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317 延命措置

 四大竜はみな巨大だ。

 その中でも、地竜は体が大きいと聞く。

 そんな巨大な地竜たちの里なのだ。面積は広大だろう。


「水竜の里みたいに隠されているのですか?」


 水竜の里は霧に囲まれていて、結界が張られている。

 外から入ることどころか、見つけることすら容易ではない。


「もちろん隠されているし結界も張られているのだが、そもそも、地中にあるのだ」

「道理で知られていないわけだな」


 腕輪の向こうでドルゴが言う。


『ケーテ。責任をもってロックさんを地竜の里へと案内しなさい』

「父ちゃん、そんなこと、言われなくてもわかっているのである!」

『本当か? しなければならないことが何かわかっておるのか?』

「ん? それはロックを連れて、地竜の里にいけばいいのであろ? 我が飛んでいけばすぐなのだ」

『………………ケーテ』

「なんであるか?」

『風竜王が、人族を連れて出向くのだ。事前に挨拶せねばならんぞ』

「あ、そうであるな! うむ!」


 リーアたち水竜の集落に向かったときは、向こう側からの救援要請に応じた形だった。

 だが、今回は、こちらから助けを求めて訪れるのだ。

 当然、儀礼的なあれやこれやがあるだろう。


「ええっと父ちゃん? あのー、我は色々とあれであってだな」

『…………わかった。挨拶についてはこちらでやっておこう』

「さすが、父ちゃんなのである!」


 ドルゴは意外と娘に甘いのかもしれない。


『ロックさん。地竜の里との話が付けば改めて連絡いたします』

「よろしくお願いいたします。フィリーとミルカが眠りについている状態なのでなるべく急いでいただけると助かります」


 寝ている間は飲食が難しい。時間が経てば命に関わる。


『わかっております。なるべく急がせていただきます』

「ありがとうございます」


 地竜との折衝はドルゴに任せておけば良いだろう。


「差し迫った問題は、フィリー、ミルカの生命維持ですが、なにか方法はないでしょうか?」


 知恵と知識のある竜たちならば、良い案を思いつくかもしれない。

 そう思って尋ねてみた。


「うーん、少しの間なら治癒魔術でなんとかなるけど、やっぱり限界があるから……」


 レフィは真剣な表情で考えている。


「……食べ物はともかく水を摂らなければ、人は長く持たないから。管を胃に通して少量の水を流すとかになるかしら」

「そんなことをして、大丈夫なのか?」

「余り大丈夫ではないけれど、それぐらいしか……」


 寝ている状態で、単に口の中に水を突っ込めば、肺に入って溺れかねない。

 食べ物もそうだ。肺に入ったら、大変なことになる。


「なるべくならやりたくはないわね」


 だが、管を突っ込むのも安全とも言いがたい。

 間違えて気管に入っていたら、肺に水を流しこむことになる。

 そうなれば、死にかねない。

 胃に管を通せたとしても、その過程で、食道を傷付ける可能性は高いだろう。

 それしか無いなら、仕方が無いが、なるべくならやりたくない手段だ。 


 通話の腕輪の向こうで、俺たちの話を聞いていたリーアが言う。

『モーリス。水ならば手伝えると思うの』

『御意。ロックさん、我ら水竜がお手伝いいたします』

「それは願ってもないことですが……」


 水竜たちは、どのように助けてくれるのだろうか。


『我ら水竜は水に関するエキスパートです。それに結界魔法にも詳しいですから』


 風竜が錬金術に詳しいように、水竜は結界魔法に詳しいのだ。

 能力的な得意不得意というより、魔法文化的に得意なのである。


「水魔法と結界魔法で、どうやるのですか?」

 ルッチラが心配そうに尋ねた。 


『水魔法については説明はいりませんね。清浄な水を用意できます』

「はい」

『そして、結界魔法の使い方ですが、口から喉、食道の結界を掛けて肺に落ちないようにして胃に水を送り込めます』

「そんなことが……」

『そもそも全ての生物は、身体を覆う結界のような物を持っているのです』

「……そうだったのですね」


 優秀なルッチラでも知らなかったように、余り知られてはいない。

 結界のような物に覆われているからこそ、他人の体内で魔法を発動させることはほぼ不可能なのだ。

 その結界のような物は、魔法抵抗力の一種である。

 外部からの魔法を防ぐ魔法抵抗力は、魔導士の間では広く知られている。

 だが、身体の内部で魔法の発動、行使を防ぐ抵抗力の存在は余り知られていないのだ。


 体内で魔法を発動、行使出来ないことを当たり前のことだと認識し、そう言うものだと思っている魔導士がほとんどだ。

 そして、体内で魔法の発動、行使を防ぐ抵抗力はある種の結界のように非常に強力なのだ。

 もし、その結界のような抵抗力が無ければ、対人戦における魔導士の戦術が大きく変わる。

 敵の体内で魔法を発動、行使が簡単ならば、今までより簡単に生物を殺せるようになる。

 心臓か脳の血管にほんの少しの傷を付ければいいのだ。それだけで簡単に勝てるだろう。


 それが出来ないのは結界のような抵抗力のおかげだ。

 体内で発動、行使が出来ないから攻撃魔法は体外から打ち込むのが基本となる。


『その結界のような抵抗力があるので、魔法を使って胃に水を送り込むのは非常に難しいのです』


 体外から口の中に水を送り込むことは可能だ。

 だが、体内に入った後、水を魔法で制御することは、ほとんど不可能なほど難しい。

 気管や肺に入りことを防げないだろう。


「なるほど。結界魔法で、管をつくるということですか?」

『簡単に言えばそういうことです』

「ありがとうございます。勉強になりました」


 ルッチラはとても優秀な魔導士だが、魔法について、色々と教えることがまだありそうだ。


『うん、ロックさん、心配しないで』

「それはどういう——」

「『フィリーとミルカは私に任せてほしいの』」


 リーアの声が、通話の腕輪から聞こえるのと、ほぼ同時に直接聞こえた。

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