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311 襲撃

 休憩が終わると、ケーテは荷台を引いて歩いて行く。

 巨大な竜の状態でケーテが王都に近づけば騒ぎになる。

 だからどうせ、遠くで降りて歩いて行くことになるのだ。


 みんなで静かに歩いていると、

「うおっ」

 突然、昏き神の加護に襲われた。

 何の前触れも無かった。激しい頭痛に襲われる。


 ——ガガガガガガガガガ


 直後に、大量の魔法の槍が降り注いできた。


「……あいつらは本当にこの戦術しか知らないのか」


 以前、同じような攻撃を受けた覚えがある。

 それもアリオとジニーも一緒のときだった。


 ワンパターンだが、有効なのは間違いない。

 敵が多用する気持ちもわからなくは無かった。


「ひぃ」

「危ない」


 俺はアリオジニー、ニアを守るための魔法障壁を展開する。

 アリオは悲鳴を上げながらもジニーを抱き寄せてかばった。

 そして、ジニーはニアを抱き寄せる。


「うお? 攻撃であるか?」

「ガウ!」


 俺たちから少し離れてたところで、荷台を引いていたケーテとその隣にいたガルヴは攻撃を受けていない。

 そもそも、昏き神の加護の中に入っていないのだ。

 俺は魔法で周囲を探索し、術者の位置を探りながらケーテに言う。


「昏き神の加護の外で待機してくれ!」

「わかったのだ!」

「外から、敵とコアを探してくれ」

「うむ」


 コアとは、昏き神の加護の中心にある魔道具のことだ。

 それさえ壊せば、昏き神の加護は消える。


 前回、敵は昏き神の加護も使って俺たちに攻撃を仕掛けてきたのだ。

 昏き神の加護の中では、人族や竜族などは強い者ほど悪影響を受ける。

 全身が痛くなり、力を出せなくなり、魔力も抑えられてしまう。


 だが、昏き神の加護も中心ほど威力は弱くなる。

 俺とケーテの距離が離れていれば、それだけ、互いにフォローしやすくなるのだ。


 俺は昏き神の加護のコアと術者を魔法で探る。


「ふふ。そう警戒するな。そなたたちを殺そうとしているわけではない」


 魔法の槍が止まると、頭上から一匹のヴァンパイアらしき男が降りてくる。

 だが、俺の頭より高い位置、俺たち全員を見下ろす位置で止まった。


 気配から言えば、ヴァンパイアロードだろうか。

 いや、ハイロードかもしれない。

 どちらにしろ、けして弱くない昏き者だ。


「ん? こんなところに何のようだ? 殺して欲しいのか?」

「そう殺気立つな。何も戦うつもりはない」


 そいつは余裕あふれた表情を浮かべている。


「はあああああ!」

 ケーテの強力な風の魔法攻撃が、ヴァンパイアに直撃する。


「やったであるか?」

「縁起の悪いことを言うな」


 術者がやったかどうかわからないとき、大概やれていないものだ。

 とはいえ、風竜王の、強力な風魔法攻撃が、まともに入ったのだ。

 ヴァンパイアハイロードでは耐えられまい。

 たとえ真祖でも無傷では済むまい。


「ん? なにかしたのか?」

 だが、風埃が収まると、そのヴァンパイアは何事も無かったように、同じ場所に浮かんでいた。


「っ!」


 ケーテの驚く気配が伝わってくる。


「ま、魔法の槍で奇襲しておいて、戦うつもりはないとか、負け惜しみなのである」


 動揺を隠して叫ぶケーテの言葉にも、そのヴァンパイアは表情を変えない。


「目的の人物か確かめるためのものだ。攻撃と言うほどの威力でも無かっただろう?」


 充分に威力は高かった。

 並の冒険者なら、いや一流の冒険者パーティでも奇襲で受ければ全滅しかねない威力だ。


「で、目的の人物は見つかったのか?」

「ああ、お前だ」


 そういうと、俺を見てそいつは嬉しそうに笑う。


「なに、お前に危害を加えようとするのではない。耳寄りな情報を持ってきてやったのだ」

「聞かせろ」


 俺がそういった瞬間、ヴァンパイアは一瞬微笑んだ。

 一瞬に生じた完全なる隙。

 その隙をついて、俺は飛び上がると、そのヴァンパイアを魔神王の剣で切り裂いた。

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