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064 遠距離通話魔導具の完成

 テストは短い距離からはじめる。


「ロッテ、この魔道具を持って、部屋の端に移動してくれ」

「はい!」


 まずは研究室の端と端でテストを行なう。


「聞こえるか?」

 小声で呼びかけるが、ロッテからの反応はない。


「あの、お師さま。こちらに音が届いていません」

「ん? どれどれ? あーこれは、ここの設定がずれているな」


 そんな調整をしながら、部屋の端と端に音声を届けることに成功した。


「音声自体は届けられることがわかったので、次は結界を通過できるかのテストだ」

「はい!」

「たのしみなのじゃあ」


 俺は結界が張られた研究所の中にハティとロッテを残して、外に出る。


「聞こえるか?」

『聞こえます!』

『主さまの声がきこえるのじゃ』

「よし! とりあえず成功だ」


 俺は研究所の中に戻る。


「やりましたね。お師さま!」

「確かに一番難しいところはクリアできているが、まだテストしなければならないことがある」

「結界越しに遠距離に情報を届けることが出来るか? ですね」

「そのとおりだ。ハティ。頼みがある」

「なんでも任せるのじゃ!」

「この魔道具を持ったまま、遠くまで飛んでくれるか?」

「お安いご用なのじゃ」

「だが、王都の上空では小さいままでな」

「うん。人間は臆病だから大きい姿を見るとおびえてしまうのじゃ。そんなところもかわいいのじゃ」


 魔道具を持ったハティはするすると空へと上昇していく。

 本来の姿よりは大分遅いが、普通の鳥よりはかなり速い。

 普通の鷹や鷲より、少し速いぐらいだろう。


「ハティ。聞こえるか?」

『聞こえるのじゃ』

「そうか。では、俺たちは結界の中に入る。五分経っても声が届かなかったら、失敗だから戻ってきてくれ」

『わかったのじゃ!』


 そして、俺とロッテは研究所に入る。


「ハティ。結界の中に入った。聞こえるか?」

『聞こえるのじゃ!』

「ひとまずは成功だが、どのくらいの距離まで聞こえるかテストしたい。ハティはそのまま遠くに飛んでくれ」

『まかせるのじゃ!』

「どの距離で会話が通じなくなるか知りたいから、話しを続けるぞ」

『わかったのじゃ!』


 俺とロッテは、ハティと雑談を続ける。


『ロッテは乾燥パンと普通のパンどっちが好きなのじゃ? あ、主さまと出会った拠点跡が見えてきたのじゃ』

「やはり速いな」


 王都から離れたハティは本来の大きさに戻っている。

 そうなると、ハティは矢のように速いのだ。


『まだ、全然主さまの声が聞こえるのじゃ』

「それは良い。そこまで離れても聞こえるなら実用化できるな」

『もっと、離れるかや?』

「ああ、頼む」

『まかせるのじゃ!』


 ハティはいつものように二つ返事で了解してくれた。

 そして、どんどん遠くへと飛んでいく。

 その間も、ずっと会話は通じていた。



 そして、三時間後、遠くまで飛んでくれたハティが戻ってくる。


「ハティ。お疲れさま。ありがとう」

「お役に立ててよかったのじゃぁ」


 ハティは小さな姿で尻尾を元気に振っていた。

 民を驚かせないために王都に近づく前に小さくなって、戻ってきてくれたのだ。


 それから、お昼ご飯を食べて、研究所に戻って、遠距離通話魔道具の作製を始める。

 通話の魔道具は発信と受信の二つがないと意味がない。

 だから、結界発生装置を配った数の二倍は欲しい。


 ロッテにも比較的簡単な作業を手伝って貰う。

 作業を開始すると、ロッテが尋ねてくる。


「……お師さま。これは決められた魔道具同士でしか通話できないのでしょうか?」

「ん? そうだが……確かに不特定の複数の魔道具と通話できた方が便利ではある」

「はい。……実家ともお話ししたいと思いまして」


 ロッテの気持ちはわかる。

 そのような魔道具を作れたら、ものすごく便利だろう。


「ううむ。だが、技術的にまだ乗り越えないといけない課題があるな」

「はい。未熟な私でも難しいことはわかります」

「うーん。そうだな。魔道具それぞれに個体番号を振って、それぞれ魔力波長を変えるとしても機密性が問題になるな」

「魔道具を複製されたら盗聴されてしまいますね」

「理論上複製は無理ではあるが……。盗聴防止は課題だな」


 盗聴されずに通話できることが絶対条件だ。

 複製は理論上不可能ではあるが、複数の魔道具同士で会話可能にするとなると、盗聴できる隙が生まれる。


「お師さま。この魔道具の機密性はどのように?」

「ああ、それはだな。一つの魔石を綺麗に二つに割り、それぞれの魔道具にいれてある」

「……魔石を割るとは、どういう意味でしょうか? 何かの比喩表現ですか?」


 ロッテは怪訝な表情で首をかしげる。

 その近くでハティも首をかしげていた。

 ロッテとハティが不思議に思うのも当然である。魔石を割ることは不可能だと思われているのだ。


「一般的には知られていないが、実は魔石は割ることが出来る」

「砕くではなく、割るのですか?」

「そうだ。魔石に強い力を加えたら割れずに砕けるものだが、特別な技術があるんだ」


 俺がそう言うと、ロッテは目を見開いて驚いていた。

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