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310 ケーテと芋

 俺は足をとめると、アリオとジニーに頭を下げた。


「色々とありがとう」

「いつも助けられているのは俺たちの方だからな」

「ロックさんは、私たちの命の恩人ですから」

「それに、長生きするには、知りすぎないほうがいいっていうしな」


 そう冗談ぽくいうと、アリオとジニーは楽しそうに笑った。



 その後、しばらく歩いて、ニアとガルヴがじゃれ合っている場所へと向かう。

 ニアとガルヴに合流し、ニアたちに水を飲ませて、休憩する。


「がう!」


 すると、ガルヴが上を見て吠えた。同時に、ケーテが急降下してきた。

 どうやら、ケーテは空を飛んでいて、俺たちに気付いたようだ。


「ロック! いいところにいたのである!」

「があぅがうがうがう」


 ガルヴは大喜びで、巨大なケーテにじゃれつきはじめた。

 ぴょんぴょんと後ろ足でジャンプしている。

 ガルヴは大きいので中々思いっきり飛びつける相手がいない。

 だからうれしいのだろう。


「ガルヴ、今日も元気であるなぁ」

「がうがぁう」

「ニアとアリオとジニーも元気そうである」

「ケーテさん、おはようございます」

 ニアはケーテに会えたことがうれしいのか、尻尾を元気に揺らしていた。


「ケーテさんは、相変わらずでかいな」

「今日も立派ですね」


 アリオとジニーは、巨大な竜の姿に少し頬を引きつらせている。

 なぜかわからないが、ケーテは背中に馬が引く荷台を乗せていた。


「ケーテ、それ……」

「さすが、ロックさんのお友達だな。……多分、王家に連なる大貴族の秘密の庶子」

「ううん、きっと王の密命で出会ったのだと思う」


 アリオとジニーは、ケーテの背の荷台に気付かない様子だ。

 竜を見慣れていないから、奇行を見ても、竜ならそんなものかと思うのかも知れなかった。


「……まあいいか。ケーテ。水竜の里からの帰りか?」

「うむ。モーリスとモルスを送っていったついでに、水竜の里でのんびり遊んでいたのである!」


 モーリスは水竜の王族にして、侍従長。モルスはモーリスの息子である。

 モーリスもモルスも、次元の狭間が開いた事件の際、王都防衛のために大活躍してくれた。


「そっか、リーアは元気だったか?」


 リーアは水竜の王太女だ。

 水色の髪のとても可愛らしい少女である。


「うむ。リーアは元気であったぞ。ロックに会いたがっていたのである」

「そっか。どうせ暇だし、遊びに行くのもありかも」

「みんなも喜ぶのだ。なにしろ、リーアから、いや、水竜たち皆からロックの活躍を聞かせろとせがまれてな! 毎日、毎日話していたのである」

「そ、そうか」


 下手に尾ひれが付いて、伝わってなければ良いのだが。

 それだけが心配だ。


「お、ガルヴ、水を飲んでいるんだな」

「ケーテさんもどうですか?」

「いただくのだ、ニアは気が利くのであるなー」


 そういうと、ケーテは近くの茂みに走って行き、荷台を置くと人型になって戻ってきた。

 巨大な竜のまま水を飲むとなると、大量の水、小さめの池一杯の水が必要になるだろう。

 だから小さな人型に戻ったのだ。


「うまいうまい! うまいのである」

 ケーテは、ニアから受け取った水をごくごくと飲み干した。


「ケーテ、俺の家に遊びに来るつもりだったんだろう? せっかくだし一緒に行くか」

「もちろん、ロックの家に遊びに行く予定だったのである」


 ケーテは右手でコップを持ち、左手でじゃれつくガルヴをなで回している。


「ケーテ、聞きたいことがあるんだが」

「なんであるか?」

「あの荷台はなんだ? 水竜の里のお土産か?」

「違うのである。途中の村で、芋を買ってきたのだ」

「荷台一杯か?」

「うむ。美味しい芋なのだ。みんなにわけてやるのである」


 そう言ってケーテは尻尾を激しく上下に振った。

「がうがう!」

 その尻尾にガルヴが楽しそうにじゃれついている。


「ケーテさん。どうして芋を?」


 ニアの疑問はもっともだ。別に芋が旬の季節でも無い。

 それに、王都に行けば、芋は売っているのだ。


「それはだな。我は遺跡を巡りながら、のんびり戻ってきたのだ」


 ケーテは遺跡保護委員会の書記局長だ。

 遺跡巡りぐらいするだろう。


「遺跡の近くで大きな落石があったらしくてだな。遺跡保護のためにその岩をどかしたのだ」

「へー。真面目に活動しているんだな」

「我はいつも真面目なのだ。それで岩をどかしたら村人に感謝されたのだ」

「そのときケーテは竜の姿だったんだろう? 怯えられたんじゃ無くて感謝されたのか?」

「うむ、感謝されたのだ。岩のせいで道がふさがっていて大変だったとかで」

「良いことをしたな」

「うむ! そして、お礼にこの芋をもらったのだ!」


 怯えた村人が差し出したお供え物なのではないかと俺は思った。

 だが、そんなことをいえば、ケーテが悲しむ。


「ニア! 世の中には芋というものがあってだな。焼いたらとても甘くてうまいのだぞ」


 当然、ニアも芋のことを知っている。

 というか、俺の屋敷の夜ご飯で芋が出たこともある。

 ちなみに、そのときニアもケーテもちゃんといた。

 だが、調理されていたので、ケーテは芋の存在に気付かなかったのだろう。

 だから、ニアが芋のことを知らないと誤解しているのだ。


 それに、ケーテのいう「芋」は、芋を丸ごと焼いた焼き芋のことに違いない。


「そ、そうなんですね」

「うむ! こんど食べさせてあげるだ」

「楽しみです」


 ニアとケーテは尻尾を振る。


「だが、ケーテ。その芋は甘いタイプの芋じゃ無いぞ?」

「え? 甘くない芋があるのであるか?」

「これはジャガ芋だな。焼いてもうまいが、おやつというよりご飯だな」


 ジャガ芋を主食にしている地域もあったはずだ。


「ジャガ……? でも芋は芋であろ?」

「芋にはたくさん種類があるんですよ」


 ジニーに優しく教えられて、ケーテはしょんぼりした。

「そ、そうだったのか」


 ケーテは人族の街に遊びに来るようになってからまだ日が浅い。

 人族が食べる芋の種類に詳しくなくても仕方の無いことだろう。


「ケーテさんは、どのような芋だと思っていたのですか?」

「えーっと、王都の屋台で売ってた、あの焼いた芋なのだ」

「それなら、多分甘藷かんしょですね」

「ああ、甘藷だな。甘藷はあまり花は付けないかな」

「……そうだったのか」

「……がぅ」


 ケーテがしょんぼりしたので、ガルヴもしょんぼりする。


「まあ、ケーテ、甘藷は旨いが、ジャガ芋も旨いぞ?」

「そうですよ! 焼いてバターとかのせると凄く美味しいですよ」

「私もジャガ芋好きです!」


 ジニーとニア二そう言われて、

「そうか? そっかー」

「がぁう!」

 ケーテは元気になり、ガルヴも一緒に元気になった。

































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