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084 事情説明

 最初とはどこからだろう。一瞬俺は考える。

 やはり、子竜を助け出した巨大魔道具騒動の前から説明した方がいいだろう。

 つまり、敵のアジトに乗り込んだところからだ。


「そうだな。まず、俺が敵のアジトに乗り込んだら——」

「待ちなさい。ヴェルナー。そこは最初じゃないだろう?」

「ん? 敵のアジトを見つけた方法か?」

「その前に、まず、どうして、一人で! 敵のアジトを見つけようと思ったのか。見つけるだけならまだしもどうして、一人で! 乗り込もうと思ったのか。そこから説明してくれるかな?」

「あっ、はい」


 姉はかなり怒っているようだった。


「……ええっとだな。あっ、ありがとう。助かるよ。姉さん、少し待ってくれ。お腹を空かせていたら可哀そうだからな」

「わかったよ」


 執事が子竜に食べさせるための肉を持ってきたのをいいことに、俺は事情説明を後回しにする。

 子竜を机の上に乗せて、肉をナイフで切って食べさせた。


「りゃあ! りゃむりゃむ」


 俺が机の上に子竜を乗せたのは、姉によく見えるようにだ。

 可愛い子竜を見れば、怒りも静まるだろう。


 子竜に肉を食べさせながら、ちらりと姉を見ると少し顔がにやけていた。

 作戦は成功したようだ。


 姉の怒りがましになったところで、俺は事情説明を開始した。

 途中途中で、子竜に餌を上げて、場を和ませるのも忘れない。


「それで、コラリーという少女のことなんだが、姉さんからもよろしく頼む」

「わかったよ。実行犯とはいえ、操られていたのなら被害者だ。それに制圧に協力してくれたんだろう? 私からも言っておこう」

「ありがとう」


 姉から頼んでもらえたら、コラリーがひどい目に合うことは会うまい。

 俺からも近衛魔導騎士に頼んではいる。

 だが、やはり辺境伯家を代表者にして、実際の被害者である姉から頼んだ方が効果的だ。


「それで、その保護した竜の子はどうするの?」

「赤ちゃんだからな。親元に返した方がいいだろう? ハティに親を探してもらうよ」

「任せるのじゃ! 古竜のコミュニティは狭いから、すぐ見つかるのじゃ」

「そう。それがいいのかもしれないね」


 そう言った姉はどこか寂しそうだった。

 子竜が可愛いので、寂しく思う姉の気持ちはよくわかる。



 事情説明を終えると、俺は姉から怒られ説教された。

 それも終えると、俺は子竜とハティと一緒に母屋で眠ることにしたのだった。


 俺がベッドに横たわると、お腹の上に子竜が乗って丸くなる。

 そしてすぐに寝息を立て始めた。


「寝るのが早いな。よほど疲れていたのか」

「うーん。それもあると思うのじゃが、きっと安心したのじゃ」


 ハティは俺のお腹の横に来て、子竜を撫でる。


「悪い人間に捕まって怖い思いをしていたんだろうな」


 俺もハティと一緒に子竜を優しく撫でた。


「主さま。アジトを潰されて焦った敵が巨大魔道具を動かしたと考えていいのかや?」

「恐らくそうだろうな」


 もちろん、事件の詳細は近衛魔導騎士団の捜査結果を待たねばならない。

 だが、タイミングから考えて、恐らくはそうだろう。


「アジトを潰したおかげで、敵も動かざるをえなかったのじゃ。きっとこの子を助けられたのも主さまがアジトを潰したおかげなのじゃ」

「不幸中の幸いだな」


 アジトを潰してから、敵の動きが早すぎた。

 すでに子竜は捕まっていたし、魔道具を取り付けられて苦しんでいたのは間違いない。

 巨大魔道具で王都を襲撃する計画もあったのだろう。

 それを前倒しにしたということは、アジトはかなり重要な拠点だったのかもしれない。


「あれだけの魔道具だ。複数作るのは難しいだろうし、一つ作るのにもかなり時間がかかるはずだ」

「しばらく敵も大人しくなるかや?」

「恐らく、そうだろう」

「それなら、ハティも安心して、子竜の親探しができるのじゃ」


 古竜を撫でていたハティが俺の顔の横に来る。


「じゃが……」

「何か気になることでも?」

「子竜が主さまに懐きすぎている気がするのじゃ。もしや、親として刷り込まれていたら親元に戻した方が可哀想になるのじゃ」


 刷り込みとは、一部の鳥などが卵から孵って最初に見た者を親だと思う現象だったはずだ。


「竜も刷り込みがあるのか?」

「あるのじゃ」

「ふーむ。だが、俺が見たときには子竜はとっくに孵っていた。卵の状態で攫われたのだとしても、親だと刷り込まれるのは、敵の魔道具師じゃないか?」

「……そのはずなのじゃが、少し不安に思っただけなのじゃ!」


 そんなことを話している間に、俺も眠くなってくる。

 ガラテア帝国と光の騎士団の拠点はつぶした。

 敵が入念に準備していたはずの巨大魔道具もつぶした。

 敵はそう簡単に、これ以上動けまい。


 後のことは近衛魔導騎士団に任せておけば何とかしてくれるはずだ。

 彼らは優秀なのだ。


 俺は、しばらく魔道具でも作りながらのんびり過ごそう。

 そんなことを考えながら、俺は眠りに落ちたのだった。

三章


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