俺はコラリーと、服の中にいるハティに改めて言う。
「今からこの場を覆っている結界を解除する。そうなれば外の状況がわかる、そして中の状況も外に伝わる」
「……うん」
「コラリーはまっすぐに敵のアジトに向かってくれ」
「……わかった」
「近いんだろう?」
「……ちかい。すぐそこ」
コラリーが指さしたのは、店の裏口だ。
どうやら、裏口を出てすぐのところに、アジトへの入り口があるらしい。
「そうか。じゃあ、いくぞ」
俺は結界発生装置を停止させる。
外の音が流れ込んできた。
とはいえ、外は雪の降る夜。静かなものだ。
店に入ってから外に出るまで、三十分ほどしか経っていない。
だが、雪は一掃激しくなっていた。
もはや吹雪と言っていいかもしれない。
そんな中、コラリーは無言で裏口から出て、すぐ横の壁をいじる。
すると、壁に目立たぬように埋め込まれた
それを引くと、壁に偽装された扉が開かれる、
扉の中には地下に続く階段があった。
明かりがなく、真っ暗だ。
「…………」
コラリーは無言で階段を降りていく。
俺はハティを服の中に入れたまま、その少し後ろをついて行った。
俺は中に入ると、壁に偽装されていた扉を閉める。
それにより階段は真っ暗になる。
自分の手の平を目の前にかざしても、見ることができない。
魔法で周囲を探りながら、階段を降りると、また扉があった。
頑丈そうな木の扉だ。
その扉をコラリーは叩く。
「…………」
向こうからは返事はない。
だが何者かが扉に近づく気配があった。
俺は扉が開いたとき、中の者の目に入らない位置まで下がる。
それを確認して、
「……コラリー」
コラリーが名乗ると、扉が開かれ、男が顔を出す。
「定時ではないぞ。なにがあった? 薬の材料でも足りなくなったのか?」
男の反応から考えるに、酒場の方で何かあったとき、コラリーが使いぱしりをしていたのだろう。
「…………」
コラリーは返答しない。
「ん? どうした?」
不審に思ったのか、男が階段の上の方、つまり俺の方をみた。
それに合わせて俺は動く。
一気に階段を飛び降りて、男のあごを拳でうちぬく。
よろめいて倒れる男を後ろから首を絞めて気絶させた。
階段を降りたところにある部屋は狭く、男が一人しかいなかった。
この男は、恐らく門番的な役割なのだろう。
そして奥に続く扉があった。
「中は?」
「……酒場ぐらい広い。人が十人いる」
俺が小声で尋ねると、コラリーも小声で返事してくれた。
「一部屋か?」
「……そう」
構造は単純らしい。
王都の地下に秘密裏に作った拠点だ。
ガラテア帝国の援助があったとしても、大規模な物や複雑な物を作ることは難しかろう。
大規模工事があれば、振動や騒音でばれるからだ。
「一気に制圧する」
「……わかった」
「基本は俺が全部やる」
「……いいの?」
「いい。もし、俺の手に負えないようなら、手伝ってくれ。そのときもなるべく殺すな」
「…………わかった」
なるべく殺すな、と言うことは、つまり難しければ殺してもいいと言うことだ。
それをコラリーも理解してくれたようだ。
俺は奥の扉の前に進む。
そして、扉の向こうごと結界発生装置を発動させる。
これで逃げられまい。
もし、やけになって自爆されても、王都の民に被害はでないだろう。
そうしてから、俺は扉を一気に開ける。
中にはコラリーの情報通り十人の男がいた。
「なっ!」
俺を見て、近くにいた男が、驚愕のあまり顔を引きつらせて息をのむ。
無事、奇襲に成功したようだ。
「それは重畳!」
俺は一番近い男を顔面を左手で殴りながら、右手から
魔法の矢は九本。
その矢は、一瞬俺の上にとどまった後、九人の男目がけて不規則な軌道を描いて飛んでいく。
「ぐあっ」「がふっ」「ぎゃっ」
矢が刺さったのは三人。
肺や腹に刺さって、指二本分ぐらいのそれなりに太めの穴が開く。
無力化するには充分なダメージである。
残りの六人は、かわしたり障壁で防いだり、きちんと対応した。
「素人ではなさそうだな」
俺の拳を食らった一人は、壁まで飛んだ。
顔の骨が陥没して、気を失っているようだ。
充分、無力化できたと言っていいだろう。
動いている敵は、残りは六人。
全員が素早くこちらへの反撃の準備をしている。
俺がもっとも警戒すべきは、自爆攻撃だ。
ここは敵のアジトである。
そして、敵はガラテア帝国の諜報部そのもの。
もしくはガラテア帝国の諜報部と深い関係にある光の騎士団である。
諜報部は敵に情報を取られることを嫌う。
自分の命を犠牲にしてでも、証拠隠滅のために全てを吹き飛ばし兼ねない。
光の騎士団は、神光教団の上部団体。
当然のように、自分の命ですら簡単に捨てる狂信者も含まれるだろう。
「はあっぁああ」
「死ね!」
四人が俺目がけて激しい魔法攻撃を開始した。