黙って聞いていたケーテがフィリーとミルカの頭を優しく撫でる。
「呪い……であるか」
「ケーテは、二人を見て何か感じることはあるか?」
俺が尋ねると、レフィとルッチラ、ゲルベルガさまもケーテをじっと見る。
ケーテは魔導士としても凄腕だし、長命な風竜なので知識もあるのだ。
「そうであるなぁ」
ケーテは腕を組んで真剣な表情で考え始めた。
「呪い……うーん。なにか思い出しそうな気もするのであるが……いや、気のせいかもしれないのだ」
「そうか」
ケーテは何かを忘れているのかもしれない。
だが、どちらにしろ、はっきりと何かを感じ取ったわけではないらしい。
「なにか思い出したら、些細なことでも教えてくれ」
「任せるのである」
俺とケーテが話し終わると、レフィはフィリーとミルカを撫でた。
「ロック。フィリーとミルカは研究室で眠りについていたのよね」
「そうだな。寝落ちして、タマが迎えに報せに来てくれた」
俺はベッドの横でお座りしているタマの頭を撫でる。
そうするとタマは、いつも嬉しそうに尻尾をふるのだ。
だが、タマは頭を撫でられても尻尾を振らなかった。
頭を撫でられた喜びより心配が勝るのだろう。
「とりあえず、研究室に行ってみましょう。ニア。タマ。二人を見ていてくれるかしら」
「お任せください」「ぁぅ」
「うん。ありがとう。なにかあったら、すぐ呼んでね」
そして、レフィは俺とケーテとルッチラ、ゲルベルガさまを見た。
「ロックたちはついてきて」
「わかった」
レフィはゆっくりと研究室へと歩いて行く。
「レフィは、フィリーたちが研究していたものに、呪いの鍵があると考えているのか?」
「消去法でね」
フィリーとミルカは研究室にひきこもって、ずっと研究していたのだ。
ご飯を運んだ者以外との接触もない。
そして、ご飯を運んだのは、俺やニア、ルッチラである。
呪いがかかるとしたら、調べていた物によってだろう。
「まあ、そうだよな。それ以外には考えにくいか」
「そう。フィリーとミルカが研究していたのは、昏き者どもの残留物でしょ? それに、ヴァンパイアっぽい奴の言葉ってのも気になるし」
エリックは、ヴァンパイアの発言内容も伝えてくれたようだ。
「レフィはヴァンパイアもどきの言う俺の大切な者はフィリーとミルカだと思うか?」
「それしかないでしょう? 当てずっぽうで、たまたま的中したのでなければだけど」
「そうだな」
「全てはフィリーが研究していた物を調べてからね」
「でも、大丈夫であろうか?」
ケーテが心配そうに呟いた。
「調べることで、かかる呪いかもしれないと考えているのか?」
「可能性があるのである」
「まあ、たしかにな」
だが、調べないわけにはいかない。
このまま目覚めなければ、フィリーもミルカも死んでしまう。
「多分大丈夫よ」
「レフィは、どうしてそう思うのであるか?」
「だって、研究室に運び込む前にロックが調べているでしょう? 他にも宮廷魔導士や錬金術士が調べているわ」
「確かに。調べたぐらいで発動するなら、俺も宮廷魔導士たちも、今頃眠りの中か」
「そういうことよ」
「なら、安心であるなー」
ケーテはルッチラの頭をわしわしと撫でる。
きっと、ケーテは、自分のことではなくルッチラのことを心配していたのだ。
風竜であるケーテは呪いへの耐性も高い。
それに、呪いにかかったとしても、竜なので死ぬことはない。
最悪の事態でも、数十年眠るだけだ。
研究室に到着すると、レフィは迷いなく扉をあけて中へと入る。
「これね?」
レフィは机の上に並べられた物を指さした。
それは特殊な金属の、手のひら大でコイン状のインゴットだ。
「恐らくそうだ。フィリーはこの椅子に、ミルカはそっちの椅子に座ったまま眠りについていた」
「机の上の物を動かしたりは?」
「してません。眠っている間に研究途中の物を動かされたら嫌だろうって、ロックさんが」
「そう。だから、そのインゴットには指一本触れてないぞ」
「ということは、ロックも改めては調べてないのよね?」
「改めては調べてないな。研究室に持ち込む前に調べただけだ」
「じゃあ、改めて調べて見て。ルッチラも」
「はい。がんばります」
ルッチラの返事に頷くと、レフィはインゴットの一つを手で取った。
同時に、ケーテもインゴットの一つを手に取り、それをルッチラが横から観察する。
「何か感じるか?」
俺は尋ねながら、手を触れずに
「特に何も——」
「ん? んん?」
レフィの言葉の遮る形で、ケーテが変な声をあげた。