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334 昏き神の加護ともどき

 魔物は金属製の扉をすり抜けるようにして出てくる。

 その数、三匹。

 ダークレイスのような性質を持っているようだ。

 出てくると同時に、魔道具が鈴のような音を奏でる。


「見えるな」

 ダークレイスと違って視認できた。

 姿は確かに魔神そっくりだ。


「これが魔神もどきか」


 ——GRYAAAAGGGGG


 その魔物は、威嚇するように咆哮する。


「声と気配まで魔神そっくりだな」


 金属製の扉をすり抜けてこなければ、ただの魔神だと思っただろう。

 十年間魔神と戦い続けた俺の目から見ても、全てが魔神そっくりだった。


 魔神モドキは魔法攻撃をばらまきながら、俺目がけて突進して、鋭い爪の付いた右腕を振るう。

 俺は魔法攻撃を魔神王の剣で迎撃しつつ、一気に距離を詰めてドレインタッチを発動させた。


 ——GIIIIAAAAiiiiiaaaaaaa


 断末魔を上げながら、魔神モドキは消えていく。

 魔石一つ残らない。


「効くじゃないか。おかしいな」


 消え方はダークレイスのそれだ。

 ヴァンパイアもどきのときは手応えが全くなかったが、今回はある。

 ただのダークレイスの亜種に思えるほどだ。


 続けて、俺はもう一匹との距離をつめ、魔神王の剣で斬りさいた。

 全く手応えが無かった。


「ふむ?」


 今度はまるで、ヴァンパイアもどきと戦ったときと同じ手応えだった。


 ——GUUUAAAAA


 魔神もどきは、雄叫びを上げ、魔法攻撃を開始する。

 同時に爪を振りかざし、襲いかかってくる。


 果たして、この爪に物理攻撃力があるのだろうか。

 気になったので、除けずに魔神王の剣で受けた。


 ——ガキン


 鈍い音を出して、爪と魔神王の剣がぶつかった。


「物理だな」


 物理ならば、剣は効くだろう。

 そう思って剣を振るう。剣は魔神もどきの胴体を捉えたが、手応えは皆無だ。


「ロックさん、大丈夫?」

「大丈夫。仕組みはわかった」


 俺は魔法攻撃を再開した魔神もどきの攻撃をかわして、魔神王の剣で胴体を斬る。

 切り裂かれた魔神もどきは、


 ——GUAAAAAAAaaaa……


 断末魔の声を上げて、消えていく。


「攻撃している最中にしか、こちらの攻撃は届かないらしい」

「面倒ね」

「ああ、面倒だ」


 面倒だが、理屈がわかれば怖くはない。


 俺は最後の一匹を見る。


 最後の一匹は、何も無い場所に爪を振り上げ、魔法を打ち込んでいた。

 いや、その何も無い場所には、俺の姿があった。


「……ルッチラ見事」

「はい!」


 幻術で、魔神モドキの認識を歪めたのだ。

 魔神モドキの目には、俺がその位置にいるように見えているのだろう。


 俺たちには俺自身の姿と、ルッチラの幻術で作り出された俺の姿が見えている。

 だが、魔神モドキの目には、幻術で作り出された俺以外見えていないのだ。

 恐らく、周囲の風景ごと認識誤認させている。


 ルッチラの成長が著しい。

 若い分、成長速度が速いのだろう。


「ルッチラ、そのまま維持してくれ」

「わかりました!」


 俺は魔神モドキの背後から近づくと、魔力の檻で閉じ込めた。

 とはいえ、魔神もどきが攻撃をやめたら檻などすり抜けられてしまうだろう。


「じっくり調べるぞ。ルッチラ、まだ維持だ。攻撃させ続けさせてくれ」

「はい!」


 ルッチラは額に汗を流しながら、両手を前にかざして、幻術を維持してくれている。

 おかげで魔神モドキは、魔力の檻の存在に気付いてすらいない。

 一心不乱に、幻術の俺を攻撃している。


「加護の外に引っ張り出す」

「わかりました!」


 昏き神の加護の中で、しっかり調べるのは難しい。

 頭が痛いし、魔力も抑えられている。判断力や思考力の低下も免れない。


 俺はゆっくりと魔力の檻ごと移動させる。

 それに合わせて、ルッチラは幻術の俺を動かしてくれる

 周囲の景色ごと認識誤認させているので、魔神モドキは昏き神の加護の範囲すら、わかっていないようだ。


 そのまま、魔神モドキは檻ごと昏き神の加護の外に出た。


「やった!」

 セルリスが声を上げるのとほぼ同時、

 ——GIIAAAaaaaaa……


 断末魔の声を上げて、魔神モドキは消えた。


「死んだか」


 ヴァンパイアもどきが消えたときとは違う。

 逃げたのではなく、死んだのだ。


 俺も昏き神の加護の外に出て、魔神モドキが死んだあたりを調べる。

 何の痕跡も残っていない。


「ロックさん、お水どうぞ」

「ありがとう、セルリス」


 昏き神の加護の中に入っていたので体力を消耗した。

 セルリスもそれを予想して水を用意してくれたらしい。

 セルリスのくれた水はとても美味しかった。


 一息ついて、改めて神殿を見る。


「何も残さないあたりは、ダークレイスと同じだな」

「すみません。きっとぼくが失敗したせいで……」


 どうやらルッチラは自分のミスで魔神モドキが死んだと思ったらしい。


「いや、ルッチラのせいでは無いぞ。恐らく加護の外では生きられないんじゃないか? セルリスはどう思う?」

「うーん。確かに加護の外に出てきた魔神ぽいレイスはいないわね」

「まさか、いままで魔神モドキは加護の中で倒してきたのか?」

「うん。あ、そう言う意味では、魔神モドキが外に出られるのか確かめたことは無かったわ」


 セルリスも俺に影響されたのか魔神モドキという言葉を使い始めた。

 マルグリットは魔神モドキが出てきたのは今朝からだと言っていた。

 まだ戦闘回数自体が少ないのだろう。


 そこまで考えたところで一つの可能性に思い当たった


「昏き神の加護の中でしか実体化できないんじゃないか?」

「魔神もどきはそうだと思いますけど」

「いや、ヴァンパイアもどきのことだ」


 ケーテが昏き神の加護のコアを壊しそうになったとき、ヴァンパイアもどきはコアを守った。

 そして、壊れる前に逃げたのだ。


「あのとき、あいつ、俺の剣をよけたな」


 本当に効かないなら、逃げる必要すら無い。

 あのときは、ヴァンパイアもどきは魔法障壁でコアを守っていたのだ。


「あの、ロックさま。捕獲は失敗してしまったのですか? 私にも手伝えることがなにかあれば」

 グランは心配そうに言う。


「ありがとうございます。グランさん。捕獲自体は失敗しましたが、わかったことは沢山ありますから」


 俺がそういうと、グランは驚いた様子で尻尾を揺らした。

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