ミルカに呼ばれたので、俺たちはぞろぞろと食堂に移動する。
食堂には、エリックとゴランがいた。
二人だけで日が沈む前から酒を呑んでいる。
「ロック、起きたか!」
「疲れてたのか? 見た目は若いのに、俺らと同じく年ってことかもしれねーな!」
ゴランは少し嬉しそうに言う。
「返す言葉もない」
エリックもゴランも夜明けごろに家に帰り、軽く眠って働いたのだ。
そして仕事を終えて屋敷に来たのだろう。頭が下がる。
「だいぶ呑んだのか?」
「いや、ほどほどだ」
「軽くだ、軽く。水がわりみたいなもんだ」
エリックとゴランは少し顔が赤かった。
少しだけ酔っていそうである。
ゴランの娘、セルリスが心配そうにする。
「パパ、呑みすぎないで欲しいわ」
「おお、大丈夫だぞ」
「ご飯もちゃんと食べないと駄目なんだからね」
「ああ、わかっている。すまんな」
日が沈む前から酒を呑むのはあまり褒められたことではないのかもしれない。
だが、エリックは国王、ゴランは冒険者ギルドのグランドマスターだ。
いつも激務だ。たまには息抜きぐらいしてもよいだろう。
「ごはんか。楽しみであるぞ」
「ケーテは座っていてくれ」
「わかったのである」
俺はミルカたちを手伝いに行く。
今日みたいに大勢で食事をするときは、料理を運ぶ人数は多い方がいい。
そして、全員で食卓に着く。
ゲルベルガさまや、タマ、ガルヴにもご飯を用意してある。
「もう、食べていいんだぞ」
そう言ったのに、獣たちは食べ始めない。
「ここぅ」
ゲルベルガさまは俺の方をじっと見ている。
もしかしたら、俺のご飯の方が美味しそうに見えているのだろうか。
とりあえず、俺は食事を開始する。
「こぅ」
すると、ゲルベルガさまは一声鳴いて、ご飯を食べ始めた。
勢いよく食べている。
ゲルベルガさまのご飯は我々のものとほとんど一緒だが、野菜が多めだ。
神鶏なので、人と同じものを食べてもいいのだ。
「わふ」
ゲルベルガさまが食べ始めるのを見て、タマが食べ始めた。
タマのご飯は生の肉とゆでたいもなどだ。美味しそうに食べている。
「がう」
タマが食べ始めたのを見て、ガルヴも食べ始める。
ガルヴは霊獣なので、俺たちと同じものを食べて大丈夫だ。
だが、今回の食事はタマと同じような内容だ。
体の小さな順に食べ始めるのは不思議な感じがする。
ゲルベルガさまたちには序列があったりするのだろう。
「うまい、うまいのである」
「そ、そうかい?」
「うむ。ミルカは天才料理人であるな!」
ケーテが料理を絶賛していた。
普通の料理だが、ケーテの口にあったらしい。
何よりである。
食事中にケーテが言う。
「遺跡保護委員会の件だが、希望を聞こうではないか」
「希望って何の希望だ?」
遺跡保護委員会は、ケーテたち竜族とメンディリバル王国の同盟の名前だ。
同盟と言っても秘密同盟だ。公にするわけではないので名前は仮のものである。
同盟というよりも、竜と王国共同の昏き者対策委員会といった方がいいかもしれない。
「それは、もちろん役職である」
「ケーテの好きにしてくれていいと思うが。エリックはどう思う?」
「ああ、ケーテに任せる」
「そうか、ならば任されるのだ!」
やることも決まっているし、メンバーも決まっているのだ。役職など重要ではない。
ケーテが自由に委員長でも会長でもやればいいと思う。
「そういえば、ケーテ。今日は遺跡回らなくてよかったのか?」
「昼頃、軽く見まわったのであるぞ?」
ちょうど俺が熟睡していたころだ。
「今日は平穏無事だったか?」
「うむ。我はこのような魔道具を使っておる」
ケーテは食卓机の上に大き目の腕輪を乗せる。
「我がかけた侵入者探知の魔法に、何者かが引っかかれば、この魔道具が報せてくれるのである」
「ほう、便利だな」
「うむ、これに今日は全く反応がなかったのである。上空から見ても特に異変は無かったのだ」
俺はその腕輪を見せてもらった。
かなり良い出来だと思う。
「これって、ケーテが魔法をかけたのか?」
「そうなのである」
ケーテはドジに見えて、魔法は得意なのかもしれない。
「がう」
「わふ」
犬科たちが小さな声で吠えたので、俺はふと横を見る。
ガルヴが自分の分の生肉を、タマのお皿に入れていた。
タマが痩せているから、ガルヴは心配したのだろう。
タマはガルヴを優しく舐めると、その生肉をガルヴの皿に戻した。
「がうー」
「わふー」
互いに遠慮しあっている。
「タマも、ガルヴもお腹がすいたら、まだあるから遠慮するな」
「がう」
「わふ」
安心したのか、ガルヴは自分の分の肉を全部食べた。
「タマは、もうお腹いっぱいか?」
「わふ」
「タマは少しずつ食べられる量は増えておるのだがな。まだ食が細いのだ」
フィリーも心配そうだ。
「食べられる量が増えているのなら大丈夫だろう。無理してもお腹壊すだけだしな」
「うむ。タマ、お腹がすいたら言うのだぞ」
「わふ」
そのころ、ゲルベルガさまは自分の分のご飯を全部食べてガルヴの背中に乗っていた。