その後、俺たちは魔法陣部屋のある建物を出て宮殿に向かうことにした。
建物をでると、ドラゴンがたくさんいた。五十頭ぐらいいそうだ。
青っぽい色の、立派なドラゴンが多い。
「が、がう」
驚いてガルヴが俺の後ろに隠れる。
「やはり、普段はドラゴンの姿なのですね」
ゆるゆると、ケーテが首を振る。
「そもそも、人の姿をとれるのは、竜の中でも王族ぐらいなものなのであるぞ」
「そうなのか」
「竜にも色々あるのである」
うんうんとケーテは頷いている。
俺はドラゴンたちを見る。全員がきちんと整列しているようだった。
王太子リーアの前ということで、緊張しているのだろう。
「殿下!」
先頭にいたドラゴンが声を上げた。
特に大きな立派なドラゴンだ。
「どしたの?」
リーアが可愛らしく首をかしげる。
「そのお方が、大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士ラック・ロック・フランゼン大公閣下でございますか?」
立派なドラゴンはリーアの隣にいたエリックを俺と勘違いしたようだ。
「ちがうの。この方はエリック陛下なのよ」
「……そうでありましたか。これは失礼いたしました」
立派なドラゴンはそう言って、エリックに向かって頭を下げる。
「かの御高名なる勇者王陛下にお会いできて光栄です。私はモーリス。侍従長をさせていただいております」
「エリック・メンディリバルです。よろしくお願いいたします」
「水竜の防衛に手を貸して下さるとのこと、まことにありがとうございます」
侍従長モーリスは丁寧にエリックに応対する。
だが、その後ろにいる者たちは、多少がっかりしているようだった。
エリックが弱そうに見えてがっかりしたのかもしれない。
実際に戦っているところを見さえすれば、評価を変えるだろう。
「殿下! あの!」
侍従長モーリスの後ろにいたものが声を上げる。
「これ! リーア殿下、勇者王陛下や風竜王陛下の御前である。控えよ」
侍従長モーリスがたしなめた。
「……はい。失礼いたしました」
しょんぼりしている。
「どうしたの?」
リーアが優しく声をかける。
声をかけられた水竜の尻尾が縦に揺れた。
「はい。殿下。あの大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士ラック・ロック・フランゼン大公閣下は、今日はいらっしゃっておられないのですか?」
「ラックさまなら、こちらの方です」
リーアがニコニコ顔で俺を紹介した。
「「「おぉぉ〜っ」」」
水竜たちがどよめいた。
「大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士ラック・ロック・フランゼン大公閣下。私、リーア殿下の侍従長をつとめているモーリスというものです。お会いできて光栄です」
改めてモーリスに自己紹介された。
俺はモーリスの右手の人さし指の先を握って握手する。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
モーリスを押しのけるようにして水竜たちが前にどんどん来る。
「大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士ラック・ロック・フランゼン大公閣下! お会いできて光栄です」
「大賢者にして、我々の救世主、偉大なる最高魔導士ラック・ロック・フランゼン大公閣下、水竜の集落の防衛に手を貸してくださるとのこと、ありがとうございます!」
「大賢者にして……」
「あのっ!」
俺は水竜たちの言葉を遮った。
水竜たちは一斉に首を傾げた。少し可愛いと思ってしまった。
「あの、大賢者うんぬんというのは、長いのでただ、ラック、もしくはロックとお呼びください」
水竜たちに押しのけられていた、侍従長モーリスが言う。
「そ、そんな! 大賢者にして……」
また長い名前で呼びかけはじめた。
「いえ、本当に長いので、いざ戦闘というときに、名前を呼ぶだけで時間がかかるようでは困ります」
「な、なるほどー」
「さすがだ」
「さすがの深謀遠慮、感服いたしました」
水竜たちがなぜか感心している。
尻尾の上下の揺れ具合がすごい。
「あ、あの! ラックさま。握手していただいても?」
「あ、ずるいぞ! 私も」
「順番に並ぶのである」
水竜の前にケーテが立って、仕切りはじめた。
大人しく水竜たちは俺の前に並ぶ。
「ラックさま、お会いできて光栄です!」
俺は順番に水竜たちと握手していった。
「長い間話したいのはわかるが、次が控えているのであるぞ。握手が終わったものは、場所を空けるがよいぞー」
ケーテが列の整理をしてくれた。
俺が握手をしている間、ドルゴがみんなにゴランたちのことを紹介していた。
待機列と握手の終わった者たちに向けて、みんなのことを紹介している。
時間の節約になるので良いことだと思う。
どうやら、エリックだけでなくゴランも水竜たちに名前を知られているらしかった。
「……可愛い」
「もしかして霊獣の狼どのか?」
「がうー」
一方そのころガルヴは、俺との握手を終えた水竜たちに囲まれていた。
水竜たちが大きいから怖いのだろう。最初はガルヴの尻尾は股の間に挟まっていた。
「……可愛い」
「狼どの、これお食べになりますか?」
「がうがう」
俺の握手が終わった頃には、水竜とガルヴは仲良くなったようだった。
水竜たちから、おやつをもらって、撫でられて嬉しそうに尻尾を振っていた。
「もう、握手していない奴はいないのであるなー?」
「ありがとうございました!」
ケーテが尋ねて、水竜たちが頭を下げる。
五十頭の水竜と握手を終えたころには、一時間ほど経過していた。
「いえいえ、これからどうぞよろしくお願いたします」
それから、俺たちはリーアとともに水竜の宮殿に入った。