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339 ヴァンパイアもどき戦

 ヴァンパイアもどきが放ったのは、炎の大魔法だ。

 太陽のごとき火球が俺たち目がけて飛んでくる。

 周囲が昼間のように明るくなった。


「なかなかの威力だな」


 昏き神の加護の範囲内には、魔法を行使できないような結界が張られている。

 俺が改めて魔法を行使しようとしても出来なかった。

 だから、火球が結界の外に出たところで、俺は魔法障壁と氷魔法を駆使して迎撃した。

 だというのに、ヴァンパイアもどきは結界内で魔法を使っている。


「随分と便利な結界があったもんだ」


 結界には、赤い霧と、昏き神の加護が必要なのだろう。

 必要なのはそれだけでは無いはずだ。

 もし、赤い霧と昏き神の加護だけでこれほど便利な結界をはれるならば、真祖が使わないはずないからだ。


(この結界は賽の神の権能を組み合わせて作ったのか?)


 敵は昏き神の加護の中でしか生きられない。

 だから、挑発すれば、魔法封じの結界を解除して攻撃してくると思ったのだが、そううまくはいかないようだ。


 俺は後ろにいる者たちに声を掛ける。


「ここは任せろ」


 その言葉を聞いたルッチラは、神殿から少し距離を取る。

 ルッチラの背には、マルグリットの宿舎や、兵士たちのテントがある。

 俺が魔法を取り逃した際、カバーしてくれるつもりなのだ。

 そして、ケーテはニア、シア、セルリス、マルグリットの前に立つ。

 非魔導士をかばってくれているのだ。

 とても心強い。


 俺の「ここは任せろ」と味方に向けての指示だしの言葉だ。

 だが、ヴァンパイアもどきは挑発だと思ったのか吠える。


「何が任せろだ。こちらには手が出せぬ貴様らは、無様に逃げるしか無いだろうが!」

「いかに変化しようと、レッサーヴァンパイアから逃げるわけ無いだろう」

「貴様ああああああ」

「なんだ? なにか言いたいことでもあるのか? 聞いてやるぞ」


 精神体になったのかもしれないが、その性格はヴァンパイアそのものだ。

 レッサー呼ばわりしたらたやすく激昂する。


 怒り狂ったヴァンパイアもどきは魔法攻撃を再開する。

 同時に魔神もどき二匹の魔法攻撃が始った。

 ヴァンパイアもどきと魔神もどきは、大魔法をたやすく、何度も繰り出してくる。

 それを俺は結界の境目で防いでいく。


 魔力量が異常だ。

 ヴァンパイアロードや魔神のレベルではない。


「どうだ! 我の力は! 下等なる人族が! 生意気にも逆らいやがって!」


 ヴァンパイアもどきは魔法を撃つことで気持ちよくなっているようだ。


「借り物の力でいきるなよ」

「はあ? これは我の、我自身の力だ」

「何の努力も無く、拾った力だろう?」


 根拠はないが、ヴァンパイアもどきの様子を見て、俺はそう確信していた。

 魔法の威力は強力だ。魔力も申し分ない。

 だが、ヴァンパイアもどきは魔法に振り回されている。

 ただただ、高い威力の魔法を全力で撃ち出しているだけだ。


「昔いたんだ。遺跡で古代の魔道具を拾って、その力によった奴がな」


 その強力な魔道具には、古代の大賢者の力が封じ込められていた。

 それを拾った冒険者は、古代の大賢者の魔力と魔法の知識を手に入れ、天才、当代一の魔導士と呼ばれた。


「そいつは死んだが」


 惜しい奴だった。真面目で努力家で、慎重な良い奴だった。

 魔道具を拾わなければ、きっと今頃は一流の魔導士になっていただろう。


「……竜になど挑む必要は無かったんだ」


 気が大きくなったそいつは、慎重な性格が一変したように、格上の魔物に挑み始めた。

 そして、勝ち続け、最後には負けた。


「無能で愚かな劣等種族らしい結末だ」

「俺にはお前も同じにみえる」


 拾って手に入れた力を振り回すのが楽しくてしょうがない。

 ヴァンパイアもどきの態度は、そんな態度だ。

 少しずつ、鍛錬し、戦いの中で成長した場合、そういう状態になることは少ない。

 力の限界も、力の扱い方も知っているからだ。 


「ふん? 愚かなのは貴様だろう。圧倒的な強さの我を前にして逃げもしないんだからな」


 どうやら、ヴァンパイアもどきは、格上の竜に立ち向かって敗れた奴と俺が同じだといいたいらしい。


「お前は竜より弱いよ。それに格上でもない」

「彼我の戦力差もわからぬのか! 哀れだな!」

「そっくりそのまま、その言葉を返すよ」

「はっ!」


 ヴァンパイアもどきは嘲るように笑った。

 笑いながらも、大魔法を打ち続けている。

 火、氷、風、地、無属性と、多様な属性の大魔法を連続で放ってくる。

 同じことをするのは、ハイロードにも難しかろう。


「急に手に入れた力で気持ちよくなるのも、わからんでもないが」

「舐めるな!」


 ヴァンパイアもどきの攻撃が激しくなった。

 俺はその攻撃を凌ぎながら考える。

 ヴァンパイアもどきが手に入れた力とは何だろうか。

 そして、いつ手に入れたのか。それも大事だ。


 普通に考えたら、「いつ」は真祖が死んでからだろう。

 真祖が死んでからの十日余りの間に、手に入れたに違いない。

 そうでなければ、王都に次元の狭間が開いた事件で、こいつが動いていないわけがないからだ。

 そう考えると、予測はできる。


「お前。真祖の力を拾ったな?」


 俺がそういうと、一瞬魔法攻撃が止まった。

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