「あ、あの! ロックさま。何がわかったのですか?」
グランは少し焦り気味だ。
賽の神の神殿の中にはモルペウスさまがいるかもしれない。
焦る気持ちもよくわかる。
「まず、奴等はこちらに攻撃をしかけてきているとき以外、こちらの攻撃は通用しないと考えたほうがいいです」
「精神体だからですか?」
「恐らくは。攻撃するときだけ実体化しているのでしょう」
「そんなことが可能だとは……」
「それを可能にしているのは、昏き神の加護だと思われます」
だから昏き神の加護の外に実体化したまま出ると死ぬのだ。
もしかしたら、昏き神の加護の中でしか存在できない可能性すらある。
「そして、本物の魔神に比べたら、魔神モドキは精神抵抗能力が低いですね」
「幻術にかかったからですか?」
「そうです。ルッチラは間違いなく優秀な魔導士ですが、さすがに魔神に幻術をかけるのは難しいですから」
優秀と褒めたからか、ルッチラは頬を赤くして少し照れていた。
「ロックさまでも、難しいのですか?」
「一瞬ならまだしも、あれだけ長い時間、魔神を騙しきるのは難しいですね」
俺はルッチラを見る。
「しかもルッチラは、偽の私の姿を見せただけではなく、偽の私の姿しか見えなくしました。その上周辺景色まで誤認させていましたから
」
「そうだったのですね。私には偽のロックさましか見えていませんでした」
「あれだけの幻術にかけるのは、ゴブリン相手でも難しいですよ」
「さすがルッチラね」
「えへ」
セルリスはルッチラの頭を撫でている。
「他にわかったことは、この神殿に展開している昏き神の加護は非常に強力と言うことです」
「それは悪い情報ですね」
「はい。中にモルペウスさまがいるならば、なるべく早く助け出さないといけません」
モルペウスさまが、昏き神の加護の中心にいるならば、いつ死んでもおかしくない。
「あの、ロックさま。昏き神の加護は、精神世界にも及ぶのでしょうか?」
「それは……わかりません」
「もしかしたら、モルペウスさまは精神世界に逃げているのかも」
「その可能性はありますね」
昏き神の加護が精神世界に及ばないならば。そしてモルペウスさまが精神世界に逃げ込んでいるならば。
モルペウスさまは苦しんでいない。
フィリーとミルカ、それに村人たちも苦しんでいないだろう。
そうであったらいいのにと、俺も思う。
とはいえ、やはり悪い事態を想定して動かなければならないのだ。
そう思っても、今回は口には出さない。
大切なモルペウスさまが苦しんでいないと思えた方がグランの心が安らぐからだ。
「あとはそうですね。いい情報としては壁と扉の全面に魔法防御はほどこされていません」
「え? ロックさん、魔力探知が通りませんでしたけど」
ルッチラが首をかしげる。
「恐らくそれは例の赤い霧と、邪神の加護の効果だな」
次元の狭間が開いた日のこと。
王宮がヴァンパイアの霧で覆われたとき、中に魔力探知は通らなかったのだ。
壁の内側が霧でみたされているならば、魔力探知で建物の中を調べることは出来ない。
「あっ、そうか。魔物は扉以外からも出てきたと言う話しでしたもんね」
すぐにルッチラは俺が、壁に魔法防御が施されていないと判断した理由に気付いてくれた。
「その通り。ダークレイスは魔法防御の施された壁は通り抜けられないからな」
扉だけがただの金属なのかと思ったが、セルリスは壁からも出現すると言った。
少なくとも壁一面が魔法防御がかかっているわけでは無いのは確実だ。
「つまり、壁も扉も簡単に吹き飛ばせるってことよね?」
「マルグリットか」
ニアとケーテの説明が終わったのだろう。
マルグリット、シア、ケーテ、ニアとゲルベルガさまとガルヴがやってきていた。