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309 アリオとジニー

 王都の外に出ると、ガルヴは激しく尻尾を振りながらこちらをみる。


「がぁうがぅ」

「走って良いよ」

「がう!」


 ガルヴはすごい勢いで走り出す。

 それをニアは全力で追いかける。

 ガルヴの方が速いので、単純な追いかけっこでは、ニアはついていけない。

 だが、ガルヴは蛇行したり、急に逆方向に切り返したりするので、なんとかニアはついていける。


 そんなニアとガルヴの様子をみて、アリオは目を見開いた。

「……速いな」

「ガルヴは足が速いんだよ。ニアも子供とはいえ、身体能力の高さで有名な狼の獣人族だからな」

「さすがだなぁ」

「ま、まさか、散歩って……」

 ジニーは頬を引きつらせている。


「いや、別にガルヴと並走するわけじゃないから、安心してくれ」

「よかったです」

「軽く走って、ゆっくりついていこう」

「はい」


 そして、俺とアリオとジニーは小走りで、ニアとガルヴを追いかけた。

 走りながら、俺はジニーに尋ねる。


「ジニーはスカウトだろう?」

「はい。初心者ですが」

「ギルドから調査依頼きてないのか?」

「私のような下級スカウトには、来ないみたいです」

「やっぱりそうなのか」


 俺とジニーの会話を聞いていたアリオが言う。


「ジニーの腕前、というより、パーティー全体の、力不足だと、俺は、思うな」


 走りながらなので、アリオの息はすこしだけ荒くなっている。

 話しにくそうだ。


「スカウトを護衛するパーティの能力ってことか?」

「そう。スカウトが、調査している、間、他の、パーティー、メンバーは、スカウトを、守らないと。……いけないだろうし」

「魔物の数が激減しているとは言え、まあ、それはそうかもしれないな」


 調査対象の地域は、まだ魔物が潜んでいる危険性の高い地域なのだ。


「二人、パーティー、だと、どうしても、な。それに、俺の、魔導士、としての、実力も、……大したこと、ないし」


 妹のジニーがスカウトで、兄のアリオが魔導士なのだ。


「そんな卑下するな二人ともかなり強くなってきていると思うぞ」


 二人とも、若いのに優秀な部類だと思う。


「そう、いって、……もらえる、と、はげ、みに、……なるよ」


 小走りで少し走っただけなのに、アリオの息はどんどん上がっていく。


「少し休憩するか」

 俺は歩きに切り替える。


「はい。お兄ちゃん水飲む?」

「たすかる」


 アリオは息が上がっているが、ジニーの方はそうでもない。

 ジニーは元々狩人だった。

 野山を駆けまわって動物を追いかけ回していただけあって、体力はあるようだ。


「アリオは体力をつけたほうがいいかもな」

「そうだな。……だけど、ロックさんは、軽く走るって言ってたけど、速いな」

「そうか?」

「速かったです。私もついていくのが大変でした」

「ジニーまで、そういうってことは速すぎたみたいだな」


 小走りしていたつもりだったが、速かったようだ。


 最近一緒に行動していたエリックやゴラン、ケーテは足が速い。

 セルリス、シア、ガルヴたちも足が速い。

 だから、小走りの基準が速くなってしまったようだ。


 俺たちはゆっくり歩く。

 それにガルヴとニアも気がついた。

 まっすぐ走らないで、ぐるぐる回ったりし始めた。

 俺たちが追いつくのを、待ってくれる気なのだろう。


「……ロックさん」

「ん?」

「聞きたいことがあるんだけど」


 アリオの息も大分整ったようだった。


「なんでも聞いてくれ」

「…………ロックさんって王様と仲いいのか?」


 次元の狭間が王都に開いた事件の際、アリオたちには、俺がエリックを呼び捨てしているのを見られている。

 そのとき俺は「まあ、いろいろな。後で話すこともあるだろう」みたいなことを言ったのだ。


「国王陛下とは、仲が良いよ。王様になる前からの仲間だ」

「……そっか」


 アリオは真剣な表情で黙り込む。

 何かを考えているようだ。


 アリオの考えがまとまるのを待っていると、

「あのロックさん! 私とお兄ちゃんで考えたんですけど」

「ん?」

「私はロックさんが貴族、それも大貴族だと思いました。お兄ちゃんは——」

「俺は、ロックさんは特殊な任務を受けた王の勅使? みたいなものだと思った」

「なるほど」


 二人の予想は両方とも正解である。とても鋭い。


「そうだな、まあ——」

 正解だと伝えようとしたのだが、ジニーが少し慌てた様子で言う。

「合っているか間違っているか、教えてくれなくて大丈夫です」

「ああ、どっちが正解にしろ、両方不正解にしろ、ロックさんは正体を隠しているんだろう?」


 それも正解である。


「大貴族なら冒険者しているのがおかしいですし。何か事情があるのでしょうし……」

「そうだな。後継者争いとか、親との関係がうまくいっていないとか」

「それは——」

「いやいい! 何も言わなくていい」

「特命を受けた王の勅使なら、それこそ正体は明かせないでしょうし……」

「そうそう。教えてもらおうとは思わないさ。闇の仕事とかもあるだろうし」


 アリオとジニーは誤解はしている。

 だが、俺に配慮してくれていうことは、伝わってきた。

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