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315 貘

 黙って聞いていたケーテがフィリーとミルカの頭を優しく撫でる。


「呪い……であるか」

「ケーテは、二人を見て何か感じることはあるか?」


 俺が尋ねると、レフィとルッチラ、ゲルベルガさまもケーテをじっと見る。

 ケーテは魔導士としても凄腕だし、長命な風竜なので知識もあるのだ。


「そうであるなぁ」

 ケーテは腕を組んで真剣な表情で考え始めた。


「呪い……うーん。なにか思い出しそうな気もするのであるが……いや、気のせいかもしれないのだ」

「そうか」


 ケーテは何かを忘れているのかもしれない。

 だが、どちらにしろ、はっきりと何かを感じ取ったわけではないらしい。


「なにか思い出したら、些細なことでも教えてくれ」

「任せるのである」


 俺とケーテが話し終わると、レフィはフィリーとミルカを撫でた。


「ロック。フィリーとミルカは研究室で眠りについていたのよね」

「そうだな。寝落ちして、タマが迎えに報せに来てくれた」


 俺はベッドの横でお座りしているタマの頭を撫でる。

 そうするとタマは、いつも嬉しそうに尻尾をふるのだ。

 だが、タマは頭を撫でられても尻尾を振らなかった。

 頭を撫でられた喜びより心配が勝るのだろう。


「とりあえず、研究室に行ってみましょう。ニア。タマ。二人を見ていてくれるかしら」

「お任せください」「ぁぅ」

「うん。ありがとう。なにかあったら、すぐ呼んでね」


 そして、レフィは俺とケーテとルッチラ、ゲルベルガさまを見た。


「ロックたちはついてきて」

「わかった」


 レフィはゆっくりと研究室へと歩いて行く。


「レフィは、フィリーたちが研究していたものに、呪いの鍵があると考えているのか?」

「消去法でね」


 フィリーとミルカは研究室にひきこもって、ずっと研究していたのだ。

 ご飯を運んだ者以外との接触もない。

 そして、ご飯を運んだのは、俺やニア、ルッチラである。

 呪いがかかるとしたら、調べていた物によってだろう。


「まあ、そうだよな。それ以外には考えにくいか」

「そう。フィリーとミルカが研究していたのは、昏き者どもの残留物でしょ? それに、ヴァンパイアっぽい奴の言葉ってのも気になるし」


 エリックは、ヴァンパイアの発言内容も伝えてくれたようだ。


「レフィはヴァンパイアもどきの言う俺の大切な者はフィリーとミルカだと思うか?」

「それしかないでしょう? 当てずっぽうで、たまたま的中したのでなければだけど」

「そうだな」

「全てはフィリーが研究していた物を調べてからね」

「でも、大丈夫であろうか?」


 ケーテが心配そうに呟いた。


「調べることで、かかる呪いかもしれないと考えているのか?」

「可能性があるのである」

「まあ、たしかにな」


 だが、調べないわけにはいかない。

 このまま目覚めなければ、フィリーもミルカも死んでしまう。


「多分大丈夫よ」

「レフィは、どうしてそう思うのであるか?」

「だって、研究室に運び込む前にロックが調べているでしょう? 他にも宮廷魔導士や錬金術士が調べているわ」

「確かに。調べたぐらいで発動するなら、俺も宮廷魔導士たちも、今頃眠りの中か」

「そういうことよ」

「なら、安心であるなー」


 ケーテはルッチラの頭をわしわしと撫でる。

 きっと、ケーテは、自分のことではなくルッチラのことを心配していたのだ。

 風竜であるケーテは呪いへの耐性も高い。

 それに、呪いにかかったとしても、竜なので死ぬことはない。

 最悪の事態でも、数十年眠るだけだ。


 研究室に到着すると、レフィは迷いなく扉をあけて中へと入る。


「これね?」


 レフィは机の上に並べられた物を指さした。

 それは特殊な金属の、手のひら大でコイン状のインゴットだ。


「恐らくそうだ。フィリーはこの椅子に、ミルカはそっちの椅子に座ったまま眠りについていた」

「机の上の物を動かしたりは?」

「してません。眠っている間に研究途中の物を動かされたら嫌だろうって、ロックさんが」

「そう。だから、そのインゴットには指一本触れてないぞ」

「ということは、ロックも改めては調べてないのよね?」

「改めては調べてないな。研究室に持ち込む前に調べただけだ」 

「じゃあ、改めて調べて見て。ルッチラも」

「はい。がんばります」


 ルッチラの返事に頷くと、レフィはインゴットの一つを手で取った。

 同時に、ケーテもインゴットの一つを手に取り、それをルッチラが横から観察する。


「何か感じるか?」

 俺は尋ねながら、手を触れずに魔力探査マジック・エクスプロレーションをインゴット類に同時にかけていく。


「特に何も——」

「ん? んん?」


 レフィの言葉の遮る形で、ケーテが変な声をあげた。

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