母屋に入ると、執事が駆けつけてくる。
執事はロッテに向かって丁寧に挨拶したあと、俺に尋ねてくる。
「ヴェルナーさま。入浴ですか? 夕食ですか?」
「夜ご飯はいただくけど、それより姉さんに用があるんだけど、いるかな?」
「子爵閣下は——」
執事の言葉の途中で、
「ヴェルナー。また三日も研究所に籠もって」
執事のさらに後方から、姉がやってきた。
「すまない。姉さん。少し急ぎの仕事があったんだ。それで姉さん」
「話しは夕食のときにしよう」
「わかったよ」
そして俺はハティとロッテと一緒に食堂へと向かう。
用意されていた夕食は豪華な物だった。
「うまいのじゃ、うまいのじゃ」
ハティはいつものように本当に美味しそうに食べる。
それを見ていると、食事が美味しく感じるほどだ。
「ヴェルナー。それで用っていうのは?」
「ああ。新しい魔道具を作った」
俺はその魔道具を、執事経由で姉へと渡す。
「二つあるんだね」
「それは二つで一つの魔道具なんだ」
俺は魔道具の効果と使い方を姉に伝えた。
「それは、凄い」
「結界の中からも外に連絡できるから、一つは姉さんが持っておいてくれ」
「うん。ありがとう」
「父上にも送っておこうと思って」
「それがいいね。私から送っておこう」
「ありがとう。あと皇帝陛下と皇太子殿下にも進呈しようと思っているんだけど
「うん、それもいいね」
「姉さん、王宮に行った際にでも届けてほしい」
「うん。わかった」
俺は姉に四対の魔道具を渡した。
姉に渡しておけば、万事きちんとやってくれるだろう。
魔道具のことはこれで安心だ。
そこで俺は気になっていることを姉に尋ねる。
「姉さん。ところで犯人の目星は?」
「光の騎士団で間違いないよ」
「近衛魔導騎士団は動いているのか?」
「当然ね。でも、アジトに踏み込んでももぬけの殻だったらしい」
「……逃げられたか」
捜査状況が漏れているのだろうか。
そう俺が考えていることを察したのか、姉は笑顔で言う。
「漏れているってことはないと思うよ。私への襲撃が失敗した時点で拠点を移したんだろうね」
「まあ、失敗したのに拠点を変えないってことはないよな」
姉ビルギッドを仕留められなかっただけでなく、襲撃者も手傷を負ったのだ。
血という痕跡を残してしまった以上、拠点を引き払い、逃亡するのは当然だろう。
「例のゲラルド商会は?」
「潰されたよ」
「ほう。潰されたっていうと?」
「近衛魔導騎士団が官憲を動員して、ゲラルド商会の本店支店を同時に襲撃したんだ」
「ほ、ほう? 過激だな」
「さすがに、ヴェルナーと私の襲撃に関わっていたんだから、許されないさ」
「証拠はあったのか?」
「前学院長と前魔道具学部長の背後関係から探ったみたいだね」
「ふーん」
「商会長は自宅にいたところを、家族ごと捕縛されたし、他の幹部連中も全員捕縛された」
「逃げた奴はいなかったのか?」
「逃げようとした奴はいたけど、殺されたかな」
王宮というか、皇太子の怒りが伝わってくる。
「前学院長と違って、商会長は魔法で記憶を消されていなかったからね。相当情報を引き出せたみたいだよ」
「光の騎士団の他の拠点や、ガラテア帝国についての情報も?」
「もちろん。ゲラルドの知っていた光の騎士団の拠点は基本的に全部潰されているし、相当数のガラテア帝国の諜報員も捕縛できたようだ」
「それは、大成果だな」
「本当に。だから皇太子殿下も寝る間もないぐらい働かれているらしい」
「それで平和になればいいのだけど」
「そうだね。きっと平和になるよ」
そして姉はロッテを見る。
「きっとラメット王国への侵攻計画も頓挫することでございましょう」
「はい。そうなれば、本当に喜ばしいことです」
そういって、ロッテは笑顔で微笑んだ。
夕食の後、ロッテは姉ビルギットに送られて王宮へと帰っていった。
「主さまの姉上、忙しそうなのじゃ」
「ガラテア帝国と光の騎士団に関する対応で、色々と忙しいのかもな」
姉はロッテを送るのと、皇帝陛下たちに魔道具を届けるのもやってくれるだろう。
「……さて、ハティ」
「どしたのじゃ?」
「とりあえず、風呂に入ろう」
「ハティも一緒に入るのじゃ!」
そして俺は風呂に行く。
身体を洗おうと使用人が付いてこようとしたが、それを断る。
ハティと一緒に身体を洗ってから湯船に入る。
「気持ちいいのじゃあ」
「そうだな。ところでハティ」
「むむ? どうしたのじゃ? 主さま」
「寝ているロッテの服を脱がせて俺の布団の中に入れただろう?」
「いれたのじゃ!」
「ああいうのはダメだぞ」
「どうしてじゃ?」
「前にも似たようなことを言ったと思うが、いつも裸の竜とは違って人は服を着ているのが普通なんだ」
「知っているのじゃ」
「そして、人前で裸になるのは恥ずかしいんだよ。特に男女は」
「そうなのかや。気をつけるのじゃ」
「だから、今度からは、寝ている俺やロッテの服を脱がせたり、ましてや裸の状態でベッドに一緒に寝かせるのはやめような」
「わかったのじゃ!」
ハティは人族の風習を、また一つ理解してくれたようだった。