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158 水竜宮殿の部屋

「ラック、水竜たちがごめんなさい」

 宮殿に入るとすぐに、リーアに謝られた。

 リーアの隣にいる侍従長モーリスも恐縮している。


「年甲斐もなく、お恥ずかしい」

「いえいえ、気にしないでいいですよ」


 水竜たちと友好的な関係を築けたのは良かった。

 全員と顔見知りになれたのも、今後にとってプラスだ。

 単にラックと呼んでくれと言ってから、水竜たちの堅苦しさがとれた気がする。

 それにつれて、リーアも子供らしい口調になった。

 無理をしていたのだろう。


「やはりロックは人気者であるなー」

「さすがだな」

「ああ、大したもんだ!」

 ケーテ、エリック、ゴランがそんなことを嬉しそうに言っている。


「水竜さんたちは、迫力があったわね。ね、シア」

「そうでありますね。あれだけドラゴンが集まると迫力がちがうであります。ニアはどうおもったでありますか?」

「緊張しました」

「がーうー」


 ニアの顔をガルヴがぺろぺろしていた。

 ガルヴの尻尾がビュンビュン揺れている。緊張している様子が全くない。

 ケーテ相手に怯えまくっていたとは思えない。


「ガルヴ、竜に慣れたんだな」

「がう?」

 首をかしげて、尻尾を振っていた。


 リーアが、ガルヴを撫でながら言う。


「みんな、はしゃいじゃったみたい」

「やはり、ラックさんは特別ですからな」

 侍従長モーリスまでそんなことを言う。


「生ラックを見たのだから、仕方ないのである」

「リーア殿下。娘の言う通りです。風竜でもああなりますよ」


 ケーテがうんうんと頷いている。

 ドルゴもケーテに賛同していた。


「あ、そうだ! ラック、お部屋! お部屋をご用意したのよ」

「お部屋?」

「ラックが、こっちに来たときに、えっとお泊りするお部屋!」

「それはありがたい」


 好きに使える部屋があると何かと便利だ。


「こっちなの、こっち」

 リーアは楽しそうに、俺の腕を引っ張っていく。

 尻尾が元気に揺れている。


「このお部屋をつかってほしいの」


 宮殿の奥の一室に案内された。全員がついてくる。

 竜の大きさ基準ではなく、人の大きさ基準で家具が作られた部屋の様だ。

 家具の類は、すべて人が使いやすい大きさになっている。

 だが、かなり広い。そして、天井が高い。


「ラック、どうかしら?」

「立派で、綺麗な部屋ですね。それに広いです」

「よかった!」

 リーアは嬉しそうだ。


「がうがう!」

 ガルヴが部屋の中を嬉しそうに走り回った。

 ガルヴが走れる程度に充分広いのだ。

 具体的には一辺が成人男性の身長三十人分ぐらいありそうだ。

 ちなみに、天井は部屋の一辺の長さよりさらに高い。


「この広さで一人用なんですか?」

「もちろんでございます」

 侍従長モーリスが言った。


「ありがとうございます。それにしても広いですね」


 だだっ広い空間にベッドが一台だけあった。

 壁をみれば収納などもあるようだ、だが、そこまで移動するのが大変だ。


 俺が部屋を眺めていると、ケーテが俺の腕をつっつく。


「ロックよ。竜の宮殿にある人間サイズの部屋ということは、つまり王族用ということである」

「ああ、だから広いのか」


 人の形になれる竜は王族だけだ。


「竜の王族が、寛いで竜の姿に戻れるようにしてあるのか」

「そうであるぞ。竜の姿で出入りしたい場合はあっちの扉を使うのだ」


 ケーテが壁を指さす。

 あまりに大きな扉なので壁にしか見えなかったが、よく見たら扉があった。


 王族は竜の姿では、普通の竜よりも大きいことが多い。

 それゆえに、部屋も広くて扉も大きいのだろう。


「がうがう」

 どや顔のケーテの周りをガルヴが回る。


「ガルヴ。俺以外に飛びついたらダメだといったが、ケーテとエリックとゴランにも飛びついていいぞ」

「がう!」

 ガルヴが、嬉しそうにケーテに飛びついた。


「よーしよしよし」

 ケーテが嬉しそうにガルヴを撫でる。

 人の姿でも竜。ガルヴの飛びつきを受けとめるぐらい余裕なのだ。


「ケーテ、この部屋に詳しいんだな」

「小さいころ、我もよく泊まったのである」

 王族同士の交流というのがあるのだろう。


「ラック、ラック!」

 リーアが俺の腕をつかむ。


「どうしました?」

「リーアの部屋はとなりなの!」

「そうなのですね」

「いつでも遊びに来ていいのよ」

「ありがとうございます」


 部屋を眺めながら、セルリスが言う。

「とても広いわね。私たちもこの部屋に泊めてもらうことにすればいいかしら」

「そうでありますね!」


 セルリスたちの会話を聞いていた侍従長モーリスが言う。


「皆様のお部屋もご用意しています」

「え? 人数分こんなに広い部屋があるのでありますか?」

「申し訳ありませぬ。勇者王陛下とラック様以外の部屋は……その、誠に申し訳ないのですが、これほど広くはなく」


 侍従長モーリスは恐縮している。

 だが、俺としてはそっちの狭い部屋の方が過ごしやすい気がする。


「うーん。そうだなー。管理が面倒だし、この部屋をみんなで使う方がいいかもしれねーな」

「確かに。そのほうが、便利だな」

 ゴランの案にエリックが賛成した。


「それなら、みんなで、この部屋を使えばいいと思うの!」

 リーアは嬉しそうに言う。


「ですが……」

 侍従長モーリスは困っているようだ。


「リーアもこの部屋をつかうー」

「お、一緒であるな!」

 リーアとケーテがキャッキャと喜んでいた。

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