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063 テストの開始

 一度脱いだ服。

 それも三日間着た服である。


「一度脱いだ服をもう一度着るのは、少し抵抗があるな」


 汚れているが、着替えがないので仕方がない。

 このまま母屋に行って、すぐに服を着替えようと思う。

 着るために俺の服を手に取っていくと、その下にあるロッテの服が目に入った。


「…………」


 明らかに下着だった。俺は見ないようにする。

 ハティは、ロッテを全裸にさせたらしい。

 それで起きないとは、ロッテも相当疲れていたのだろう。


「ハティ。あとで社会的人間と言う存在と服の関係について話し合おう」

「わかったのじゃ!」


 そして服を着た俺は、布団の中にいるロッテに声をかける。


「俺は先に母屋に戻って着替えてくる。ロッテは服を着替えた後、待っていなさい」

「はい、わかりました」

「ハティもここでお留守番だ。ロッテの護衛を頼む」

「わかったのじゃ!」


 そして、俺は母屋へと向かった。


 母屋に到着すると、執事に出迎えられる。


「ヴェルナーさま。おはようございます」

「うん。服が汚れたから洗濯して欲しい。あと風呂にも入りたいんだが」

「かしこまりました」


 服を洗濯してもらっている間に、俺は風呂に入る。

 辺境伯家の風呂はとても広い。


「……久しぶりな気がする」


 最近はシャワーで凌いできたので、手足を伸ばせるのはとても心地が良い。

 三日寝ずに作業して、その後、一日寝続けていたせいで、全身が凝っていたようだ。


 風呂を堪能した後、洗濯の終わった服を身につけて、研究所へと戻った。

 研究所ではロッテがきちんと服を着て待っている。

 顔は真っ赤である。

 あんなことがあったのだ。恥ずかしいのは当然だろう。

 俺は今朝のことには触れないことにした。 


「ロッテ。睡眠は取ったか?」

「はい。おかげさまで……」

「よし、一度母屋に向かおう。着替えたいだろう?」

「あ、はい。ありがとうございます」


 そして、俺はハティと一緒にロッテを護衛しつつ母屋へと連れて行った。


 研究所にしている離れから母屋に移動するだけでも、一人では移動させるのが少し不安になる。

 過保護な気もするが、姉が襲われたばかりなのだ。

 慎重でちょうどいい。


 ロッテが母屋に到着すると、執事達は俺よりも丁重に出迎える。

 そして、色々とお世話するためにどこかへと行った。

 風呂にいれたり、着替えさせたりするのだろう。


「ヴェルナーさま。朝食はどうなされますか?」

「ああ、いただこうかな」

「かしこまりました」


 俺とハティが食堂に移動すると、数分で朝ご飯が運ばれてくる。


「うまいのじゃうまいのじゃ」

「いっぱい食べなさい」


 美味しそうに食べるハティを見ながら、俺は執事に尋ねる。


「俺が引きこもっている間に何かあったか?」

「事件は起こっておりません。子爵閣下は回復され、執務に復帰されております」

「そうか。姉さんを襲った者の捜査は?」

「難航しているようです」


 執事は姉の秘書の一人でもある。

 機密情報も大概は知っているのだ。


「近衛魔導騎士団と辺境伯家の力をもってしても、まだわからないのか?」

「そのようです」

「ゲラルド商会が怪しいと言うことまでわかっているんだろう?」

「そのとおりなのですが……」

「確証がないか?」

「そうかもしれません」

「ふーむ」


 俺は少し考える。


「脅迫状と犯人が残したらしい血液まであるのだがなぁ」

「不甲斐ないことでございます」


 朝ご飯を食べた後、ロッテがやってくる。

 ロッテが朝ご飯を食べおわると、俺とハティ、ロッテは研究室へと戻る。


「さて、完成させた魔道具のテストを行なう」

「はい!」

「楽しみなのじゃ」


 ロッテはやる気満々だ。

 そして、ハティは純粋に好奇心で目を輝かせている。


「ロッテ。新しく開発した魔道具のテストをどうやってやるのか、教えよう」

「ありがとうございます!」

「ハティも知りたいのじゃ!」

「じゃあ。ハティも聞いといてくれ」

「わかったのじゃ!」


 ハティは魔道具の基本を知らないので、聞いてもわからないとは思う。

 だが向学心があるのはいいことだ。

 機会があれば、きちんと教えてあげてもいい。


 俺は完成した遠距離通話用魔道具を机の上に乗せる。

 同じ物が二つ。これは二つで一つの魔道具なのだ。

 卵形で大きさは拳より少し大きめだ。


「まず、改めて魔道具の説明をしよう。仕様を知らなければテストも出来ないからな」

「はい!」

「当初は結界発生装置の魔道具を改良する方向で考えていたんだがな」

「はい。私もそう思っていました」

「そうすると、結界発生装置が重くなり過ぎて、どうしても携帯に不便になることがわかった」

「ふむふむ」


 ロッテは真剣な表情でメモを取っている。

 あまりに真剣なので、俺ももっと教えたくなって、どうして重くなるのか、どうしたら軽く出来るのかも教える。


「軽くすることも出来るのですね」

「理論上は。だが、まだ俺の技術では難しいな」

「技術の発展を待ちですね」


 技術の発展を待っていたら数年、ひょっとしたら数十年単位で時間がかかってしまう。


「そこで、結界発生装置と遠距離通話の魔道具を分離することにした」

「どうやって、結界を通過させて情報を届けるのですか?」

「良い質問だ。そこが、この魔道具の肝となる部分だ」


 俺はロッテとハティにどうやったのかを説明した。


「そんな使い方が……」

「とりあえずは、音声を離れた距離でも伝えられるかのテストだ」

「はい!」


 そして、俺はロッテとハティと一緒にテストを開始したのだった。

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