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048 弟子ロッテの教育

 ロッテの言うとおりだ。

 遠くと連絡が出来れば国軍全体を連携させることが容易となる。

 片方だけが、それが出来るようになれば、戦力差をひっくり返すことも出来るだろう。


「そういうことならば、魔道具が完成したら教えよう」

「よろしいのですか?」

「皇太子殿下が、そして師匠がロッテを俺の弟子にしたというのは、そういう意味もあったんだろうさ」

「ありがとうございます」


 ほっとした様子のロッテに、俺は釘を刺すことにした。


「だがな、ロッテ。完成しても今のままなら恐らくロッテは作れないだけでなく、理解もできんぞ?」

「……頑張ります」

「うん。頑張りなさい。完成まではまだ時間があるからな。ゆっくりでいい」

「はい!」

「うむうむ。がんばるのじゃぞ」

 元気に返事をするロッテの頭をハティが頭を撫でに行く。


「あ、ありがとうございます」


 ハティに撫でられて、ロッテはとても照れている。

 その照れ方が、先日ハティに撫でられた辺境伯家の六十代の執事に少し似ていた。


「なるほどな」

 古竜が相手となると、少女も六十代の男も大差がないのかも知れない。


「なにがなるほどなのじゃ?」

「いや、なんでもない」


 俺はロッテに改めて言う。


「まあ、完成しても理解できないとは言ったが、俺自身完成させられるかまだわからないからな」

「お師さまでも……。それほど難しいのですね」

「難しい。完成するにしても、時間がかかる。ロッテも気長に頑張りなさい」

「はい!」


 その日はロッテは一生懸命お湯を作る魔道具の部品を作っていた。

 相変わらず、ロッテは筋が良い。


 そして、俺は結界外と連絡する魔道具の開発を進めたのだった。




 一週間後、ロッテはお湯を作る魔道具を一から完成させたのだった。

 その魔道具を俺はチェックする。

 少し完成度の甘い部分があるが、きちんと完成していた。


「ロッテ、見事だ」

「ありがとうございます。至らない点を教えてください」

「売れるレベルだ。これで充分だぞ」

「お師さまの見本に比べて、完成度が低いことはわかります」


 ロッテは非常に向上心が強いようだ。


「……ん。そうか。ならば……」


 俺はどこを直せば、より良くなるかロッテに教えていく。

 それをロッテは真面目な表情で聞いていた。


「ありがとうございます。お師さまの魔道具と比べて、駄目なことはわかるのですが……。私の技術が低くて難しいです」

「それが普通だ」


 そういうと、ロッテは神妙な表情を浮かべた。


「眼高手低と言う言葉がある。良くない意味で使われる言葉だが、製作者は基本的に眼高手低になる」

「お師さまもそうなのですか?」

「もちろんだ。まず目、鑑定眼から育つ。手、つまり実際の技術が伸びるのは後だ」


 ロッテと、そしていつの間にかロッテの頭の上に乗っていたハティがうんうんと頷いていた。


「眼高手低でなくなったのならば、それは伸びていないと言うことだ。と、俺は師匠のケイ先生に言われた」

「肝に銘じます」

「そうなのじゃな」


 ロッテ以上に、ハティがうんうんと力強く頷く。


「ロッテ。その魔道具は好きにしなさい。記念としてとって置いてもいいし、誰かにあげてもいい」

「大事にとっておきます」

「そうか。そうしなさい」


 始めて完成させた魔道具は思い入れが強くなる物だ。

 取っておくのもいいだろう。


 そして、俺はロッテに次の課題を出す。

 それはパン焼き魔道具を一人で、最初から完成させるというものだ。


「わからないことがあれば、聞きに来なさい」

「はい!」


 ロッテはパン焼き魔道具の研究ノートを読み始める。

 そしてわからないことがあったら聞きに来る。

 俺が教えたら、ロッテは真剣な表情でメモを取っていた。

 真面目な学生である。


 一方、俺は相変わらず結界外と連絡する魔道具の開発だ。

 正直、進捗はあまり良くない。


 あまり、魔道具開発が順調ではないので、気分転換に何かしたい気分になった。


「……ロッテ。攻撃魔法の訓練はしているか?」

「最近はしていないですね」

「そうか。……身を守る術を身につけることも大切だから、攻撃魔法の訓練をしよう」

「ありがとうございます」


 そしてためらいがちにロッテは言う。


「あの、お師さま」

「ん? どうした?」

「お師さまは強いですよね」

「それなりには」

「お師さまは魔道具を作るときは原理と理論を理解しなさいとおっしゃいました。真に理解できれば魔道具は必要ないとも」

「……確かに言ったな」


 学院長と魔道具学部長を倒したときにそんなことを言った気がする。


「魔道具作りを極めたら、お師さまのように強くなれるということではないのでしょうか」

「確かに」

「生意気を言って申し訳ありません! 攻撃魔法の訓練をしたくないというわけでもなく……」

「謝る必要はないぞ。疑問があれば何でもいいなさい。俺もいつも間違える」

「はい」


 俺はなんて答えるか少し考えた。


「……俺の言ったことも間違いではない、と思う。だが、俺は師匠に攻撃魔法もたたき込まれたぞ」

「そうなのですか?」

「うむ」


 凶悪な魔物が跋扈する洞窟に、たった一人で数ヶ月放置されたこともあった。

 いや、あれはきっと俺に気付かれないようにして近くで見守ってくれていたに違いない。

 そうでなければ、危険すぎる。


「攻撃魔法を学ぶことは、多角的に魔法理論を理解することにもつながる。だから魔道具作りにも役に立つと思う」

「なるほど」

「それに、魔道具作りを極めることで強くなるには時間がかかりすぎるからな」


 ロッテは王女だから、命を狙われることもあるだろう。

 それに師匠であるケイ先生が言うには、ロッテは勇者らしい。

 ならば、攻撃魔法ぐらい使えた方がいいはずだ。


「わかりました。私、攻撃魔法も頑張ります!」


 力強くロッテはそう言った。

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