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331 賽の神の神殿へ

 一旦、マルグリットとの通話を終えると、

「賽の神の神殿に最も近い出口までご案内いたしますわ」

 地竜王ローレは歩き出す。

 どうやら地竜の里には複数の出口があるらしかった。


 ローレが俺たちを先導して王宮から外に出ると、地竜たちはまだ整列していた。

「ラックさまと、風竜王陛下には緊急の用事ができたの」


 ローレの言葉で地竜たちの魔力が揺れた。

 ケーテと交流したかったのかもしれない。

 だが、地竜たちは何も言葉を発しない。

 そんな地竜たちの匂いをガルヴが一生懸命嗅ぎ回っている。

 ガルヴは本当に竜が好きらしい。


「夕暮れ? ですか?」

「綺麗です」「ここぅ」


 ルッチラとニア、ゲルベルガさまが天井を見上げる。

 地竜の里に来たばかりのとき、天井は青空のようだった。

 だが、今は夕日のように赤く輝いている。


「我らの里は地上と同じように天井が変化するのですわ」

「それは時刻だけでなく天候にも合わせて変化すると言うことですか?」


 自慢げに言うグランにルッチラが尋ねる。


「その通りです。地上の方々がこちらで暮らしても違和感は無いと思いますわ」

 そういって、グランは俺の方を見た。


「どういう仕組みだろう。ロックさん、仕組みを知りたいですね」

「そうだな、ルッチラ。興味深い」

「今度、お時間があるときにでも説明させていただきますわ」


 グランの尻尾が揺れた。


 そして、整列する地竜たちに、ローレは微笑んで「ついてこないで良いわ」と言って、竜形態に戻った。

 その姿は大きな地竜たちと比べても巨大で、ドルゴより二回りぐらい大きかった。


 ローレが竜形態に戻った直後、竜形態のケーテが外に出てくる。

 ケーテは俺たちに全裸を曝さないよう、王宮の中で形態変化してくれたのだ。

 服を脱がなくても竜形態に変化できるのだが、服を着たままだと服が破けてもったいない。

 ちなみにローレが竜形態になる際、着ていた服はボロボロに弾けるように破れていた。


「ローレ陛下。お待たせしたのである」

「はい、お手間をおかけいたしますが、グランを抱いて付いてきてくださいませ」

「心得たのである!」


 ローレは敢えて口に出すことで、ケーテが人形態のグランを掴んでも地竜たちが驚かないようにしたのだ。

 俺たちは素早くケーテの背に上り、ケーテはグランを両手で大事に包む。

 その瞬間、少し地竜たちの魔力がゆれた。


「すぐに戻ります。待っていなさい。ではケーテ陛下参ります」

「うむ」


 ローレが走り出し、その後ろを俺たちを乗せたケーテが飛んで追う。

 ローレの足は速かった。

 目的地まであっというまに到着する。


 足を止めると、ローレは大きな石の壁に前足で触れる。

 すると、ローレの触れた石の壁が大きく開いていった。


「里を出た後は、グランがご案内いたします」

「あとは私にお任せください」

「どうか、お気を付けて」

「ローレさんありがとうございます」

「ラックさん、ケーテ陛下。みなさま。どうかモルペウスさまをよろしくお願いいたします」

「はい、全力を尽くしましょう」


 俺たちはローレに見送られながら、石の壁をくぐる。

 すると、周囲がぐにゃりと歪み、数瞬後には俺たちは荒野の真ん中にいた。

 空は地竜の里の天井と同じ色をしていた。


 即座にケーテは上空へと飛び立つ。

 目撃される確率を少しでも減らすためだろう。


「今のは、転移魔法陣か?」

 俺が思わず呟くと、グランが答えてくれる。

「一方通行の転移魔法陣ですわ」


 俺はケーテの背中に、グランはケーテの両手で包まれている。

 ケーテの巨体を挟んでいるので、互いに姿は全く見えない。

 そのうえ、高速で飛んでいるというのに、俺の呟きをグランはしっかり聞き取ってくれたらしい。


「それは珍しいですね」

 俺は少し大きめの声で返答する。

 俺たちが今まで使ってきたのは双方向の転移魔法陣だった。


「はい。ここには里への入り口はありません。私も母もここからは中に入れませんわ」

「確かにその方が防衛には向いているのかも知れません」


 防衛を重視する地竜らしい出口だと思う。

 万が一、里に攻め込まれて逃げなければいけないときのことを考えれば、出口は多いほうがいい。

 だが、里への入り口は少ないほうが、より防衛しやすいのだ。


「ですが、非常に魔法陣の仕組みが煩雑になって難しいのです」

「興味があります」

「ラックさまにならば、お教えしますわ。本当に地竜の里においでください」

「ありがとうございます。是非」

「グラン、あんまり尻尾を揺らすのではないぞ。落としてしまったらどうするのじゃ」

「ゆ、揺らしてなどいませんわ! そんなことより北東方向です」


 照れながらも、グランは賽の神の神殿へ案内してくれる。

 俺は再びマルグリットに通話の腕輪をつなげた。


「マルグリット。移動中の時間を利用して状況を説明する」

『うん。聞かせて』

『あ、ロックさん?』


 セルリスの声も聞こえたが、今は挨拶している時間も惜しい。


「フィリーとミルカが——」


 俺の説明をマルグリットたちは静かに聞いていた。

 説明が終わる頃、賽の神の神殿が見えてきた。

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