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313 王都へ戻ろう

「念のために連絡するか。ちょっと待っていてくれ」


 俺は通話の腕輪を起動した。

 連絡を取る対象は、エリックとゴランだ。


「忙しいところすまない。少し良いか?」

『忙しいが、構わないよ』

『おお、どうした? もちろん、暇じゃないが、別に良いぞ』


 忙しいだろうに、エリックもゴランも、すぐに通話に出てくれた。


「今、アリオとジニーと一緒にガルヴ散歩に王都に外に来ているんだが——」


 まずは、アリオたちが一緒にいると伝えておく。

 アリオたちは俺とエリックとゴランが仲が良いのは知っている。

 だが、ラックであることは知らないのだ。

 アリオたちといることを教えておかないと、エリックたちがラックと俺のことを呼びかねない。


「突然、昏き神の加護に包まれて、ヴァンパイアっぽい奴に襲われた」

『なに? 昏き神の加護だと?』

『いや、ちょっと待て、それよりヴァンパイアぽい奴って何だ? ヴァンパイアじゃねーのか?』

「俺とケーテはヴァンパイアだと思った。だが、ニアがヴァンパイアではないという」

『それならば、ヴァンパイアではないだろうな』

「ああ。それに俺の剣で斬っても、全く手応えが無かった」


 俺の剣と言えば、魔神王の剣だと言うことが伝わるだろう。


『なんだそいつは?』

「わからん。だが、ヴァンパイアそっくりにみえるが、ヴァンパイアではない奴だ。しかも瞬時に消える」

『霧化でもなくってことだよな?』

「そういうことだ」

『全くわからんな』

「ああ、そして、そいつが気になることを言っていたんだが……」


 俺はヴァンパイアもどきの発言を伝えた。


『大切な物が目覚めるだろうかって、誰か寝てるのか?』

「家を出るとき、フィリーとミルカは寝ていた。だが異常性は全く感じなかったな」


 徹夜で寝落ちしているようにしか見えなかったと伝えておく。


『……ううむ。フィリーとミルカを起こしてたしかめるしかなかろう。王宮にいるレフィに頼もう』

「そうしてくれると助かる」


 王宮から俺の家には秘密通路がつながっている。

 レフィは俺の家へ速やかに移動できるだろう。


 通話の腕輪の向こうから、エリックが言う。


『ロック。とりあえず王都に戻ってきてくれ。なるべく早くレフィに屋敷へと言ってもらうから一緒に対応を頼む』

「わかった」


 会話を聞いていたアリオとジニーは顔を青ざめさせて、引きつらせた。

 ケーテの背に乗ることになるかもしれないと考えて、恐怖を感じているのだろう。

 命綱もつけずにそこらにある山より高い位置を高速で移動するのだ。

 高い場所を、揺れる背に乗って、強烈な向かい風に襲われながら進む。

 怖くない方がおかしい。


「アリオ、ジニー、すまないんだが……。この荷車を王都まで運んでくれないか?」

「おお! 任せてくれ!」

「ありがとうございます!」


 アリオとジニーが即答した。

 アリオたちは、非常にやるきにあふれている。

 ケーテの背に乗らずに済んだという気持ちが前面に出ていた。


 とはいえ、王都までの距離もさほどあるわけでも無い。

 ケーテの背に乗せてもらうより、ニアを担いで、足で走ったほうがいい。


「一応依頼として、報酬も払うから安心してくれ』

「そんないいのに」

「こういうことは大切だからな」


 アリオたちとの話し合いを簡単に終わらせて、

「ロック! はやくいくのである!」

「……がう」


 ガルヴを担いだケーテが言う。


「……ガルヴは走らせていいんじゃないか?」

「がぁう」


 ガルヴは嬉しそうに尻尾を振っている。

 担がれるのが嬉しいらしい。


「ガルヴは子供なのだ」

「……まあ、いいか」


 俺はエリックとゴランに一言伝えて、通話の腕輪による通話を終わらせた。


「アリオ、ジニー。ここは頼んだ」

「うん。大丈夫だ。この辺りの魔物なら俺とジニーで対応出来る」

「はい、お任せください」

「例のヴァンパイアもどきが襲ってきても逃げてくれ」

「わかりました」


 俺はヴァンパイアもどきが攻めてくる可能性は少ないと思う。

 荷台一杯の芋を奪う意味も、アリオたちをわざわざ襲う意味も、昏き者たちには無い。


「ロックー! まだかー!」

「少し待て! 改めてアリオとジニー、ここは任せた」

「ああ、任せろ」「がんばります」

「ニア行くぞ」

「はい!」


 俺はニアを横抱きに抱えると、走り出す。

 ケーテは大きなガルヴを肩に抱えて、追ってきた


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