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323 洞窟

 霧のせいで高さを測りにくい。

 降りる速さと時間から推測すると、恐らく山の麓より低い位置まで降りてきている。

 地面から更に山の高さ分降りたような気がした。


 ケーテがどんどん降りていくと、ほぼ真っ暗になっていた周囲が急に明るくなった。


「がう?」

 ガルヴが驚いて、俺に身体を寄せてくる。


 いつの間にか霧が晴れている。

 明るいのは壁一面にはえる輝く水晶のせいだ。


「昼間のように明るいです」

「どういう仕組みでしょうか? ぼくには全くわからないです」


 ニアとルッチラが答えを求めて俺を見上げている。


「俺にもよくわからん。だが、水晶の光は日の光だな。魔法と工学を組み合わせて、どうにかしているんだろう」

「その通り。ロックの言うとおりなのだ。地竜は魔導機術が得意ゆえな」


 風竜が錬金術、水竜が結界術が得意なように、地竜は魔導機術が得意らしい。


「下についたのだ。降りても大丈夫なのだぞ」


 底に降り立ったケーテがいう。

 底はケーテが二頭いれば、ぎゅうぎゅうになる程度の広さしかなかった。

 火口から底にかけて、漏斗状にすぼまっていく構造らしい。


「がうがう」

 嬉しそうにガルヴが地面に飛び降りる。

 それに続いて、俺とルッチラ、ニアも地面に降りた。


「ガルヴ。走り回ってはいけないのである。まだ、トラップは終わったわけではないのであるからな」

「がぅ」

 走り回ろうとしていたガルヴは俺の足元に近寄ってお座りした。


「トラップは終わっていないとはいえ、大した罠でもないのであるがな」


 ケーテは周囲を魔法で探って、俺たち以外に誰もいないことを確認した。

 それから行ったり来たりしながら、前後左右の壁に指で文字を書いていく。


「これでよしっと、扉が開くのであるぞ」


 ケーテの言葉と同時に、ただの岩の壁が開いていく。

 巨大な竜の姿のケーテでも楽に通れるほど大きな横穴があいた。

 同時に、横穴の奥、遠くにいる何者かの気配を感じた。

 力を抑えているが、強力だ。恐らく地竜たちの気配だろう。

 一頭一頭が、国を滅ぼしかねない強大な地竜が数十頭。


 そんな恐ろしい気配を隠していたこの壁も強固な結界ということだ。

 そして気配を感じることができたということは、この壁の内側からは地竜の里なのだ。


「ふう」


 俺は少し緊張して、気合いを入れ直した。

 そんな俺の緊張に気付く様子の全くないケーテが笑顔で言う。


「さて、我についてくるのである」


 楽しそうに大きな尻尾を揺らしながら、ケーテは歩き出す。

 その後ろを俺たちはついていった。


 俺たちが中に入ったのを確認して、ケ—テは壁に指先で複雑な動きで何かを書く。

 すると、開いた壁が閉じていった。

 通路は石で作られていた。

 通路の中にも輝く水晶が沢山あるので、まるで地上のように明るい。


「風竜の王宮は論外として、水竜の里より防御が強固ではないか」


 風竜には里は無い。空が住処なのだ。

 仲間が集う場所として、対外的な窓口としての王宮があるだけだ。

 そして、肝心の王宮にも大した防御はされていなかった。

 おかげで昏き者どもに占拠されたこともあったぐらいだ。


 水竜の里にも防備はあったが、昏き者どもに攻め込まれかけた。


「水竜は結界が得意ゆえ、結界に頼り切ってのである。その隙を突かれてしまったのであるな」

「ほう」


 ケーテも色々考えているらしい。少し意外だ。

 水竜の里も結界の隙を突く魔装機械を使われてかなり大変なことになったのは事実だ。


「と、モーリスが言っていたのである」

「あ、そうか」

「今はロックが魔法を掛けて防御を固めておるし。水竜の里の防備も地竜には勝るとも劣らないであろう」

「そうだといいが」

「地竜たちは、慎重なのだな。我らが真の意味で恐れるべき竜だ」

「たしかにな。人など、竜にとっては脆弱な羽虫程度の強さにすぎないだろうしな」


 俺がそういうと、ケーテは俺を見る。


「例外はあるが、基本はそうなのである。で、我ら風竜はどの竜より速いのだ」

「……竜に襲われても逃げれば良いと」

「その通りである。そして水竜の結界は、竜の侵攻をほぼ完璧に防ぐであろう?」

「地竜は?」

「我らに比べて足が遅いゆえ、防御を固めるのは当然なのだ」

「その割にはケーテは入り方を知っているようだが」

「沢山の竜で押しかけたら、罠が発動するのだ。溶岩を通過している最中に地竜たちはこちらを観察しているのである」


 もし竜が大群で押し寄せたら、溶岩は実在の物へと変わるのだろう。

 そして、壁を開ける鍵も変わるのだろう。


「確かに底はケーテ二頭が限度な広さだったな」


 ケーテとドルゴが同時に来れば、かなり身体を縮こめる必要があるだろう。


「いくら風竜王でも、一体で地竜の里は落とせぬゆえなー」

「そりゃそうだ」


 壁が開いてから、しばらく歩いた。

 この道が長いのも地竜の里の防御策の一つなのだろう。


「ここぅ」

「どうした、ゲルベルガさま」

「こう」


 壁が閉じると、ゲルベルガさまは俺の服の中から外に出てきて、俺の肩に乗った。

 そして、真剣な表情で周囲を見回した。

 警戒とも少し違う、やや緊張した様子で羽を少し動かした。

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