魔法攻撃がとまり、周囲が静かになった。
よく響く声で、ヴァンパイアもどきが言う。
「拾った? 違うな。あの方から我が授けられたのだ! あの方の後継者に我が選ばれたのだ!」
「ああそうか。どっちでもいいことだ。あの無能で弱い、雑魚の力をもらって喜ぶとは、本当にレッサーヴァンパイアは度しがたい」
俺は敢えて挑発してみる。
「貴様! 言うにこと欠いて、我だけで無く、あの方を侮辱するとは!」
挑発に乗って、ヴァンパイアもどきは魔法攻撃を再開した。
その魔法攻撃を迎撃することで爆発が起こる。
轟音が響き、大地が揺れる。夜だというのに、まぶしいほどだ。
(真祖の力を受継いだというのは、伊達ではないか)
どのような手段で、どのような理屈で、ヴァンパイアもどきが真祖の力を受継いだのかはわからない。
だが、見逃すわけには絶対にいかない。
今はまだ脅威ではない。だが、時が経てば必ず大きな脅威となるだろう。
絶対に逃がさず、ここで必ず倒さねばなるまい。
「絶対に逃がさぬぞ!」
どうやら、ヴァンパイアもどきも同じ気持ちのようだ。
「お前、外に出られないんだろう? 俺はいつでも逃げられるけどな?」
「っ!」
絶対に逃がさないと俺も思っていることを、察されないように挑発しておく。
冷静さを奪っておくに超したことはないのだ。
魔神もどきの攻撃も激しくなる。
だが、そちらはルッチラが全て防いでくれている。
随分と頼りになる魔導士に育ってくれた。
俺は安心して、ヴァンパイアもどきを挑発できるというものだ。
「もしかして、自分が自由に動けないことを忘れてたのか?」
ヴァンパイアもどきの攻撃が激しくなった。
俺たちが逃げる可能性に頭を使って欲しい。
俺としては、自分が逃げる方向に、思考を向けないで欲しいのだ。
「絶対に、絶対に逃がさぬぞ! 猿め!」
「お前風情には無理だな」
「舐めた——」
頭上に炎の極大魔法を発動しつつあったヴァンパイアもどきの頭を魔法の槍が貫いた。
「なっ……」
挑発したのは逃がさないためだけではない。
魔法攻撃を繰り出していないヴァンパイアもどきには、魔神王の剣が通じなかった。
だから、攻撃させ続けさせる必要があったのだ。
「き、きさ、」
魔法の槍が連続でヴァンパイアもどきを貫いていく。
同時に、魔神もどきをも貫いていく。
ルッチラに集中していた魔神もどきを倒すことなど、造作も無い。
ヴァンパイアもどきの隙を突くために、敢えて放置していただけなのだ。
「なぜ……」
ヴァンパイアもどきは怒りよりも困惑の表情を浮かべてこちらを見た。
用意しつつあった炎の極大魔法はいまだ形成されるつつある。
「極大魔法は急には止まらないだろう?」
死んだら、もしくは魔力が尽きれば発動途中の極大魔法も止まる。
だがヴァンパイアもどきはまだ生きているし、魔力も尽きていないのだ。
そんなこと、極大魔法の使い手ならば当然知っている。
極大魔法は発動するために長い間の修練が必要なのだ。
その間に、自分が発動しようとしている極大魔法がどのようなものか身に染みて理解する。
理解できなければ、発動できないと言い換えてもよい。
「借り物だと苦労するな」
俺は一気に昏き神の加護の中へと突っ込む。
強烈な頭痛、吐き気、全身の骨が折れるような痛み。
魔力が阻害されるかのような感覚。
その全てを無視して、ヴァンパイアもどき目がけて突っ込んで行く。
魔法の槍で全身を貫かれ瀕死状態にあった魔神もどきが、俺に反応して攻撃をしかけてくる。
その首を、魔神王の剣で刎ねた。
——GIIIIAAAAiiiiiaaaaaaa……
魔神もどきの断末魔を聞きながら、ヴァンパイアもどきに迫る。
「き、きさ、きさま」
ヴァンパイアもどきは全身を貫かれたまま、呂律の回らない舌で呻きながら俺を見る。
そして、俺目がけて極大魔法を放とうとする。
「……真祖はもっと強かったぞ」
俺はヴァンパイアもどきの首を魔神王の剣で刎ねた。
「どうやって、魔法攻撃を……」
地面に転がった首だけでヴァンパイアもどきは呟いた。
身体の方はどんどん消え去っていく。
逃げているのでは無く消滅、いや赤い霧と化している。
「見てなかったのか?」
俺が賽の神の神殿の壁を開けるために魔法を行使した。
水竜リーアに教えてもらった方法でだ。
それを見ていなかったとは通常考えにくい。
もしかしたら、精神世界にでも行っていたのでは無かろうか。
「見てなかったとしても、推測はできるはずだがな」
俺がそう呟くと同時に、ヴァンパイアもどきは引きつった表情のまま頭も消えた。