俺たちは王都の門を出て、道に沿って進んでいく。
主要な太い街道ではなく、脇道と言っていい細い道だ。
ほとんど人が通らないので、道のところどころに草が生えているぐらいだ。
二十分ほど歩いたところで、先頭を歩いていたスカウトのジニーが足を止めた。
「ロックさん、お兄ちゃん……。あれって……」
「あれ? ん? こんなところに丘はなかったと思うんだが……」
アリオが首をかしげる。アリオの視力はジニーほどではないからわからないのだろう。
「あれは……、ドラゴンだな」
「やっぱり……。ドラゴンですよね。退き返しましょう」
「まさか、ドラゴンがこんなところにいるわけないだろう?」
そういって、アリオは笑う。
だが、道の横、少し離れたところに巨大なドラゴンがいるのは間違いない。
「すぐに退き返しましょう。安全第一ですし、冒険者ギルドにも報告しないと」
「……うん。すまない。言いにくいんだがあれは俺の知り合いだ」
俺がそう言うと、ジニーはなにかすごい物でも見る目でこっちを見た。
道の横に座っていたドラゴンはケーテだった。
俺の自宅にいたはずのケーテが、なぜかドラゴン姿で座っているのだ。
「あ、ロック。奇遇であるな!」
ケーテは嬉しそうにそう言うと、ドタドタと駆けて来る。
「絶対奇遇じゃないだろ。待ち伏せしていただろう?」
「……そんなことないのである」
「なぜそこで嘘をつく」
「……ロックは自意識過剰なのであるぞ?」
「じゃあ、ここで何してたんだ?」
「日課の遺跡の点検をしている途中で休憩していただけなのである」
「……ふーん」
明らかに嘘だと思う。
ケーテは先ほどゴブリン討伐クエの依頼元の村の場所を、俺に詳しく聞いてきた。
聞いた理由は、ここに先回りして待ち伏せするために違いない。
だが、深く突っ込んでケーテの嘘を暴いても仕方がない。
「がうがう!」
ガルヴが嬉しそうに、ケーテの足に飛びついている。
「おお、ガルヴ。はしゃいでおるなー」
ケーテも機嫌よく指の背でガルヴを撫でる。
俺は、俺の背後で怯えた様子のアリオとジニーに向けて言う。
「こいつはケーテという俺の友達のドラゴンなんだ」
「そうか、すごいな……」
「そ、そうなんですね。ドラゴンのお友達がいるとはさすがロックさんです」
アリオとジニーはドン引きしている。
「お主たちがロックのお友達のFランク冒険者であるなー?」
「ア、アリオです。まま魔導士です。
「ジニーです。弓スカウトです」
アリオとジニーは緊張気味に自己紹介する。
だが、アリオの名前は、このまま放置したらアアリオだと誤解されそうだ。
「二人はアリオとジニー。俺の冒険者仲間なんだ」
「そうであるかー。我はケーテぞ。ロックのお友達である。今後ともよろしく頼むのである」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「おおお願いします」
アリオはいつもと違い敬語モードだ。
ドラゴンが相手だから、緊張しかつ怯えているのだろう。その気持ちはよくわかる。
ケーテは機嫌よく尻尾を揺らしながら、
「む? ロックはゴブリン退治にいくのであるな? ここであったのも何かの縁。我も手伝おう」
「そうか、じゃあ折角だから頼もうかな」
「任せるのである!」
「「えっ?」」
ケーテは嬉しそうに尻尾を揺らし、アリオとジニーが困惑した様子でこっちを見てきた。
ゴブリン退治にこれほど立派なドラゴンを手伝わせていいのか?
そもそも、ゴブリンよりも、このドラゴンが怖い。
そんなことを思っていそうだ。
ドラゴンは恐怖の権化なので仕方がない。
「がうがうっ!」
「ガルヴ、おやつが欲しいのであるかー?」
今となっては尻尾を振りながらケーテに飛びついているガルヴも出会い当初は怯えていた。
アリオとジニーもすぐに慣れるだろう。
「ケーテはいいドラゴンだから安心してくれ。怯える必要はない」
「ロックさんがそうおっしゃるなら……」
「お、俺は別に最初から、別に怯えては、別にない……」
「お兄ちゃん落ち着いて」
「お、おおちついてるさ。おお、おかしなジニーだな」
アリオは、妹のジニーより明らかに動揺している。
「アリオは面白い奴であるなー。そうだ。せっかくだ。我の背に乗せてやろう」
「いや、その必要は無い」
俺が断ると、ケーテは首をかしげる。
「なぜであるか? 速いのである」
ケーテの背に乗れれば、徒歩三時間の道程を五分、十分で移動できる。
効率はとても良い。
「だがな。ケーテ。俺たちの目的地はゴブリンにおびえる村なんだ」
ドラゴンで駆けつけたらおびえるどころではない。
「村から離れた場所でおりればいいのである」
「いや! いや! 念には念を入れた方がいい! 歩いて行こう!」
アリオがここぞとばかりに反対する。
「そうだな。アリオの言うとおりだ」
離れたところに降りればいいというケーテの案は正しいと思う。
だが、アリオもジニーもケーテにまだおびえている。
その状態で遙か上空を飛行するのは酷だ。
ケーテの背は本来人が乗る用には出来ていない。
バランスを取りにくいし、掴めるところも鱗の端などだ。けして掴みやすくはない。
俺がカバーすれば落ちることはなかろうが、ひざが笑い腰が抜けるかもしれない。
そうなれば、ゴブリン退治に支障が出るだろう。