アジトを潰し、コラリーと幼竜を助け出した後、俺とハティは母屋で眠った。
眠りについたのは、未明。朝日が昇るしばらく前だ。
「……昼か」
俺が目覚めると、昼過ぎだった。
時刻は太陽の位置で判断している。
「時計を作るか……いや、だが、買った方が……」
既に道具としての時計は存在する。
だから、改めて魔道具としての時計を作る意味は薄い気がするのだ。
「ぷぴぃぃ」「ぴぃ〜」
鼻を鳴らしながら、ハティと幼竜が、俺のお腹の上で眠っている。
気持ちよさそうだ。
起こさないように注意して、そっとハティと幼竜をお腹の上から降ろす。
「ハティもお疲れだな」
ハティもまだ子供なのに昨日色々と働いてくれた。
眠りたいだけ眠ったほうがいい。
俺はベッドから立ち上がると、眠る幼竜の様子を観察する。
幼竜は、赤ちゃんなのに、悪い奴らにさらわれて魔道具の核にされていたのだ。
助け出してからまだ数時間しか経っていない。
「うん、問題はなさそうだな」
ただ疲れているだけだろう。
ならば、思う存分眠って体を休めたほうがいい。
「寝る子は育つっていうし」
俺はベッドに寝たハティと幼竜を優しく撫でると、部屋を出る。
そしてそのまま食堂へと向かう。
食堂には姉ビルギットとロッテがいてお昼ご飯を食べながら、楽しそうに談笑していた。
「ヴェルナー。おはよう。もう少し寝ていて良いのに」
「姉さん。おはよう。これ以上眠ったら、夜眠れなくなるからね」
生活リズムが昼夜逆転するのは余り良くないのだ。
「ロッテもおはよう」
「はい。お師さま。おはようございます。昨日何があったのか、気になったので」
「ああ、そうだ。昨日はありがとう。助かった」
ロッテには近衛魔導騎士団への伝達を頼んだりしたのだ。
「いえ、全然気にしないでください。可愛い竜を保護したとか?」
「うん。赤ちゃんの古代竜だ。いまは寝ているけど。あとで紹介しよう」
「はい、楽しみです!」
恐らく、ロッテは姉から竜が可愛いと聞いているのだろう。
実際、幼竜は可愛い。
「ヴェルナー。ご飯は?」
「ありがとう、いただくよ」
そういうと、姉は執事に命じて、食事を準備してくれる。
昨日、寝る前にクッキーを食べた。
とはいえ、夜ご飯からは十時間以上経っている。
お腹は空いていた。
「お師さまは朝起きてすぐご飯を食べられる方ですか?」
「食べられる方だな」
「そうなんですね。私は数時間あまり食欲がわかなくて」
「私もそうです。殿下」
姉も起きてすぐには朝ご飯を食べないらしい。
「昨夜の出来事については、詳しく話そう」
「はい、お願いします」
俺は改めて昨日の経緯を説明した。
途中で運ばれてきたご飯を食べながら、ゆっくりである。
昨夜、寝る前に姉に説明したのと同じ説明だ。
聞いているはずなのに、姉は真剣な表情で聞いていた。
「ということで、ロッテに頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「その暗殺者がコラリーという名前なんだが——」
ロッテにもコラリーのことを頼んでおく。
王女であるロッテが頼めば、コラリーがひどい目に合わせられることはないだろう。
「わかりました! 私からもお願いしておきますね」
「ありがとう。昨日、コラリーには色々と手伝ってもらったし、悪いようにはしないとも約束したんだ。面倒をかけるがよろしく頼む」
「いえ、気にしないでください」
約束した以上、コラリーのためにできる限りのことはしなくてはならないのだ。
説明が終わったとき、とっくに朝昼兼用のご飯は食べ終わっていた。
「りゃあありゃあありゃあありゃりゃああ——」
お茶をのんでゆっくりしていると、大きな声が聞こえてきた。
辺境伯家の屋敷は、それなりに防音性能は高い。
だというのに、かなりはっきりと幼竜の鳴き声が聞こえた。
「幼竜が起きたかな。ちょっと行ってくる」
「ご一緒します!」
ロッテもついて来ると言う。
可愛いと評判の幼竜を早く見たいのだろう。
俺はロッテを連れて、部屋へと戻った。
扉を開けると、ベッドの上で泣いている幼竜とおろおろしているハティがいた。
「どうした?」
「主さま! いいところに来たのじゃ!」
「りゃああ」
幼竜はパタパタと俺の胸まで飛んで来る。
そして、小さな手足で俺の服にしがみついた。
「りゃあ」
俺にしがみつくと同時に、幼竜は大人しくなった。
「どうした。お腹空いたのか? それともトイレか?」
「……りゃ」
ベッドを確認したが、無事だった。
粗相をした訳では無いらしい。
「粗相していないな。古竜の赤ちゃんは手がかからないな」
「…………そうでもないのじゃ」
なぜか、ハティが遠い目をしていた。
「どうした?」
「なんでもないのじゃ! この子は起きたら主さまがいなくて、泣いたのだ」
「そういうものなのか? ハティがいるのに?」
「そういうものなのじゃ。ハティがいても、主さまがいないと不安になるのじゃ」
古代竜であるハティがいうのなら、そうなのだろう。
「そっか。……ご飯食べるか?」
「りゃ」
お腹が空いているのか、鳴き声からは判断できない。
だが、幼竜は赤ん坊だから、きっと空いているだろう。
「お師さま、その子が?」
「そうだよ。昨夜保護した古代竜のヒナだ。名前はしらない」
この子にも、きっと親竜の付けた名前があるに違いないのだ。
ロッテは優しく微笑みながら、幼竜に語りかける。
「シャルロッテといいます。よろしくおねがいしますね」
「……りゃ」
ちらりとロッテを見ると、幼竜は俺の胸に顔を押しつけた。