきている。
「ゲルベルガさま、疲れたらいつでも言ってくれ」
「ここ」
冒険者ギルドに到着する、アリオたちに出会った。
Fランク冒険者、魔導士のアリオが笑顔で話しかけてくる。
「おお、ロック。久しぶりだな」
「久しぶりって、二、三日ぐらいだろう。今日は人手は必要か?」
「いや、大丈夫だ。ただの薬草集めだからな」
「それならよかった」
アリオと同じくFランク冒険者で弓スカウトのジョッシュが言う。
「ロックさん。今日は子供連れなんですね」
「この子はシアの妹だ」
ニアとアリオとジョッシュが互いに自己紹介を済ませる。
「ニアは俺たちと同じFランク冒険者なんだ。冒険する機会があったらよろしく頼む」
「こんなに小さいのにすごいな」
「一族の風習なんです」
「すごい一族ですねーさすがシアさんの妹です」
ジョッシュは素直に感心しているようだった。
それから、少しの間雑談する。
アリオは
「
「そうだなー。しばらくは火球と魔法の矢だけに絞るのも手だと思うぞ」
「そんなものなのか?」
「器用貧乏になるよりはな。火球だけだと使い勝手が悪い。魔法の矢だけだと複数の敵を相手にするのが難しい。だが……」
「その二種類があれば、なんとかなるってことか」
「大概の場合はな」
「なるほど。参考になった、ありがとう!」
「気にするな」
そして、アリオとジョッシュは薬草採取に出かけて行った。
それから俺はクエストが貼られている掲示板を一応眺めた。
ニアも真剣な表情で掲示板を見る。
「いっぱいありますね」
「そうだな。だが、俺たちはFランクだから受注できるクエストは少ない。ニア。文字は読めるか?」
「はい」
狼の獣人族は教育を重視しているようだ。
かなり長い時間を戦闘訓練に費やしていたようだが、それだけではないらしい。
「それは素晴らしい」
俺はニアに依頼票の見方を教えておいた。
文字さえ読めれば、後は簡単だ。
文字も読めない冒険者向けの符号は、文字を読める者にとっても優しいのだ。
「ゴブリン退治は無しっと」
「昨日も退治したのに、ゴブリンが気になるのですか?」
ニアが不思議そうな顔をするので、俺はゴブリン退治の重要性を語っておいた。
それから、ギルドを出て、王都の外へと向かう。
ガルヴを運動させるためだ。
王都の外に出ると、ゲルベルガさまに胸当ての中に入ってもらう。
それをみながら、ニアが言う。
「王都の外までが、ガルヴさんの散歩コースなんですか?」
「王都の中を適当に走るだけでいいのかもしれないが……」
ガルヴの体は大きすぎる。王都の中だと全力では走れない。
「がう!」
ガルヴは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「ガルヴも運動不足になるからな。暇なときは王都の外を走らせてやりたい」
「そうですね」
「ニア、ある程度全力で走ってくれ。その後ろを俺とガルヴがついて行く」
「了解しました!」
ニアは走り出す。かなり速い。それをガルヴが追っていく。
ニアは速いと言っても、八歳。ガルヴよりは当然遅い。
ガルヴはニアを追い越して、しばらく速度を緩めて、また加速する。
そうやって楽しんでいた。
「ゲルベルガさま。俺も走るぞ」
「ココ!」
ゲルベルガさまは胸当てから出て、俺の肩に乗る。
「ここ」
走っていいという許可が出た。
俺は軽く走り出す。ゲルベルガさまはしっかりと俺の肩に爪を立てている。
胸当てを吊るす丈夫で太い皮を掴んでいるので痛くはない。
あっという間にニアに追いつく。ニアに追いついてからは、ニアと足並みをそろえて走る。
俺たちは王都から続く街道をしばらく走った。
ニアとガルヴの息が上がったところで休憩にする。
魔法の鞄から水を出してニアとガルヴに与えた。
「あ、ありがとうございます」
「がう」
「たまに走るのは気持ちがいいな」
「そうですね!」
水を一生懸命飲むガルヴの背中を優しく撫でた。
ガルヴも思いっきり体を動かせたようだ。よかった。
しばらくの間のんびりと休憩する。
天気も良いし風も気持ちがいい。
ゲルベルガさまも、俺の肩の上で、気持ちよさそうだ。
「さて、そろそろ戻るか」
「はい——」
「GYAAAAA……」
遠くから大きな咆哮が聞こえてきた。
「あれって、まさかケーテか?」
「かもしれないです」
のろし代わりに吠えたのだろう。困った奴だ。
とりあえず、咆哮が聞こえた方に移動しなければなるまい。
「ロオオオオォォックゥゥゥゥーーーーーおぉぉぉるぅぅかぁぁぁーーーー」
「あいつ……。ロック、おるかじゃないだろ……いなかったらどうすんだよ」
こともあろうに、ケーテは俺の名を叫び始めた。