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337 神殿の壁を壊そう

「人族の脆弱性はともかくとして、風で屋根を吹き飛ばすのは無しだ」

「仕方ないのである」

「地面を掘り進めるとしても、地下も昏き神の加護の範囲内だろうし」


 昏き神の加護の中で、穴掘りするのはとてもきつい。


「じゃあ、ロックはどうするのであるか?」

「とりあえず、壁に小さめの穴を開けるつもりだ」


 小さい穴ならば、向こうに人がいても、破片で生き埋めになったりはしないだろう。


「勢いよく吹き飛ばしたら危険だけどな」

「そっと穴を開けるなど、却って難しいのではありませんか?」

「グランには難しいだろうが、ロックにならできるであろ」

「ケーテ姉さまにもできるとは思えませんが」

「我もできるのである」


 グランとケーテがじゃれ合っているので放っておく。

 俺は改めて壁に魔力探知をかけていく。

 先ほども試したとおり、壁の内側を探ることはできない。赤い霧のせいだろう。


「魔力探知は細かくかけないとダメだな。壁の魔法防御に穴がある」


 壁として捉えていたら見逃してしまう。

 俺の言葉を聞いて、ルッチラも魔力探知を壁にかける。


「確かに、じっくり調べたら、穴がありますね」

「見落としていたな」

「はい。ダークレイスを察知する魔道具の効果が壁の中に通じていなかったから……」

「ルッチラの言うとおり、それも先入観になったな。俺たちは霧の存在を知っていたのだから、当然そちらも考慮すべきだった」

「気をつけないとですね」

「ああ、そうだな」

「まだであるかー?」

「ケーテ、少し待ってくれ。慎重にしないといけないからな」


 とはいえ、魔法防御がかかっていない場所がわかれば、後は簡単である。


「吹き飛ばせるなら簡単であるが、人族が死なないようにするとなると、難しいのである、な?」

「なにが、な? ですの?」


 なんだかんだで、ケーテとグランは仲が良さそうだ。


「吹き飛ばせないなら、砕けば良い」

「どうやるのであるか?」

「まあ、見ていてくれ。石は砕きやすいからな」


 俺は石壁の魔法防御が掛かっていない場所を熱した。

 熱すること自体は簡単だ。


「おお、あっというまに輝きだしたのである」


 石壁の一部だけが、白熱していく。


「もう、充分だな」

 今度は魔法で冷却する。

 対象範囲が狭いのでさして難しくない。


 ——ガンッ


「凄い音がしたのである」

「岩が温度変化に耐えきれなくなった岩が砕けた音だからな。それなりの音はするよ」


 岩が砕けたら、次はその岩をどけるだけだ。

 何も難しくはない。

 魔力弾で軽く弾けばいいだけだ。


「壁が血を噴き出しているみたいなのである」


 開いた穴から、赤い霧がが噴出しはじめた。

 昏き神の加護の中を霧が満たしていく。


「コケッコッッコオオオオオオオオオオオオ」


 ゲルベルガさまが高らかに鳴く。

 吹き出た赤い霧は一瞬で晴れていく。


「ありがとう。ゲルベルガさま」

「ここ」

「だけど、神殿内部の霧は晴れていないのである」

「こぅ」

「昏き神の神の加護が強力なせいなのか、それとは別の作用のせいか」


 とりあえず、神殿内部の霧にはゲルベルガさまの鳴き声は通じないようだ。


「それにしても神殿内部は相当濃い霧が立ちこめていたんだな」

「赤い霧を風で吹き飛ばして外に出すのである。そうすればゲルベルガさまがなんとかしてくれるのだ」

「ここ」

「壁が壊れない程度にな」

「わかっているのである」

「俺はもう一カ所穴を開けよう。二カ所開けた方が風通しは良いからな」

「任せたのだ」

「ぼくも手伝います!」

「ああ、ルッチラも頼む。穴は多ければ多いほど良いからな」


 ルッチラは魔法の準備に入り、ケーテは風魔法を穴に向かって行使する。


「む?」

「あれ?」


 ケーテとルッチラが同時に声を上げた。

 その直前に昏き神の加護の範囲内に結界が発動した。

 非常に強固な、魔法を防ぐ結界だ。

 それも、魔法の発動を妨害する結界である。


「昏き神の加護と魔法障壁をあわせた複合結界なのである!」

「こんなことが可能だったなんて……つまり神の加護でも……」

 すぐに応用しようとするルッチラの姿勢は魔導士として素晴らしい。


「理論上は可能だろうが、これは赤い霧も組み合わせているからな。実現可能かわからん」

 我らの神の加護に組み合わせる結界は用意できても、赤い霧に相当するものは用意できないのだ。


「ロック、そんなことは後にするのだ!魔法が発動する感覚があるのに発動しないのだ」


 単に魔法を防ぐ結界とは違う。

 これまでに無い理論で作られた結界だろう。

 そして、ケーテの魔法の発動を防げているということは、結界の威力は非常に高いということ。


「魔法が使いにくいなら、私がやるわ」

「セルリス。やるってどうやるのであるか?」

「魔法防御が掛かっていない場所を教えてもらって、ハンマーで壊すわ」

「それはなしだ。昏き神の加護に入るリスクは高い」

「でも、ロックさん魔法が使えないなら——」

「まあ、落ち着けセルリス。結界で魔法を行使しにくいからと言って、使えないわけじゃない」

「どうやるんですか?」


 ルッチラは真剣な表情だ。


「見てなさい。とはいえ、ケーテもルッチラもさっき見たばかりの魔法だが」

「え?」

「一体何の話しであるか?」


 俺は穴の開いた壁の逆へと歩いて行く。


「別の壁に穴を開けた方が風を通しやすくなるからな」

「それはそうですけど……」


 全員が移動する俺に付いてきた。


 俺はルッチラとケーテが見ていることを確認してから左手で火球を用意する。

 そうしておいてから、右手で結界を展開する。

 さきほど、リーアがフィリーの胃に水を届けたときに使った結界だ。


「体内の結界のようなものは、この結界に勝るとも劣らない」


 その結界を魔法防御の掛かっていない壁まで伸ばす。

 そうしてから、左手に用意した火球で一気に加熱し、直後に冷やした。

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