俺とニアとガルヴは、しばらく歩いて冒険者ギルドに到着する。
「いい依頼があるといいですね!」
そう言いながらニアは、嬉しそうにギルドの建物の中へと入っていった。
「がう〜」
ガルヴは楽しそうなニアを見て、一層楽しくなったのだろう。
尻尾をを元気に振って、ニアの後について建物の中へと入っていく。
そんなニアとガルヴに続いて俺も建物の中に入る。
ギルドの建物の中には、大勢の冒険者たちがいた。
「混んでますね」
「はっはっ」
沢山の人間を見て、ガルヴは興奮気味だ。
人を見ても、怖がったりはしないのだ。
「どんな依頼が……あれ?」
「がう?」
いつも依頼が貼られている掲示板を見たニアが首をかしげる。
「貼られてないです」
「王都付近の魔物が減って、依頼自体が少ないんだろうな」
依頼が少ないと言うことは、仕事が足りないということ。
つまり冒険者たちは暇なのだ。
暇ということは、財布の中身も心許なくなっていく。
冒険者というのは、死と隣り合わせの職業だ。
貯金などしている方が珍しい。
だから、数少ない依頼は貼られた瞬間に受注されるのだろう。
そして、受注できなかった冒険者たちは次に依頼が貼られるのをじっと待っているのだ。
そうした待機冒険者たちで、建物内は一杯だ。
「こうなると、俺たちが依頼を引き受けるのは難しいかもな」
数少ない依頼は取り合いになるだろう。
依頼は基本的に早い者勝ちだ。
とはいえ、俺たちのように後から来た奴が、さっと横から取ったら喧嘩になりかねない。
そして何より、俺たちは生活に困っていない。
そんな俺たちが生活に困っている冒険者たちと仕事の取り合いをするのはどうかと思うのだ。
「そうですね……」
「ぁぅ」
ニアがしょんぼりして、尻尾がしなしなと力なくたれる。
それを見たガルヴもしょんぼりして、耳が元気なくぺたんとなった。
「ま、そのうち魔物も増えるだろうさ」
そうなれば、依頼も増えるだろう。
今は一時的に王都周辺の魔物が激減しているだけなのだ。
「はい」
「……ゎぅ」
「仕方が無いし、王都の外を散歩でもするか」
「! わう!?」
散歩という言葉で、ガルヴの尻尾が元気よく揺れ始めた。
先ほどタマと一緒にした散歩では、ガルヴは満足できなかったのだろう。
「そうですね」
ニアの尻尾もゆっくり揺れていた。
散歩に行くために冒険者ギルドの建物を出ると、
「あ、ロックさんとニアじゃないか。依頼の受注かい?」
「ロックさん、おはようございます。ニアさんも」
アリオとジニーの兄妹に出会った。
「おはよう。そのつもりだったんだが」
「人がたくさんで、依頼も一つも無かったです」
「やっぱりそうか」
「私たちも一応依頼チェックに来たんですが、必要なさそうですね」
「ここ数日は、ずっとそうなんだよな」
アリオはそういって、頭をかく。
「アリオたちも、依頼を探しに?」
「そうなんです。でも、最近は魔鼠退治もゴブリン退治も大人気で」
「下水道の魔鼠が絶滅するんじゃないかって勢いだよ」
いつもなら、魔鼠やゴブリン退治はアリオたちFランク冒険者が受注する。
それ以外の冒険者は見向きもしない。
報酬がしょぼいからだ。
だが、今ではEランクどころかDランク冒険者たちですら、魔鼠退治に精を出しているという。
みんなお金がないのだろう。
「冒険者たちも、少しは貯金すべきだよな」
「はい。私も気をつけます!」
そう言ったニアは真剣な表情だった。
「アリオとジニーは困ってないか?」
「俺たちは、報奨金があるからさ」
「はい。しばらくは大丈夫です」
「そっか。それならいいんだが……」
アリオとジニーは次元の狭間が開いた事件解決に手を貸したということで褒美をもらったのだ。
「何か困ったことがあれば、うちに来てくれ」
「ありがとう。なんかあればな!」
「ロックさんたちは、これからどうされるんですか?」
「依頼も受けられなかったし、王都の外でガルヴの散歩の予定だよ」
「がぅ!」
ガルヴは尻尾を振って、アリオとジニーの手の臭いを嗅いで回っている。
本当は飛びつきたいのだろう。
だが、俺とケーテ以外には飛びつくなと教えたので、それを守っているのだ。
とても賢くて良い子な子狼である。
「散歩か。いいな」
「今日は天気も良いですし、散歩も気持ちよさそうです」
アリオとジニーはガルヴの頭を優しく撫でた。
ガルヴもご機嫌に尻尾を振っている。
「ジニーさんとアリオさんもご一緒にどうですか? ね、ロックさん」
「ああ、暇なら一緒にどうだ?」
「いいのか?」
「是非、ご一緒させてください」
暇そうなアリオとジニーを連れて、王都の外に向かうことになった。