次の日。
俺はガルヴに起こされると、台所へと向かった。
ミルカが、フィリーの助手業務で忙しいので、朝食の準備をするためだ。
「がぁう!」
「はいはい、もう少し待っていなさい」
「ぴぃぃ」
甘えたガルヴが、鼻を鳴らす。
お腹が空いているらしい。
「そういえば、フィリーとミルカは、ちゃんと寝ているのだろうか……」
昨日の夜ご飯も、俺とルッチラ、ニアが作った軽食を、タマが研究室へと持っていった。
ここ数日、タマは散歩やトイレのために、俺たちの所に一日に数度やってくる。
その際に、タマはご飯を食べて、フィリーとミルカの分のご飯を運ぶのだ。
「食事は食べている様子だが……」
「がう」
フィリーとミルカが食べ終わると、軽食を入れておいた籠をもって、タマが戻ってくるのだ。
その籠はきちんと空になっていたし、たまにフィリーとミルカからのお礼の手紙も入っている。
「ちゃんと寝ているならいいんだがなぁ」
「がうぅ」
そんなことを話していると、
「あ、ロックさん! 私がやります」
「すみません、ロックさん、すぐ手伝います」
汗だくのニアとルッチラがやってきた。
「ニア、ルッチラ、おはよう。手伝いはいいから、水でも飲んで着替えて来なさい」
俺はコップに水を入れて、二人に差し出す。
「「ありがとうございます!」」
二人は同時にお礼をいって、水を一気に飲んだ。
「ここ」
そして、ルッチラの頭の上に乗っていたゲルベルガさまが、ガルヴの背に飛び移る。
「ゲルベルガさまもおはよう」
「こぅ」
「すみません、すぐ着替えてきます!」
「ゆっくりでいいから、汗はちゃんと拭きなさい。風邪を引くからな」
ニアとルッチラは早朝から二人で訓練をしていた。
優秀な幻術使いであるルッチラが幻術をだして、それとニアが戦うのだ。
ルッチラにとっては幻術を扱う訓練にもなるし、ニアも実戦に近い訓練を行なうことができる。
非常に有効な訓練と言えるだろう。
ニアとルッチラが走り去ったが、ゲルベルガさまは台所に残った。
「ゲルベルガさまも喉は渇いていないか? 水でも飲むか?」
「ここう」
何を言っているのかはわからない。
だが、きっと喉が渇いているだろうと判断して、水を器に入れて差しだした。
「ここ」
ゲルベルガさまは一声鳴くと、勢いよく水を飲み始めた。
やはり、喉が渇いていたようだ。
「ゲルベルガさま、ご飯の準備はもう少しかかるから待っていてくれ」
「こぅ」
「わふ」
ゲルベルガさまは、ガルヴの上で行儀よくしている。
そして、今のガルヴも行儀がよく見える。
ゲルベルガさまに乗られると、ガルヴが少ししゃんとする気がするのだ。
しばらくすると、ニアとルッチラが戻ってきた。
きちんと汗を拭いて着替えてきたようである。
「ロックさん、後はぼくたちに任せてください!」
「気にするな。どうせ暇だからな」
「なら、私たちは手伝います!」
「そっか。じゃあ、手伝ってもらおうかな」
俺はニアとルッチラと一緒に朝ご飯を作っていく。
作業の途中、ルッチラに尋ねられた。
「これはフィリーさんのですか?」
「そうだよ。パンにおかずを挟むと、研究しながらでも食べやすいからな」
研究しながら食べにくいものだと、フィリーが食べてくれない可能性があるのだ。
「美味しくて、便利で、考えた人は頭が良いですね」
「考えたのは昔の錬金術士らしいぞ」
「そうなんですか?」
「ああ、その錬金術士もフィリーみたいに研究に熱中するタイプだったんだろうさ」
フィリーもそうだが、錬金術士というのは寝食を忘れて研究に没頭する習性があるのかもしれない。
そうでもしなければ、錬金術の秘奥にはたどり着けないと言うことだろうか。
「……錬金術士っていうのは、大変な生き物だよな」
「それを、ロックさんがいいますか」
「む?」
「ロックさんも研究し始めたら、寝食を忘れるって、ゴランさんに聞きました」
「…………そうだっただろうか、いや、だが」
そんなことも、あったような気がしなくもない
「魔法も、錬金術と同じぐらい極めるのは大変なのでは?」
ニアがまっすぐこちらを見て尋ねてくる。
「……かもしれない。人は寿命が短いからな。研究を深化させるには絶対的に時間が足りないんだよ」
錬金術も、魔術も研究には時間がかかりすぎる。
その研究は本来、短命の人間ではなく、悠久の時を生きる竜族の領域なのかもしれない。
「ケーテもああ見えて錬金術の知識が深いからな」
ケーテは風竜王。
そして、風竜は、竜族の中でも文化的に錬金術に長けた一族なのだ。
「フィリーさんは、ケーテさんに手伝ってもらわないのでしょうか?」
ニアの疑問はもっともだ。
「だがまあ、自分でやりたいという気持ちもわからなくもないし」
「そういうものですか」
戦士のニアはいまいち理解できないようで、きょとんとしている。
一方、
「わかります」
魔導士であるルッチラは、共感したようで、うんうんと頷いていた。
そして、朝ご飯が完成したころ、タマがやってきた。