部屋に案内された後、俺たちは宮殿内を案内された。
一応、王族用に人族サイズの施設もあるようで、暮らすのに支障はなさそうだ。
ただ、どの部屋も天井がとても高かった。
「次は集落を案内するの!」
楽しそうにリーアが言う。
リーアがどんどん打ち解けてくれているようだ。口調もだいぶ柔らかい。
子供はそのぐらいがちょうどいい。
「リーアちゃん、水竜の集落って広いのかしら?」
「そうなの! 宮殿よりもずっと広いのよ」
セルリスは、ことあるごとにリーアの頭を撫でている。
小さい子が好きなのだろう。
リーアも嬉しそうにしている。
仮にも王太子に対して、と思わなくもないが、侍従長もケーテも何も言わない。
おそらく竜族の風習的に大丈夫なのだろう。
「じゃあ、ラック。ついて来て欲しいの」
「がうがうー」
リーアはガルヴの背中に乗って走り出す。リーアもガルヴも楽しそうで何よりだ。
そんな元気な姿を見ていると、ただの子供にしか見えない。
リーアたちをみんなで追いかけた。
「あ、ラックさま!」
「え? ラックさまだって?」
宮殿を出ると、たちまち水竜たちが気づいた。
ぞくぞくと集まってくる。
「リーアが、お客様をご案内してるのよ」
「そうなんですか」
「さすが殿下、偉いですね」
リーアがみんなに褒められている。
竜の王族は、雲の上の存在という感じでもないらしい。
「ガルヴちゃんもえらいねー」
「がうがう」
水竜たちに褒められてガルヴも嬉しそうだ。
そのまま、水竜たちは集落案内についてきた。
五十体の水竜を引き連れての移動は落ち着かない。
だが、リーアとガルヴはあまり気にしていないようだ。
「ここが入り口なのよ。この柱の間を通って、出入りするの」
リーアが指さしたのは、間をあけて建っている石造りの大きな二本の柱だった。
巨大な竜、例えばドルゴであっても、間を楽々通れそうだ。
「リーア殿下。質問しても良いでありますか?」
シアが小さく手を挙げている。
「だめなの! リーアって呼んで」
「で、ですが、臣下の方々の前で……」
シアの戸惑いもわかる。
多くの臣下が見ている前では、俺もエリックを呼び捨てにはしない。
国王には君主としての立場があるのだ。
「気にしなくていいの! シアはリーアの臣下じゃないもの」
「それは、そうでありますが……」
シアは侍従長モーリスをちらりと見た。
「殿下のおっしゃる通りでございます。みなさまは水竜でもなければ、竜族でもありません」
「そういうものでありますか?」
「はい。みなさまは臣下ではなく、殿下の御友人でございますれば」
「それでも、水竜のみなさまは、ロックさんならともかく、あたしのようなものが殿下を呼び捨てにしていたら、面白くないと思うであります」
それを聞いていた水竜たちは互いに顔を見合わせている。
「いや、別に……」
「ああ。別になぁ?」
「もちろん侮辱されたら怒るけども……」
「殿下が許したんだろう? なら怒る理由がないよな」
「ああ」
そんなことを話していた。
竜族は、人族とは考え方が違うらしい。
いや、人族との間に大きな種族的差異を感じているのかもしれない。
王が可愛がっている犬が王の顔をなめても、怒る臣下はいない。
とはいえ、人族を犬みたいに下に見ているということではないだろう。
俺やエリックたちに対する尊敬の態度を見れば、それはわかる。
ただ、文化の違う者たちと考えて、自分たちの常識をあてはめないだけだ。
ドルゴのふるまいを見るに、竜族と人族で適用される作法が違うのは間違いなさそうだ。
「水竜さんたちも、そういう感じなのでありますね」
「そうなの! だから、リーアって呼んで」
「わかったのでありますよ。リーア」
「へへへ」
リーアは嬉しそうに笑う。
それを見てセルリスが優しく微笑んだ。
「リーアちゃん、嬉しそうね」
「うん、だって。近い年ごろの女の子のお友達は初めてだもの」
周囲にいる水竜たちは親しくとも全員臣下だ。
お友達にはなれないのだろう。
「え? 我は? 我はリーアの友達ではないのであるか?」
ケーテがショックを受けたような顔をする。
友達だと思っていたのはケーテだけだったらしい。可哀そうだ。
「ケーテ姉さまは、お姉さまだもの。友達だけど年頃は近くないもの」
「むむう。我とリーアの年齢差など、竜の寿命と比べれば誤差みたいなものであるぞ、誤差」
「でも、少し違うと思うの」
一応、成長したとみなされて王位を譲られたケーテに対して、リ−アは子供。
リーアからすれば、同年齢の友達とは思えないのかもしれない。
「そうであったかー。我は年代が違ったのであるかー」
ケーテは少しショックを受けている。
「ケーテ。友達だとは思われていたのだから、よかったじゃないか」
「そうよ。ケーテ姉さまはお友達なの」
「我はちゃんと友達であったか。よかったのである」
ケーテは友達が少なそうなので、とても良かった。
俺も少し安心した。