王都の外に出ると、ガルヴは激しく尻尾を振りながらこちらをみる。
「がぁうがぅ」
「走って良いよ」
「がう!」
ガルヴはすごい勢いで走り出す。
それをニアは全力で追いかける。
ガルヴの方が速いので、単純な追いかけっこでは、ニアはついていけない。
だが、ガルヴは蛇行したり、急に逆方向に切り返したりするので、なんとかニアはついていける。
そんなニアとガルヴの様子をみて、アリオは目を見開いた。
「……速いな」
「ガルヴは足が速いんだよ。ニアも子供とはいえ、身体能力の高さで有名な狼の獣人族だからな」
「さすがだなぁ」
「ま、まさか、散歩って……」
ジニーは頬を引きつらせている。
「いや、別にガルヴと並走するわけじゃないから、安心してくれ」
「よかったです」
「軽く走って、ゆっくりついていこう」
「はい」
そして、俺とアリオとジニーは小走りで、ニアとガルヴを追いかけた。
走りながら、俺はジニーに尋ねる。
「ジニーはスカウトだろう?」
「はい。初心者ですが」
「ギルドから調査依頼きてないのか?」
「私のような下級スカウトには、来ないみたいです」
「やっぱりそうなのか」
俺とジニーの会話を聞いていたアリオが言う。
「ジニーの腕前、というより、パーティー全体の、力不足だと、俺は、思うな」
走りながらなので、アリオの息はすこしだけ荒くなっている。
話しにくそうだ。
「スカウトを護衛するパーティの能力ってことか?」
「そう。スカウトが、調査している、間、他の、パーティー、メンバーは、スカウトを、守らないと。……いけないだろうし」
「魔物の数が激減しているとは言え、まあ、それはそうかもしれないな」
調査対象の地域は、まだ魔物が潜んでいる危険性の高い地域なのだ。
「二人、パーティー、だと、どうしても、な。それに、俺の、魔導士、としての、実力も、……大したこと、ないし」
妹のジニーがスカウトで、兄のアリオが魔導士なのだ。
「そんな卑下するな二人ともかなり強くなってきていると思うぞ」
二人とも、若いのに優秀な部類だと思う。
「そう、いって、……もらえる、と、はげ、みに、……なるよ」
小走りで少し走っただけなのに、アリオの息はどんどん上がっていく。
「少し休憩するか」
俺は歩きに切り替える。
「はい。お兄ちゃん水飲む?」
「たすかる」
アリオは息が上がっているが、ジニーの方はそうでもない。
ジニーは元々狩人だった。
野山を駆けまわって動物を追いかけ回していただけあって、体力はあるようだ。
「アリオは体力をつけたほうがいいかもな」
「そうだな。……だけど、ロックさんは、軽く走るって言ってたけど、速いな」
「そうか?」
「速かったです。私もついていくのが大変でした」
「ジニーまで、そういうってことは速すぎたみたいだな」
小走りしていたつもりだったが、速かったようだ。
最近一緒に行動していたエリックやゴラン、ケーテは足が速い。
セルリス、シア、ガルヴたちも足が速い。
だから、小走りの基準が速くなってしまったようだ。
俺たちはゆっくり歩く。
それにガルヴとニアも気がついた。
まっすぐ走らないで、ぐるぐる回ったりし始めた。
俺たちが追いつくのを、待ってくれる気なのだろう。
「……ロックさん」
「ん?」
「聞きたいことがあるんだけど」
アリオの息も大分整ったようだった。
「なんでも聞いてくれ」
「…………ロックさんって王様と仲いいのか?」
次元の狭間が王都に開いた事件の際、アリオたちには、俺がエリックを呼び捨てしているのを見られている。
そのとき俺は「まあ、いろいろな。後で話すこともあるだろう」みたいなことを言ったのだ。
「国王陛下とは、仲が良いよ。王様になる前からの仲間だ」
「……そっか」
アリオは真剣な表情で黙り込む。
何かを考えているようだ。
アリオの考えがまとまるのを待っていると、
「あのロックさん! 私とお兄ちゃんで考えたんですけど」
「ん?」
「私はロックさんが貴族、それも大貴族だと思いました。お兄ちゃんは——」
「俺は、ロックさんは特殊な任務を受けた王の勅使? みたいなものだと思った」
「なるほど」
二人の予想は両方とも正解である。とても鋭い。
「そうだな、まあ——」
正解だと伝えようとしたのだが、ジニーが少し慌てた様子で言う。
「合っているか間違っているか、教えてくれなくて大丈夫です」
「ああ、どっちが正解にしろ、両方不正解にしろ、ロックさんは正体を隠しているんだろう?」
それも正解である。
「大貴族なら冒険者しているのがおかしいですし。何か事情があるのでしょうし……」
「そうだな。後継者争いとか、親との関係がうまくいっていないとか」
「それは——」
「いやいい! 何も言わなくていい」
「特命を受けた王の勅使なら、それこそ正体は明かせないでしょうし……」
「そうそう。教えてもらおうとは思わないさ。闇の仕事とかもあるだろうし」
アリオとジニーは誤解はしている。
だが、俺に配慮してくれていうことは、伝わってきた。