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319 リーアの魔法

 気合いを入れ直したリーアが、レフィを見る。


「レフィ。どのくらいの水を飲ませれば良いの?」

「コップの半分ぐらいかしらね」

「わかったの」


 そして、リーアはフィリーの首を触る。

 そのまま流れるようにお腹の方までゆっくりと撫でた。


「やっぱり水の温度は人肌の方がいいよね」

「はい、できれば」

「うん、任せて」


 リーアは、もう一度深呼吸すると、左手で魔法を発動させる。

 音もなく空中に水が凝集していく。

 その魔法技術は見事なものだ。さすがは水竜である。

 水の温度は人肌程度なのだろう。


 次にリーアは、右手をフィリーの胸にかざす。

 そして、小さな声で素早く詠唱を開始した。

 右手から複雑な形の魔法陣が幾重にも展開していく。


 フィリーの持つ結界のような抵抗力に、リーアの展開する魔法陣が食い込んでいった。

 フィリーの抵抗力自体は壊さないようにしながら、慎重にリーアの魔法陣はフィリーを包む。

 それから、口から体内に向けて、漏斗状の結界が展開していく。

 その結界に刻まれた文様は、非常に複雑で、俺も知らない技術だった。


「いくの」

 その漏斗状の結界に、リーアは人肌程度に温めた水をゆっくりと流し込んでいく。


「胃に直接届けるの。……気管や肺には入らないように」


 フィリーの口の中に水を流しはじめて一分後。


「これで大丈夫なの」

「リーア見事だったわ」

「ありがとう。助かったよ。リーアは凄いな」

「えへへ。レフィとラックに褒められたらうれしいの」

「見事なのだ! リーア、また魔法の腕をあげたのであるな!」

「うん。ケーテ姉さま。毎日、魔法の練習しているの」

「そうであったのか? 気付かなかったのだ」


 ケーテは驚いている。

 今朝まで水竜の里にいたのだから、普通は気付くだろう。


「ケーテ姉さまが寝ている間に練習していたの」

「そ、そうであったかー」


 ケーテは少し戸惑いながらも、リーアの頭を撫でた。


 そんなリーアに、レフィが、

「続けてミルカにもできるかしら? 疲れていない?」

「大丈夫なの! がんばります」


 だが、リーアは少し疲れているように見えた。

 高度な魔法の同時行使を行なったのだ。疲れないわけが無い。

 それにリーアはまだ子供。成長途中なのだ。


「…………リーア。言い忘れていたんだが」

「ラック、どうしたの?」

「いや、リーアの魔法を俺が見て良かったのだろうか?」

「え? 特別な秘儀ではないし、見られても何の……あ、ラックの得意なラーニングね?」

「いや、少し違うんだ。見て真似られると言うだけで」


 以前、ドルゴが通話の腕輪を作ったときにやらせてもらったやり方だ。

 あのとき、リーアもその場にいたのだ。


「全く問題ないの。どんどん真似して欲しいの」

「ありがとう。早速だが、ミルカにやってみてもいいだろうか?」


 俺は疲れているリーアに無理させるのは余り気が進まなかったのだ。

 だが、ケーテは驚いたように目を見開いた。


「え? ロック、できるのであるか? 凄いのである」

「うん。できると思うが……」

「でも、いきなりやって失敗したら困るし、もう一度、リーアに見せてもらってからにしたらどうかしら」


 ミルカは異常状態にある。だからレフィも心配なのだ。


「レフィの心配もわかるのである。うーむ……そうだ!」

「どうした?」

「まず、我にかけるのだ。我ならば多少失敗したところで、なんともないからな!」

「実験体を引き受けてくれるのか?」

「うむ。だが、ロックがミルカにしようとしていたのであろう? ならば失敗するまいしな」

「まあ、自信が無ければやろうとはしない」


 さすがに、ミルカで新しい魔法を実験しようとは俺は思わない。

 水の操作に関しては、前から俺もできた。

 それに水竜の結界術に関しては以前も見せてもらって、ある程度理解できている。

 だから、リーアの行なった結界術は、俺にとって新しい技術ではあったが、理解はできたのだ。


「さあ、やるのである!」


 ケーテはフィリーとミルカの足元に横になった。

 フィリーのベッドは大きく、そしてミルカもフィリーも身体が小さいので、足元は大きく空いているのだ。


「じゃあ、早速。リーア。おかしなところがあったら指摘してくれ」

「わかったの」

「ケーテ、目をつぶって、口を開けてくれ」

「うむ」

「あと、抵抗しようとするなよ? 風竜王に本気で抵抗されたら難しいからな」

「わかったのだ」


 俺はリーアと同様に左手で、大気中から水を抽出して人肌に温めた。

 そうしてから。右手で結界を展開していく。

 ケーテの口から体内に向けて、漏斗状の結界を展開して、水を流し込んだ。


 無事成功したはずである。


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