四人はそれぞれ違う魔法を使う。
本来は、それぞれの魔法に、それぞれの対処法がある。
だから、同時に多様な魔法の攻撃を加えられると厄介なのだ。
「甘い」
俺は左手に魔法障壁をまとわせて、四つの魔法を一気になぎ払う。
師匠から教わった、対処法の一つだ。
魔力コントロールが非常に難しいが、うまくやれば、まとめて対処できる。
一対多の魔法戦で非常に有用になる技だ。
(こんど、ロッテにも教えてやろう)
そんなことを考えながら、四人の魔法を凌いでいく。
俺が魔法を防ぐたびに、四人の顔が引きつっていった。
「ば、化け物が……」
「隠者の小間使い風情のくせに!」
隠者の小間使いと言うのは何かわからんが、きっと俺のことなのだろう。
少し気になるが、今はそれよりも気になることがある。
俺に攻撃を加えていない二人のことだ。
こそこそと、何かをやっているのは間違いないが、なにをしようとしているのかわからない。
一発ずつ、魔法の矢を撃ちこんでみようかと、考えたとき、
「コラリー、その男を殺せ!」
二人の内の一人はどうやら魔道具を準備していたようだ。
例の音声で命令を出せる画期的な魔道具である。
「……了解」
そうコラリーが呟いて、男たちは一瞬ほっとした表情を見せた。
コラリーは一気に俺目がけて突っ込んできて、
「……覚悟」
そのまま、俺を素通りして、二人の男に飛びかかる。
「なっ!」
「俺たちじゃ——」
慌てる二人の太ももを、流れるような動作でコラリーは短剣で斬り裂いた。
男たちのふとももから、血が噴出す。
「うがああああ」
「どうして——」
「……もう、私には魔道具はついてない」
そういって、コラリーはどや顔でふふんと笑う。
「ちっ」
四人の一人が、舌打ちしながら、魔道具を作動させようとする。
この魔道具の気配には、馴染がある。
鉱山用の爆弾だ。
既に結界で包んでいるので、王都には被害は出まい。
だが、俺とコラリーがかなり危険だ。
それに、拠点の証拠が全て吹き飛び、男たちも全員死ぬだろう。
今後の捜査に支障が出る。
「させるか」
だから、爆弾の起動を止めるために俺は一気に突っ込む。
同時に、他の三人が一気に魔力を収束させようとしはじめた。
こちらは、爆弾ではない。
前学院長たちが俺の襲撃の際に使っていた大気中の魔力を集める魔道具である。
攻撃魔法を放つために使うなら、別に構わない。
だが、恐らくこの気配は魔力を収束させるだけさせた後、自爆するつもりだろう。
発動すれば、かなりの威力になるはずだ。
厄介極まりない。
四人全員を同時に止めなければ、支障がある。
俺はまず鉱山用爆弾魔道具を発動させようとしている男に突っ込んで行く。
そして右手に持った短剣で、男の両前腕を斬り落とす。
手を使って魔道具を発動させようとしているのだ。
腕を斬り落せば当然止まる。
「ぎゃあああああ」
男の耳をつんざくような悲鳴を聞きながら、左手で三人の男に魔法の矢を放つ。
一人あたり二本ずつ。合計六本を撃ち込んだ。
左肩と右胸を狙う。
「ぐあああ」
魔道具を使っての魔力暴走に集中してた三人は為す術なく、まともに矢を受ける。
三人が収束させつつあった魔力も無事霧散した。
「ふう。ひとまずは……」
「ぐぎぃあ」
俺が一息ついたとき、背後から悲鳴が上がる。
振り返ると、コラリーが最初に俺が倒した男の肩に短刀を突き刺していた。
「……怪しい動きをした」
「ありがとう。助かった」
その男は、俺の見たことのない魔道具を手に持っていた。
無力化させたとおもって、油断してしまったようだ。
「コラリー。全員を拘束するぞ」
「……わかった。魔道具は全部とりあげておく」
「頼む」
俺は十人の男をコラリーと手分けして、全裸にして付けている魔道具を全部奪う。
手足を縛り、猿ぐつわを嵌める。
十人の男たちの中には、抵抗しようとしたものもいた。
だが、全員重傷なので大した抵抗ではない。
「尋問したいところだが、専門家に任せるか」
「……うん」
すると、俺の服からハティが首を出した。
「コラリー。親を殺されたんでしょ? 仇はいないの?」
「……ひとり。……いる」
「自分の手で殺したくないの?」
ハティが物騒なことを言う。
殺すとしても情報を取ってからのほうがいい。
「…………ヴェルナーは?」
「ん? なにが聞きたい?」
「……私に姉上を襲わせたのはこいつら」
「仇をとらなくていいのか? ってことか?」
「…………そう」
「まあ、殺したいとは思うがな」
そもそも、姉を襲われて怒っていたからこそ、敵のアジトに乗り込むことにしたのだ。
「引き渡した方が、不幸な事になる」
「……そう」
近衛魔導騎士団は拷問も得意なのだ。
ここで死ぬより絶対に辛く苦しい目に遭うだろう。
そのときハティが、
「主さま。誰か来たよ?」
と言って入り口の方を見た。