オイゲン商会で買い物をした後、俺はハティと買い食いしながら、辺境伯家の離れ家へと戻る。
それから夕食までの間に、俺はベッドを設置する。
それだけでなく、シャワーを温水が出るように改造した。
水を温水にする魔道具の作り方は、入門したての頃に開発している。
だからそれを思い出して、組み立てるだけだ。
「…………ここをいじればもっと良くなるな」
「きゅる」
最近、俺の独り言にハティは返事をしない。
こっちを見ながら首をかしげるだけだ
シャワーからお湯がでるようにする改造はすぐに終わった。
「これでよしっと。……改良されたお湯を出す魔道具は今度オイゲン商会に卸そう」
とりあえず十個ぐらい作って、売れ行きを見て、沢山作るかなどを決めたらいい。
売れ行きがいいなら、製造法をオイゲン商会の魔道具職人に教えるのもいいだろう。
当然、全部自分で作るよりも、一個あたりの報酬は減る。
だが、製造まで委託すれば、製造量が増えるので、結果的に収入は増えるのだ。
それに販売価格自体を下げることも出来る。
そうなれば、温かいシャワーを沢山の人に使ってもらえるようになる。
それは魔道具開発者冥利に尽きるというものだ。
「販売するなら、素材を加工の簡単な物に変えて……」
俺が頭の中で設計図をさらに改良していく。
オイゲン商会の魔道具職人でも作りやすいように、加工が難しい部分を簡単に作れる物にするのだ。
一通り考えたあと、研究ノートに描いていく。
「これでよしっと……。ハティ?」
「主さま! これはすごいのじゃ!」
ハティは、楽しげにシャワーを浴びていた。
この研究所は、平屋で大きな一部屋だけで出来ている。
俺のいる研究スペースとシャワーの間に仕切りはない。
だから、シャワーを浴びているハティの様子がよく見えた。
ハティは頭からお湯を浴びて、羽をパタパタさせている。
手で顔をごしごししているが、背中とかには届かないようだ。
「主さまも一緒にシャワー浴びるのじゃ!」
「それもいいな」
一から開発したわけではないが、改良してから製作した第一号の魔道具である。
自分で使ってみるのは大切だ。
俺は服を脱いで、シャワーの中に入る。
「主さま! お湯は気持ちいいのじゃ」
「そうだな。ハティ、洗ってやろう」
「いいのかや? 嬉しいのじゃ!」
頭の上、羽と羽の間、指や爪の間、角まで綺麗に洗っていく。
「ふぉぉぉぉ。気持ちよいのじゃぁ」
「なら良かった」
「ハティも主さまを洗うのじゃ!」
そう言ってハティは、パタパタ飛ぶと俺の背中を流してくれた。
「ハティありがとう」
「お返しなのじゃ! ……主さま、主さま!」
「ん? どうした?」
「次は何を作るかや? パン焼き魔道具かや?」
ハティの期待を感じる。
ハティはパンが大好きなようだ。
「そうだなぁ。急ぎの魔道具もないし……」
オイゲン商会へのお礼と挨拶代わりに、今改良したお湯の魔道具を卸せばいいだろう。
それで充分だ。
それに、お湯の魔道具の原型は俺が十歳の時に作ったものだ。
比較的簡単なので弟子入りしたロッテに製造を手伝わせてもいいだろう。
よい教材になりそうだ。
ロッテにお湯の魔道具の製作を任せて、俺は新しい魔道具を開発するのが良さそうだ。
「新しい魔道具……せっかくだしパン焼き魔道具でも作るか」
「やったのじゃ!」
「だが、本格的に製作に入る前にパン焼きについて学ばないとな」
「なるほどー。大変なのじゃな!」
その日の夜から、俺はパンの作り方の本を読みはじめる。
俺の肩の上からハティも一生懸命本を読んでいた。
次の日は早起きして、辺境伯家の調理人からパン焼きについて、教えてもらった。
ハティも大真面目な顔で、作り方を聞いていた。
パン作りについて学んだ後は魔道具作りだ。
別に急ぎでもないし、ゆっくりと、のんびり開発を進めていった。
途中、ティル皇子が遊びに来たりもした。
そして、俺が研究を始めたと聞いたロッテもやってくる。
「お師さま、よろしくお願いします」
「うむ。ロッテにはこれを作ってもらう」
「はい!」
俺はロッテにお湯の魔道具の完成品を見せる。
「なんのための魔道具かわかるか?」
ロッテは真剣な表情で観察し、
「水をお湯に変える魔道具でしょうか?」
「よくわかったな」
「似た魔道具を見たことがあったので……ですが、この部分が違っていて……」
ロッテは俺が昔作った魔道具のことも知っていたらしい。
そして、変更箇所にもちゃんと気付いた。
「素晴らしい。その通りだ」
「ありがとうございます」
ロッテは独学である程度勉強しているようだった。
それならば、教えるのも楽で良い。
俺はお湯作り魔道具の研究ノートを渡して、部品の一つの製作を指示する。
まず部品を作って見せて、疑問点を質問させて、作らせてみる。
そして、作っている途中でわからない点があれば、その都度答えていく。
「ロッテに頼んでいるのは簡単な作業だが、大切な作業だ」
「はい。お師さま」
「作っているうちに何か得るものがあるかも知れない」
「はい、頑張ります!」
ロッテに簡単な作業を手伝って貰いながら、お湯の魔道具も作っていく。
自分で作れば十個つくるのに二時間もかからない。
だが、ロッテの教材でもあるので、全く急がずゆっくり進めていった。