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071 新型魔導具

 魔力エネルギーの膨張を収束させるのは難しい。

 そもそも、膨張の気配を察知しなければならないのだ。

 膨張が始まったら、つまりそれが爆発ということである。

 言葉そのままの通り、爆発的に魔力エネルギーは全てを吹き飛ばすだろう。


 膨張が始まったのを察知しても、出来るのは自分の身を守ることぐらいだ。

 俺は助かっても、周辺の地区は消し飛んでいただろう。


「お前らが外道なのは、まあ、いいとしてだ。この爆発だ。お前らも死ぬと思うが……」

「だまれ!」


 逃げるのが無理だと思った店主が剣を抜いてとびかかってくる。

 それを左手でいなすと、客たちが魔法を撃ちこんでくる。


「学習しろ。お前らでは俺には勝てないよ」


 いい動きをしていたのは給仕だけ。

 その給仕から殺気と戦意が消えている。

 もちろん、警戒し続けているが、店主と三人の客だけの攻撃を凌ぐのは全く難しくない。


「……っ」


 客の一人が、床に座り込んでぼーっとしている給仕に刃を振り下ろす。

 給仕は全く反応しない。


「やめとけ」


 俺はその刃を手でつかみ、客の顔面に拳を叩き込む。

 そのまま、店主と客全員を順番に叩きのめしておいた。

 両方の前腕、上腕、大腿、下腿を折って、肋骨も十本ずつぐらい折っておく。


「……さて、お前らには聞きたいことがある」

「…………」


 ボコボコにされた店主たちは何も言わない。

 店主たちのことは縛っていない。だが手足の骨を折られているので逃亡はできないだろう。

 だが魔法は使えるはずだ。


 それでも、店主たちが魔法を使う気配はない。

 俺が店主たちの魔法攻撃を軽々と凌いで見せたので、心が折れているのだろう。

 とはいえ、油断はしない。

 いつ暴れてもいいように、警戒は続ける。


「お前らは自分の命を捨ててまで俺を倒そうとするようなタイプには見えないんだよな」

「…………」


 他人の命を軽んじる外道に限って、自分のことは極めて大切にするものだ。


「近くに逃げこめる場所があるな?」

「っ!」


 店主は反応しなかったが、客の一人がびくりと反応する。

 どうやら正解らしい。


「爆発にも耐えられるとなると、地下か」

「…………」


 反応しないようにしている店主がびくりと動いた。

 わかりやすくて助かる。


「ふむ、そこも調べないとな」


 もしかしたら、より重要な隠された拠点があるのかもしれない。


「一応聞くが、お前たちはどこのもんだ?」

「…………」

「答えないか。光の騎士団か?」

 何も言わないが、店主と客の手足がかすかに動く。


「それともガラテア帝国か?」

 今度は、店主の頬の筋肉がびくりとした。


「まあ、いい」


 隠された拠点を調べたらわかるだろう。


 戦闘開始と同時に結界を展開させたので、音も振動も伝わっていないはずだ。

 隠された拠点の奴らは逃げていないと期待したい。


 そのとき、給仕がぼそっとつぶやいた。

「…………光の騎士団」

「ん?」

「こいつらは光の騎士団」


 給仕は俺の方をじっと見ている。

 これまでとは、給仕の表情が変わっていた。


 店主が給仕に向かって怒鳴りつける。

「てめえ! 裏切ったら、親がどうなるか——」

「……無駄。思い出した」

「ちっ」

「なにが、ちっ、なんだ? 何を思い出されたら困るんだ?」

「…………」


 俺が問い詰めると、店主は口を閉じる。


「で、お前は何を思い出したんだ?」

「私の両親は光の騎士団に殺された」

「そうか。お前はその記憶を奪われていたのか?」


 俺が尋ねると、給仕は少し考えるそぶりを見せる。


 すると、店主は、

「貴様! 何も言うな! これは命令だ! 命令だぞ!」

 命令という部分を強調しながら叫んだ。


「……もう無駄」


 給仕はそう呟いて俺を見る。


「……奪われていた、というより、変えられていた」

「ふむ? 詳しく説明できるか?」


 光の騎士団、いやガラテア帝国は記憶を脳から完全に消す魔法を使いこなしている。

 前学院長と前魔道具学部長も記憶を消されていた。


「絶対に許さねーぞ! おい! 聞いているのか命令だ——」

「少し黙れ」


 俺は騒ぐ店主の口に猿轡をはめた。


「むご、むごおお」

 猿轡をはめられながらも、まだ店主は叫ぼうとしていた。


「……胸につけられていた魔道具を使って、この魔道具を——」


 給仕は髪に隠された、頭につけられた魔道具を指さした。


「ほう。これか」

「胸につけられた魔道具が命令をうけて、それで頭の魔道具を動かす」

「……頭の魔道具は、つけられた者を操る魔道具だよな」


 給仕は無言でうなずいた。

 ハティが、そして全学院長たちがつけられていたものの改良版だ。


「なるほど。ということは、胸につけられていた魔道具は……」


 先ほど壊した胸の魔道具の破片を調べる。


「音声を聞き取る機能があるのか」

「そう。胸と頭の魔道具があると、そこの男の命令に従わざるをえない」


 そう給仕はつぶやいた。

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