俺は足をとめると、アリオとジニーに頭を下げた。
「色々とありがとう」
「いつも助けられているのは俺たちの方だからな」
「ロックさんは、私たちの命の恩人ですから」
「それに、長生きするには、知りすぎないほうがいいっていうしな」
そう冗談ぽくいうと、アリオとジニーは楽しそうに笑った。
その後、しばらく歩いて、ニアとガルヴがじゃれ合っている場所へと向かう。
ニアとガルヴに合流し、ニアたちに水を飲ませて、休憩する。
「がう!」
すると、ガルヴが上を見て吠えた。同時に、ケーテが急降下してきた。
どうやら、ケーテは空を飛んでいて、俺たちに気付いたようだ。
「ロック! いいところにいたのである!」
「があぅがうがうがう」
ガルヴは大喜びで、巨大なケーテにじゃれつきはじめた。
ぴょんぴょんと後ろ足でジャンプしている。
ガルヴは大きいので中々思いっきり飛びつける相手がいない。
だからうれしいのだろう。
「ガルヴ、今日も元気であるなぁ」
「がうがぁう」
「ニアとアリオとジニーも元気そうである」
「ケーテさん、おはようございます」
ニアはケーテに会えたことがうれしいのか、尻尾を元気に揺らしていた。
「ケーテさんは、相変わらずでかいな」
「今日も立派ですね」
アリオとジニーは、巨大な竜の姿に少し頬を引きつらせている。
なぜかわからないが、ケーテは背中に馬が引く荷台を乗せていた。
「ケーテ、それ……」
「さすが、ロックさんのお友達だな。……多分、王家に連なる大貴族の秘密の庶子」
「ううん、きっと王の密命で出会ったのだと思う」
アリオとジニーは、ケーテの背の荷台に気付かない様子だ。
竜を見慣れていないから、奇行を見ても、竜ならそんなものかと思うのかも知れなかった。
「……まあいいか。ケーテ。水竜の里からの帰りか?」
「うむ。モーリスとモルスを送っていったついでに、水竜の里でのんびり遊んでいたのである!」
モーリスは水竜の王族にして、侍従長。モルスはモーリスの息子である。
モーリスもモルスも、次元の狭間が開いた事件の際、王都防衛のために大活躍してくれた。
「そっか、リーアは元気だったか?」
リーアは水竜の王太女だ。
水色の髪のとても可愛らしい少女である。
「うむ。リーアは元気であったぞ。ロックに会いたがっていたのである」
「そっか。どうせ暇だし、遊びに行くのもありかも」
「みんなも喜ぶのだ。なにしろ、リーアから、いや、水竜たち皆からロックの活躍を聞かせろとせがまれてな! 毎日、毎日話していたのである」
「そ、そうか」
下手に尾ひれが付いて、伝わってなければ良いのだが。
それだけが心配だ。
「お、ガルヴ、水を飲んでいるんだな」
「ケーテさんもどうですか?」
「いただくのだ、ニアは気が利くのであるなー」
そういうと、ケーテは近くの茂みに走って行き、荷台を置くと人型になって戻ってきた。
巨大な竜のまま水を飲むとなると、大量の水、小さめの池一杯の水が必要になるだろう。
だから小さな人型に戻ったのだ。
「うまいうまい! うまいのである」
ケーテは、ニアから受け取った水をごくごくと飲み干した。
「ケーテ、俺の家に遊びに来るつもりだったんだろう? せっかくだし一緒に行くか」
「もちろん、ロックの家に遊びに行く予定だったのである」
ケーテは右手でコップを持ち、左手でじゃれつくガルヴをなで回している。
「ケーテ、聞きたいことがあるんだが」
「なんであるか?」
「あの荷台はなんだ? 水竜の里のお土産か?」
「違うのである。途中の村で、芋を買ってきたのだ」
「荷台一杯か?」
「うむ。美味しい芋なのだ。みんなにわけてやるのである」
そう言ってケーテは尻尾を激しく上下に振った。
「がうがう!」
その尻尾にガルヴが楽しそうにじゃれついている。
「ケーテさん。どうして芋を?」
ニアの疑問はもっともだ。別に芋が旬の季節でも無い。
それに、王都に行けば、芋は売っているのだ。
「それはだな。我は遺跡を巡りながら、のんびり戻ってきたのだ」
ケーテは遺跡保護委員会の書記局長だ。
遺跡巡りぐらいするだろう。
「遺跡の近くで大きな落石があったらしくてだな。遺跡保護のためにその岩をどかしたのだ」
「へー。真面目に活動しているんだな」
「我はいつも真面目なのだ。それで岩をどかしたら村人に感謝されたのだ」
「そのときケーテは竜の姿だったんだろう? 怯えられたんじゃ無くて感謝されたのか?」
「うむ、感謝されたのだ。岩のせいで道がふさがっていて大変だったとかで」
「良いことをしたな」
「うむ! そして、お礼にこの芋をもらったのだ!」
怯えた村人が差し出したお供え物なのではないかと俺は思った。
だが、そんなことをいえば、ケーテが悲しむ。
「ニア! 世の中には芋というものがあってだな。焼いたらとても甘くてうまいのだぞ」
当然、ニアも芋のことを知っている。
というか、俺の屋敷の夜ご飯で芋が出たこともある。
ちなみに、そのときニアもケーテもちゃんといた。
だが、調理されていたので、ケーテは芋の存在に気付かなかったのだろう。
だから、ニアが芋のことを知らないと誤解しているのだ。
それに、ケーテのいう「芋」は、芋を丸ごと焼いた焼き芋のことに違いない。
「そ、そうなんですね」
「うむ! こんど食べさせてあげるだ」
「楽しみです」
ニアとケーテは尻尾を振る。
「だが、ケーテ。その芋は甘いタイプの芋じゃ無いぞ?」
「え? 甘くない芋があるのであるか?」
「これはジャガ芋だな。焼いてもうまいが、おやつというよりご飯だな」
ジャガ芋を主食にしている地域もあったはずだ。
「ジャガ……? でも芋は芋であろ?」
「芋にはたくさん種類があるんですよ」
ジニーに優しく教えられて、ケーテはしょんぼりした。
「そ、そうだったのか」
ケーテは人族の街に遊びに来るようになってからまだ日が浅い。
人族が食べる芋の種類に詳しくなくても仕方の無いことだろう。
「ケーテさんは、どのような芋だと思っていたのですか?」
「えーっと、王都の屋台で売ってた、あの焼いた芋なのだ」
「それなら、多分
「ああ、甘藷だな。甘藷はあまり花は付けないかな」
「……そうだったのか」
「……がぅ」
ケーテがしょんぼりしたので、ガルヴもしょんぼりする。
「まあ、ケーテ、甘藷は旨いが、ジャガ芋も旨いぞ?」
「そうですよ! 焼いてバターとかのせると凄く美味しいですよ」
「私もジャガ芋好きです!」
ジニーとニア二そう言われて、
「そうか? そっかー」
「がぁう!」
ケーテは元気になり、ガルヴも一緒に元気になった。