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046 結界発生装置の改善点

 俺はハティと一緒に朝ご飯を食べる。

 時刻はもう昼なので、朝ご飯ではなく昼ご飯といった方がいいかもしれない。


 メニューは焼いたパンと水だけ。

 だが、焼きたてのパンはとても美味い。


「うまいのじゃあ!」

「乾燥パンとどっちがうまい?」

「乾燥パンとは別のおいしさがあるのじゃ! どっちがいいとか一概には言えないのじゃ」

「そんなもんか」


 人族なら、十人中十人が焼きたてパンの方が美味いというだろう。

 とはいえ、パンと乾燥パンが別物と言われれば、確かにそれはそうかもしれない。


 俺はパンを食べながら、頭の中で量産型パン焼き魔道具の設計図を組み立てる。

 量産するならば、なるべく部品数を少なくしたい。

 そして、製造過程も少なく、部品の加工も、組み立ても簡単にできた方がいい。


 パンを食べ終わる頃には、頭の中で設計図ができあがった。

 だから、パンを食べ終わると同時に手を動かして、俺は試作品を作りはじめる。


「……主さまは働き者なのじゃ」

「そうでもないぞ。昨日は色々あったからな。気晴らしみたいなもんだ」

「気晴らし……」

「そうだよ。仕事の魔道具作りに疲れたら、簡単な趣味の魔道具作りで気晴らしをするんだよ」

「趣味なのかや?」

「ああ、これは一応オイゲン商会に卸す予定だから、仕事と言えば仕事か」

「仕事以外の何物でもないのじゃ」

「だが、これは簡単な改良だからな。簡単なパズルとか頭の体操みたいなもんだ」

「……へ、へぇ。すごいのじゃあ」


 なぜかハティが引いていた。

 三十分ほどかけて量産型パン焼き魔道具を一つ完成させた。


「……もうできたのじゃ」

「まだだぞ。作り方をノートに書かないとな。オイゲン商会の魔道具師でも作れるようにしたいからな」


 そして、俺は設計図を含めて製造過程を細かく記述していった。

 それも三十分ほどで書き終わる。


「さて……」

「オイゲン商会にいくのかや?」

「いや、息抜きは終わりだ。とりあえず。難しい魔道具の作成に入ろう」

「えぇ……。働き過ぎなのじゃ」

「そうでもないぞ。むしろスローライフに近い」

「主さまは、辞書でスローライフの意味を引くべきなのじゃ」


 俺は新しいノートに、魔道具に必要な機能を書き込んでいく。

 今度は難しい魔道具なので、完成するまで、どのくらいかかるかわからない。


「主さま。次は何をつくるのかや?」

「この前、ハティに手伝ってもらって、結界発生装置の魔道具を作っただろう?」

「うん。作ったのじゃ! 今も研究所全体を覆っているのじゃぁ!」

「そうだな。だが、昨夜の事件で結界発生装置の弱点、いや短所が見えた」

「短所かや? 完全に敵の攻撃を封じたと思うのじゃが……」

「その点は問題ない。むしろ、問題がなさ過ぎたということなんだが」

「どういうことなのじゃ?」


 ハティは首をかしげる。


「音も衝撃も熱も光も防いだわけだろう?」

「見事なのじゃ。おかげでハティは近くで主さまが戦っていることにも気づけなかったのじゃ」

「つまり、そういうことだ」

「どういうことなのじゃ?」


 ハティはさっきと全く同じセリフを、全く同じ角度で首をかしげて言う。


「例えば、敵が俺の手に余って、結界を張って凌ぐとする」

「そんな敵、いるとは思えないのじゃが、その場合どうなるのかや?」

「俺は結界の中に閉じこもって、ハティに助けを求めたいとする。だが……」

「あっ! 結界の中にいたら、自分の窮地を報せることも出来ないのじゃ!」

「そういうことだ。俺とかハティならまだしも、ロッテやティル皇子みたいな子供にも渡しているからな」


 ティル皇子だけでなく、妹ルトリシアや姉、それに皇太子も非戦闘員だ。

 敵の襲撃を受け、結界を展開し難を逃れたとする。

 それでも、自分の状況を味方に報せることが出来なければ、窮地は続くのだ。


 ちなみに、俺が学院長の侵入に気付いたのは、結界を破ろうとしたことを察知したからだ。

 何者かが結界に触れれば、結界がかすかに揺れるので中からは気付ける。

 それに別の魔道具を組み合わせることで、中から外を覗くことも出来るようになっている。

 そのおかげで、ロッテやティル殿下が訪ねてきてもすぐ気付けるのだ。


 だが中から外の様子を窺うことが出来ても、外から中の様子を窺うことは出来ない。


「結界の中から外に連絡する手段をどうにかして作りたい」

「そうなのかや〜。難しそうなのじゃ」

「ああ、とても難しい。非常に厄介で、面倒だ」


 本当に嫌になる。俺は簡単な魔道具作りの方が好きなのだ。

 俺は頭を抱えて、うんうん唸りながら考える。


「主さま、さっきより楽しそうなのじゃ」

「……そんなことないだろう?」


 簡単なパン焼き魔道具の量産化の方が楽しめる。

 パズルみたいな物だからだ。


「いや、さっきから目が輝いているし、口元もにやけっぱなしなのじゃ」

「そ、そうか。気付かなかった」

「うむ。主さまは、本当に魔道具作りが好きなのじゃなぁ」

「嫌いではないかも」


 俺はハティをひざの上に乗せながら、撫でまくる。

 そうしながら、考えを巡らしていった。


 必要なのは、結界に遮られずに情報を通過させることだ。

 その上、結界は熱、光、音、衝撃などは遮らなければならない。

 それを実現させるのはとても難しい。


 良い感じに集中しつつあったとき、結界に何者かが触れたことに気付いた。


「おや? 誰か来たな」

「ハティがみてくるのじゃ!」

「頼む」


 ハティはパタパタと飛んで、外を窺う魔道具を見に行った。


「それだ!」

「なにがじゃ? あっロッテなのじゃ!」


 どうやら、訪ねてきたのはロッテのようだ。

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