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307 朝の散歩

 フィリーの部屋に残ったタマのために朝ご飯と水を運んでから、俺たちも朝ご飯を食べた。

 食事中、ニアが言う。


「ロックさん、今日は冒険者ギルドに行きませんか!」

「それは、かまわないが、クエストでも受けたいのか?」

「はい。姉上がいないので……」


 ニアは一人でクエストを受けてはいけないと、姉のシアにきつく言われているのだ。

 まだ八才だし、最下級のFランク冒険者だから、当然と言えるだろう。


「じゃあ、行こうか。俺も暇だしな。だが、仕事あるかな」

「そろそろ、ギルドも落ち着いているのではないでしょうか!」


 ニアは嬉しそうに尻尾を振っている。

 次元の狭間の騒動以来、訓練しかしていなかったので、冒険したい欲が溜まっているのだろう。


「ルッチラはどうする?」

「ぼくは留守番しておきます。読みたい本があるので」

「ココ」

「そうだね。フィリー先生とミルカが起きたとき誰も居なかったら寂しがるかもだもんね」

「こぅ」


 ルッチラは、ゲルベルガさまと一緒に留守番してくれるつもりのようだ。


「そっか。そうだな。じゃあ、ルッチラ頼む」

「はい、任せてください!」



 朝食の後、俺はタマを連れ出して散歩に出かける。

 タマはフィリーと一緒にいたがったが、運動も大切だといって説得したのだ。

 そして、ガルヴは当然のようについてくる。


「ガルヴ走るなよ」

「がう〜」


 タマがいるので、王都の中を軽く走るだけである。

 ガルヴが全力で走ったら、タマはついて来られない。

 それに、王都の住民もびっくりするだろう。


「ガルヴは、俺やニアと一緒に冒険者ギルドに行くのか?」

「がう」


 ガルヴは歩きながら、こちらを見て尻尾を勢いよく振っている。

 どうやら、ガルヴは俺とニアと一緒にいくのが当然だと思っているらしい。


「まあ、運動にもなるしな」


 ガルヴは子狼だが、体は大きく霊獣の狼でもある。

 必要な運動量は多い。

 王都の外で、思いっきり走らせてあげることも必要だ。


「タマは思いっきり走っても良いよ」


 そう促してもタマは走らない。


「……わふ」


 タマは心ここにあらずといった感じで、ゆっくり歩いている。

 やはりフィリーが心配らしい。


「タマ、フィリーたちは疲れて眠っているだけだろうし、大丈夫だと思うよ」


 俺はそういって、優しくタマのことを撫でたのだった。




 散歩を終え、屋敷に戻ると、タマはフィリーの部屋へと走って行った。


「ロックさん! 準備できてます!」

 ニアは準備万端で待機していた。


「うん、そうだな、行こうか」

「いってらっしゃい」

「ココ」


 ルッチラとゲルベルガさまに見送られて俺はニアと一緒に冒険者ギルドに向かう

 出発間際、念のために俺はルッチラに言う。


「タマのことも心配だから気をつけてやってくれ」

「はい。とりあえず、水を持っていきます」


 タマは水を飲まずにフィリーの部屋に走って行ったのだ。

 散歩中、タマはあまり激しい運動はしていなかった。

 だが、歩いたのだ。喉ぐらい渇いているだろう。


「そうしてやってくれ。あと、もし何かあれば、レフィを頼れ」

「わかりました」


 レフィはエリックの妻、つまりメンディリバル王国の王妃である。

 そして当代一の治癒術士でもある。

 今、レフィは忙しくしているはずだが、何かあれば助けてくれるだろう。


「まあ、大丈夫だろうが」


 レフィに頼るような事態にはなるまい。


「ココ」

「ゲルベルガさま、フィリーとミルカとタマを頼む」

「ココゥ」


 そして、俺とニアとガルヴは冒険者ギルドに向けて歩いて行く。


「ロックさん、随分と心配してますね」

「普通に考えたら、心配しなくていいんだが……」


 フィリーとミルカが研究に熱中しすぎて、徹夜した結果、寝落ちしただけだ。

 むしろフィリーを心配するタマがご飯を食べなくなったりすることの方が心配である。


「何か気になることがあるのです?」

「特には無いんだが……」


 フィリーたちが解析していた素材類にも特に怪しい点はない。

 フィリーたち自身からも、魔術的何かを感じなかった。

 病気に関しては、俺の専門外なのでわからないが、少なくとも魔法の悪影響は受けていない。


「ゲルベルガさまが、フィリーたちを見てからずっと緊張気味だったのが少しな」


 ゲルベルガさまは神鶏なのだ。

 俺たちの気付かないことにも気付くかもしれない。


「ゲルベルガさまは、フィリー先生とミルカの寝不足を心配されていたのでは?」

「そうかもしれないな」


 むしろそう考えるのが自然だ。杞憂に過ぎないと思う。

 俺もそう考えたからこそ、冒険者ギルドに向かっているのだ。


「ま、病気になっていたとしたら、レフィがなんとかしてくれるだろ」

「そうですね!」

「がぁう!」


 ガルヴはとにかく楽しいといった感じで、俺とニアの周囲をぐるぐる回りながら尻尾を振っていた。

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