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049 王宮への召喚

 その日から俺は魔道具開発の気晴らしに、ロッテに攻撃魔法を教えることにした。

 ロッテも、攻撃魔法を勉強しつつ、パン焼き魔道具の製作も真面目にやっている。

 ロッテはやる気だけでなく、才能にもあふれている少女だった。

 教えたら教えただけ強くなっていった。



 そんな日々が一週間たったころ。

 俺はハティと一緒に朝ご飯のパンを食べていた。


「主さまのパンはうまいのじゃあ!」

「今日のパンは昨日より美味いな。小麦粉を変えたせいかも……、おや?」


 何者かが研究室に近づいてきた。


「来客だ。ロッテかも」

「主さま、任せるのじゃ!」


 ハティは入り口の方へと飛んでいき、外を窺う。


「あ、執事のおっちゃんなのじゃ!」

「む? 何か用があるのかな」


 俺は結界をオフにして、執事を中に入れた。


「おはようございます。ヴェルナーさま」

「どうしたんだ?」

「皇太子殿下から、昼食会へのご招待されました」


 とても面倒なことになった。

 王宮で出される昼ご飯は美味しいが、堅苦しいので好きではないのだ。

 だが、皇太子からの招待を断ることはできない。

 いや、断ることはできるが、より面倒なことになるというのが正しい。



「面倒だからパス」とか言えるのは、俺の師匠であるケイ先生ぐらいだろう。

 実際言っているのを見たことがある。


「……わかった。参上しよう」

「それがよろしゅうございます」

「で、いつだ?」

「今日でございます」

「…………わかった」


 とても急だ。だが、皇太子は忙しい。

 予定が変更になって、今日のお昼が空いたりしたのかもしれない。

 そして、今日でなければ、数ヶ月後まで空きがないとかなのだろう。


 俺が憂鬱な気分になっていると、

「皇太子は美味いものくれるから好きなのじゃ!」

 ハティはとても嬉しそうにそう言った。


 その後、俺はふさわしい服を着させられ、辺境伯家の馬車に乗って王宮へと向かった。



 昼食会の参加者はティル皇子、そして皇太子と俺にハティだった。

 昼ご飯を食べ終わると、ティル皇子は退室する。


 そして俺は皇太子に応接室へと連れて行かれた。


 俺は憂鬱な気分を隠して笑顔を浮かべる。

 ここからが面倒ごとの本番だ。

 昼食会などただのセレモニー。俺を王宮に呼びつけるための口実に過ぎないのだ。


「お菓子を食べるのかや?」

「もちろん用意しておりますよ」

「よかったのじゃ。皇太子のくれるお菓子はいつも美味しいのじゃ」

「光栄のいたりです」


 ハティは俺の従者である以前に古竜の王女。

 皇太子相手にも全く気を遣う様子がない。


 応接室には俺とハティと皇太子の三人だけになる。


 ハティがお菓子を美味しく食べる様子をにこやかに眺めていた皇太子が、

「ヴェルナー卿。学院長と魔導学部長だが、極刑となった」

「極刑ですか」

「あまり驚かないのだな」

「私と戦っているさなか、二人とも魔人に変異しました。つまり既に人としては死んでいましたから」

「そうだな。確かにそうだ」


 納得した様子で皇太子は頷くと説明をしてくれる。


「学院長たちは、光の騎士団という秘密結社とつながりがあったようだ」

「光の騎士団、でございますか?」

「ああ、神光教団は知っているだろう?」

「はい。名前は聞いたことがあります。最近拡大中の新興宗教ですね」

「そうだ、その神光教団の非合法部にして指導部が光の騎士団だ」

「そのような団体が……」

「光の騎士団の合法部門が神光教団であるとも言える」


 そこで皇太子は真剣な表情になる。


「光の騎士団は、ガラテア帝国から資金援助を受け、我が国で破壊工作をしている気配がある」

「……まだ確定情報ではないということですか?」

「そうだ。いま近衛魔導騎士団が鋭意捜査中だ」


 近衛魔導騎士団が動いているなら、そのうち解決するだろう。


「そうそう。調べ終わった魔道具の類は辺境伯家に届けさせよう」

「ありがとうございます」


 学院長も魔道具学部長も、俺の開発した魔道具を改造したものを身に着けていた。

 それをくれるなら、ありがたい。

 色々と調べることで、わかることもあるだろう。


「ヴェルナー卿。くれぐれも気をつけられよ」

「ありがとうございます」


 皇太子が本当に案じているのは俺ではなくロッテだろう。

 ロッテに危害が及ばないようにしてくれと言っているのだ。


「我が研究所にいる間は、弟子の安全にも気を配りましょう」


 寝泊まりしている王宮でのロッテの身の安全の確保は、王宮の責任である。

 俺に出来ることは結界発生装置を渡すぐらいしかできない。


「うむ。我々もシャルロット王女殿下の安全には最大現配慮するつもりだ」

「我が弟子への配慮、ありがとうございます」


 そういうと、皇太子は微笑んだ。


「ところで、ヴェルナー卿。ここからが本題なのだが……」


 面倒ごとの気配が漂ってきた。

 だが嫌な顔をするわけにはいかない。

 俺は笑顔で返事をする。


「なんでしょうか?」

「学院長と魔道具学部長がいなくなった今、ヴェルナー卿の賢者の学院への再就職を妨げる障害もなくなった」


 その言葉で、皇太子が何を言うのか予想が付いた。

 賢者の学院に職を用意してくれたのだろう。


 皇太子の好意なのはわかる。

 それに俺が賢者の学院に就職した方が、賢者の学院で勉強しているロッテの身も守りやすくなる。

 それもわかる。


 やはり、とても面倒なことになった。

 俺は一人で研究だけしている今の生活を気に入っているのだ。


 そんな俺の気持ちに気付いているのか、皇太子は

「安心するが良い。役職は魔道具開発研究所所属、特別任用教授だ」

 笑顔でそう言った。

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