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062 布団の中

 興味があるらしく、ハティはしばらく新しい魔道具を至近距離で眺めていた。

 そして、ハティはうんうんと頷く。


「そっかー。出来たから、ハティの声にも気付いたのじゃな」

「ん? 三日経ってさすがに心配になって、いつもより大きな声で呼びかけてくれたんじゃないのか?」

「いつも大きめの声で呼びかけていたのじゃぞ?」

「そうだったのか」


 集中しすぎたのもあまり良くない。

 もし、大きな事件が起こっていたら、取り返しの付かないことになってしまったかもしれない。

 そこまで考えて少し不安になった。


「ハティ。念のために聞くが、何か事件はあったか?」

「ないのじゃ」

「姉さんは?」

「主さまの姉上ならば、昨日から仕事に復帰しているのじゃ」

「そうか。もう少しゆっくりすべきだとは思うが……」

「そのぐらい元気なのじゃ」


 ともかく回復はしたということだろう。

 それを聞いたら、ほっとした。


「そうか、それなら良かった」


 ほっとした瞬間、眠気に襲われた。


「……とりあえず俺は寝ることにするよ」

「それがいいのじゃ」


 俺はベッドに倒れるように横たわる。

 ハティが枕元で丸くなった。


「大丈夫なのじゃ、寝ている間、ハティが守るのじゃ」

「ありがとう」


 そうはいっても、前のようにハティは俺より早く寝るのかも知れない。

 そんなことを考えている間に、俺は眠りに落ちた。


 …………

 ……


 俺は日の光で目を覚ました。

 閉めていた遮光カーテンが開いているらしい。

 この研究所には俺とハティしかいない。

 だからハティがが開けてくれたのだろう。


「ハティは……」


 枕元にいたハティは居ない。

 だが、布団が人ぐらいの大きさに膨らんでいる。


「……またか」


 ハティは人型になってしまったらしい。

 もしかしたら、俺が籠もっている三日間、ハティも心配で眠れなかったのかも知れない。

 そう考えたら、叱ることも出来ない。

 眠ることもできないぐらい心配をかけたと、改めて謝るのもなんか違う。


 だから俺は、布団の中に手を入れて、ハティの頭を優しく撫でる。


「……にゅ」

「心配かけたな。ありがとう」


 一瞬ハティはびくりとした。

 起こしてしまったのかも知れない。


「………………」


 だが、起きたというのにハティは動かない。声も出さない。

 ハティはいつも起きたら元気に動き出すのだが。


「ハティ?」

「…………いえ、ロッテです」

「………………なぜ?」

「……………………私にもなにがなんだか」


 ロッテは布団の中で動かない。

 俺の身体に、ロッテはしっかりくっついている。


 布団の中なのでロッテがどういう恰好をしているのかわからない。

 だが、感触が素肌のそれだ。


「……まてよ?」


 俺が服を着ていたら、そもそも素肌の感触などしないのではなかろうか。

 どういうことだ? わけがわからない。


 俺が混乱していると、シャワーエリアの方から竜形態のハティがやってくる


「あ、主さま起きたのかや?」

「……なぜロッテが?」

「昨日来たのじゃ。だから研究所の中にいれてあげたのじゃ。まずかったかや?」

「まずくはないが」


 ベッドの中にいる理由がわからない。


「ロッテは子供だからのう。しばらく自分で魔道具を作っていたのじゃが……、机に突っ伏して寝てしまったのじゃ」

「それで、気を利かせてベッドに運んだと」

「そうなのじゃ」


 俺はベッドの近くをみると、犬の散歩用改め掃除魔道具のタロが俺とロッテの服を運んでいるところだった。


「なぜ、俺は服を?」

「三日間着替えてなかったから気を利かせたのじゃ。寝ている間に身体も拭いたのじゃぞ!」


 ハティは自慢げだ。

 ハティなりに俺のことを考えて一生懸命やってくれたらしい。


「そ、そうか、ありがとう。だがロッテは……?」

「ロッテはきっちりした服を着ていたから、寝るのに苦しいかと思ったのじゃ」

「そ、そうか」


 確かに王女であるはロッテは、普段着も厚着気味だ。


「ハティは気の利くドラゴンなのじゃあ」


 ハティはどや顔で胸を張っていた。


「そうか。気を利かせてくれてありがとう」

「礼にはおよばないのじゃ!」

「だが、ハティ。服は基本的には脱がさない方がいいかもな」

「え? 寝るときでもかや?」

「うん。寝るときでもだ。例外はあるが……」


 例外とは服が濡るときなどである。


「勉強になるのじゃ。これからは気をつけるのじゃ!」


 ハティは竜だから、人の常識を知らなくても仕方がないのだ。


「ロッテ。まあ、そういうことらしい」

「……はい」

「とりあえず、俺から起きて服を着るからしばらく待ってくれ」

「……はい、わかりました」


 俺は静かにベッドから外に出る。

 そのために身体を動かすと、ロッテのすべすべした肌と柔らかい感触がした。


「タロ。その服はゴミではないから持ってきてくれ」

「ピピ」


 タロは俺とロッテの服を抱えて持ってくる。


「タロは服をどこに持って行こうとしてたんだ?」

「ここなのじゃ」


 そういって、ハティが指を指したのは、少し大きめの籠だった。


「洗濯の偉い人が、汚れ物はこれにいれてくれっていってたのじゃ」


 洗濯の偉い人とは、屋敷の洗濯業務の責任者のことだろう。


 そして俺はタロが運んできた服を改めて身につける。

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