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047 その魔導具の意味

 俺は結界を解いて、ロッテを中に入れる。


「お師さま、おはようございます!」

「おはよう、ロッテ。昨日は大丈夫だったか?」 

「はい、大丈夫です。何も問題はありません! 作業再開できます」

「そうか。それはよかった。じゃあ、昨日の続きを頼む」

「わかりました!」


 そして、ロッテはお湯を作る魔道具の部品作りの作業にはいる。

 その魔道具は俺が研究室のシャワーに取り付けるために作った物だ。


「ロッテ! これを食べるのじゃ」

「これはなんですか?」

「パンなのじゃ!」


 ハティが、完成したばかりのパン焼き魔道具で焼かれたパンをロッテに食べさせようとしていた。

 全部食べたわけではなかったらしい。


「どうじゃ? どうじゃ?」

「おいしいです」

「そうかやー。よかったのじゃあ」


 上機嫌のハティはロッテの頭を撫でる。


「ハティさん、このパンは一体?」

「これは主さまが作ったパン焼き魔道具で焼いたパンなのじゃ!」

「そうなのですか、すごいですね」

「そうなのじゃ! すごいのじゃ!」


 そして、ロッテは俺の方に来る。


「お師さま、とても美味しいパンでした」

「なら良かった。研究ノートはそのあたりにあるから、興味があったら読んだらいいぞ」

「はい! ありがとうございます」


 それから、ロッテは作業に戻る。

 ハティも俺のひざのうえに戻ってきた。

 ハティは温かいので、冬は助かる。


「……それでなにが『それだ!』なのじゃ?」

「ん? ああ」


 ロッテがやってきた際に、いいアイデアが思いついたのだった。


「えっとだな。結界の外と中を連絡する方法に、魔石を使う手段があると思ってな」

「……? よくわからないのじゃ」

「まあ、俺も本当に出来るかわからん。成功したら教えよう」

「そうなのかや〜。楽しみなのじゃ」


 楽しそうに尻尾を揺らすハティの頭を撫でる。

 そして、理論の組み立てに入る。


「となると……こうすれば……実現出来るか」

「…………」

「いや、離れた場所に情報を伝達する必要があるから……」


 情報を発信する魔道具と受信する魔道具が必要になる。


「……お師さま」

「ん? どうした?」

「本当に、遠方と話せる魔道具を作れるのでしょうか?」

「まあ、実際に開発してみないことには断言できないが、作れるんじゃないか?」

「お師さまの頭の中には、完成までの道筋がみえておられるのですか?」


 ロッテはいつもより真剣な目をしていた。


「いくつか乗り越えるべき課題はあるが、その課題をクリアできるかもしれない方法もいくつかある」

「そ、そうなのですね」

「もしかしたら、思いも寄らない課題が見つかる可能性もあるが、まあ、いけるんじゃないか?」

「お師さまは、本当に天才なのですね」

「そうなのじゃ! 主さまは史上最強の天才なのじゃ!」


 ハティが自分のことのようにどや顔をしている。


「ケイ先生の方がすごいからな。あまり威張れん」


 すると、ロッテは深呼吸した。

 そして、俺の目をじっと見て言う。


「お師さま!」


 その目は非常に力強かった。


「どうした?」

「その魔道具の開発、私にも手伝わせてください」

「うーん。どうかな」

「だめでしょうか……」

「だめと言うか、単純に難しいんだ。果たしてロッテに理解できるとは思えない」


 ロッテはまだ手伝えるレベルではない。

 そう俺は判断していた。

 いくらロッテが優秀でも、俺から見れば初学者のレベルなのだ。


「……そうですか。我が儘をいって申し訳ありません」

「今はお湯の魔道具の部品作りをやって基礎を勉強するといい」

「はい」

「それが終わったら、量産型パン焼き魔道具を一から作れるようになりなさい」

「わかりました。頑張ります」


 量産型パン焼き魔道具を一から一人で作れるようになれば、充分一人前の魔道具師と言っていい。

 一流商会であるオイゲン商会にも就職できるだろう。


「ロッテ。どうして急に新作の開発を手伝いたいと思ったんだ?」

「…………私はラメット王国の王女です」

「知ってる」

「そしてラメット王国は存亡の危機にあります」


 どうやら、領土的野心のつよい大国であるガラテア帝国が、ラメット王国に攻め込もうとしている。

 そして、ラメット王国は魔法技術が遅れている小国だ。

 独力で防衛することは難しかろう。


「もし、お師さまが開発されている魔道具の技術を国に持ち帰ることが出来たら、防衛出来ると思います」

「ふむ? …………なるほど。たしかにな。可能になるかも知れないな」

「はい。遠距離間での即時情報伝達が可能となれば、戦術、戦略が根底から変わります」


 そうロッテは断言した。

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