「ラック、水竜たちがごめんなさい」
宮殿に入るとすぐに、リーアに謝られた。
リーアの隣にいる侍従長モーリスも恐縮している。
「年甲斐もなく、お恥ずかしい」
「いえいえ、気にしないでいいですよ」
水竜たちと友好的な関係を築けたのは良かった。
全員と顔見知りになれたのも、今後にとってプラスだ。
単にラックと呼んでくれと言ってから、水竜たちの堅苦しさがとれた気がする。
それにつれて、リーアも子供らしい口調になった。
無理をしていたのだろう。
「やはりロックは人気者であるなー」
「さすがだな」
「ああ、大したもんだ!」
ケーテ、エリック、ゴランがそんなことを嬉しそうに言っている。
「水竜さんたちは、迫力があったわね。ね、シア」
「そうでありますね。あれだけドラゴンが集まると迫力がちがうであります。ニアはどうおもったでありますか?」
「緊張しました」
「がーうー」
ニアの顔をガルヴがぺろぺろしていた。
ガルヴの尻尾がビュンビュン揺れている。緊張している様子が全くない。
ケーテ相手に怯えまくっていたとは思えない。
「ガルヴ、竜に慣れたんだな」
「がう?」
首をかしげて、尻尾を振っていた。
リーアが、ガルヴを撫でながら言う。
「みんな、はしゃいじゃったみたい」
「やはり、ラックさんは特別ですからな」
侍従長モーリスまでそんなことを言う。
「生ラックを見たのだから、仕方ないのである」
「リーア殿下。娘の言う通りです。風竜でもああなりますよ」
ケーテがうんうんと頷いている。
ドルゴもケーテに賛同していた。
「あ、そうだ! ラック、お部屋! お部屋をご用意したのよ」
「お部屋?」
「ラックが、こっちに来たときに、えっとお泊りするお部屋!」
「それはありがたい」
好きに使える部屋があると何かと便利だ。
「こっちなの、こっち」
リーアは楽しそうに、俺の腕を引っ張っていく。
尻尾が元気に揺れている。
「このお部屋をつかってほしいの」
宮殿の奥の一室に案内された。全員がついてくる。
竜の大きさ基準ではなく、人の大きさ基準で家具が作られた部屋の様だ。
家具の類は、すべて人が使いやすい大きさになっている。
だが、かなり広い。そして、天井が高い。
「ラック、どうかしら?」
「立派で、綺麗な部屋ですね。それに広いです」
「よかった!」
リーアは嬉しそうだ。
「がうがう!」
ガルヴが部屋の中を嬉しそうに走り回った。
ガルヴが走れる程度に充分広いのだ。
具体的には一辺が成人男性の身長三十人分ぐらいありそうだ。
ちなみに、天井は部屋の一辺の長さよりさらに高い。
「この広さで一人用なんですか?」
「もちろんでございます」
侍従長モーリスが言った。
「ありがとうございます。それにしても広いですね」
だだっ広い空間にベッドが一台だけあった。
壁をみれば収納などもあるようだ、だが、そこまで移動するのが大変だ。
俺が部屋を眺めていると、ケーテが俺の腕をつっつく。
「ロックよ。竜の宮殿にある人間サイズの部屋ということは、つまり王族用ということである」
「ああ、だから広いのか」
人の形になれる竜は王族だけだ。
「竜の王族が、寛いで竜の姿に戻れるようにしてあるのか」
「そうであるぞ。竜の姿で出入りしたい場合はあっちの扉を使うのだ」
ケーテが壁を指さす。
あまりに大きな扉なので壁にしか見えなかったが、よく見たら扉があった。
王族は竜の姿では、普通の竜よりも大きいことが多い。
それゆえに、部屋も広くて扉も大きいのだろう。
「がうがう」
どや顔のケーテの周りをガルヴが回る。
「ガルヴ。俺以外に飛びついたらダメだといったが、ケーテとエリックとゴランにも飛びついていいぞ」
「がう!」
ガルヴが、嬉しそうにケーテに飛びついた。
「よーしよしよし」
ケーテが嬉しそうにガルヴを撫でる。
人の姿でも竜。ガルヴの飛びつきを受けとめるぐらい余裕なのだ。
「ケーテ、この部屋に詳しいんだな」
「小さいころ、我もよく泊まったのである」
王族同士の交流というのがあるのだろう。
「ラック、ラック!」
リーアが俺の腕をつかむ。
「どうしました?」
「リーアの部屋はとなりなの!」
「そうなのですね」
「いつでも遊びに来ていいのよ」
「ありがとうございます」
部屋を眺めながら、セルリスが言う。
「とても広いわね。私たちもこの部屋に泊めてもらうことにすればいいかしら」
「そうでありますね!」
セルリスたちの会話を聞いていた侍従長モーリスが言う。
「皆様のお部屋もご用意しています」
「え? 人数分こんなに広い部屋があるのでありますか?」
「申し訳ありませぬ。勇者王陛下とラック様以外の部屋は……その、誠に申し訳ないのですが、これほど広くはなく」
侍従長モーリスは恐縮している。
だが、俺としてはそっちの狭い部屋の方が過ごしやすい気がする。
「うーん。そうだなー。管理が面倒だし、この部屋をみんなで使う方がいいかもしれねーな」
「確かに。そのほうが、便利だな」
ゴランの案にエリックが賛成した。
「それなら、みんなで、この部屋を使えばいいと思うの!」
リーアは嬉しそうに言う。
「ですが……」
侍従長モーリスは困っているようだ。
「リーアもこの部屋をつかうー」
「お、一緒であるな!」
リーアとケーテがキャッキャと喜んでいた。