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3章

085 のんびりした朝

 アジトを潰し、コラリーと幼竜を助け出した後、俺とハティは母屋で眠った。

 眠りについたのは、未明。朝日が昇るしばらく前だ。


「……昼か」

 俺が目覚めると、昼過ぎだった。

 時刻は太陽の位置で判断している。


「時計を作るか……いや、だが、買った方が……」


 既に道具としての時計は存在する。

 だから、改めて魔道具としての時計を作る意味は薄い気がするのだ。


「ぷぴぃぃ」「ぴぃ〜」

 鼻を鳴らしながら、ハティと幼竜が、俺のお腹の上で眠っている。

 気持ちよさそうだ。


 起こさないように注意して、そっとハティと幼竜をお腹の上から降ろす。


「ハティもお疲れだな」

 ハティもまだ子供なのに昨日色々と働いてくれた。

 眠りたいだけ眠ったほうがいい。


 俺はベッドから立ち上がると、眠る幼竜の様子を観察する。

 幼竜は、赤ちゃんなのに、悪い奴らにさらわれて魔道具の核にされていたのだ。

 助け出してからまだ数時間しか経っていない。 


「うん、問題はなさそうだな」

 ただ疲れているだけだろう。

 ならば、思う存分眠って体を休めたほうがいい。


「寝る子は育つっていうし」


 俺はベッドに寝たハティと幼竜を優しく撫でると、部屋を出る。

 そしてそのまま食堂へと向かう。

 食堂には姉ビルギットとロッテがいてお昼ご飯を食べながら、楽しそうに談笑していた。


「ヴェルナー。おはよう。もう少し寝ていて良いのに」

「姉さん。おはよう。これ以上眠ったら、夜眠れなくなるからね」

 生活リズムが昼夜逆転するのは余り良くないのだ。


「ロッテもおはよう」

「はい。お師さま。おはようございます。昨日何があったのか、気になったので」

「ああ、そうだ。昨日はありがとう。助かった」


 ロッテには近衛魔導騎士団への伝達を頼んだりしたのだ。


「いえ、全然気にしないでください。可愛い竜を保護したとか?」

「うん。赤ちゃんの古代竜だ。いまは寝ているけど。あとで紹介しよう」

「はい、楽しみです!」


 恐らく、ロッテは姉から竜が可愛いと聞いているのだろう。

 実際、幼竜は可愛い。


「ヴェルナー。ご飯は?」

「ありがとう、いただくよ」

 そういうと、姉は執事に命じて、食事を準備してくれる。


 昨日、寝る前にクッキーを食べた。

 とはいえ、夜ご飯からは十時間以上経っている。

 お腹は空いていた。


「お師さまは朝起きてすぐご飯を食べられる方ですか?」

「食べられる方だな」

「そうなんですね。私は数時間あまり食欲がわかなくて」

「私もそうです。殿下」


 姉も起きてすぐには朝ご飯を食べないらしい。


「昨夜の出来事については、詳しく話そう」

「はい、お願いします」


 俺は改めて昨日の経緯を説明した。

 途中で運ばれてきたご飯を食べながら、ゆっくりである。

 昨夜、寝る前に姉に説明したのと同じ説明だ。

 聞いているはずなのに、姉は真剣な表情で聞いていた。


「ということで、ロッテに頼みたいことがある」

「なんでしょう?」

「その暗殺者がコラリーという名前なんだが——」


 ロッテにもコラリーのことを頼んでおく。

 王女であるロッテが頼めば、コラリーがひどい目に合わせられることはないだろう。


「わかりました! 私からもお願いしておきますね」

「ありがとう。昨日、コラリーには色々と手伝ってもらったし、悪いようにはしないとも約束したんだ。面倒をかけるがよろしく頼む」

「いえ、気にしないでください」


 約束した以上、コラリーのためにできる限りのことはしなくてはならないのだ。

 説明が終わったとき、とっくに朝昼兼用のご飯は食べ終わっていた。


「りゃあありゃあありゃあありゃりゃああ——」


 お茶をのんでゆっくりしていると、大きな声が聞こえてきた。

 辺境伯家の屋敷は、それなりに防音性能は高い。

 だというのに、かなりはっきりと幼竜の鳴き声が聞こえた。


「幼竜が起きたかな。ちょっと行ってくる」

「ご一緒します!」


 ロッテもついて来ると言う。

 可愛いと評判の幼竜を早く見たいのだろう。


 俺はロッテを連れて、部屋へと戻った。

 扉を開けると、ベッドの上で泣いている幼竜とおろおろしているハティがいた。


「どうした?」

「主さま! いいところに来たのじゃ!」

「りゃああ」


 幼竜はパタパタと俺の胸まで飛んで来る。

 そして、小さな手足で俺の服にしがみついた。


「りゃあ」

 俺にしがみつくと同時に、幼竜は大人しくなった。


「どうした。お腹空いたのか? それともトイレか?」

「……りゃ」


 ベッドを確認したが、無事だった。

 粗相をした訳では無いらしい。


「粗相していないな。古竜の赤ちゃんは手がかからないな」

「…………そうでもないのじゃ」


 なぜか、ハティが遠い目をしていた。


「どうした?」

「なんでもないのじゃ! この子は起きたら主さまがいなくて、泣いたのだ」

「そういうものなのか? ハティがいるのに?」

「そういうものなのじゃ。ハティがいても、主さまがいないと不安になるのじゃ」


 古代竜であるハティがいうのなら、そうなのだろう。


「そっか。……ご飯食べるか?」

「りゃ」


 お腹が空いているのか、鳴き声からは判断できない。

 だが、幼竜は赤ん坊だから、きっと空いているだろう。


「お師さま、その子が?」

「そうだよ。昨夜保護した古代竜のヒナだ。名前はしらない」

 この子にも、きっと親竜の付けた名前があるに違いないのだ。


 ロッテは優しく微笑みながら、幼竜に語りかける。

「シャルロッテといいます。よろしくおねがいしますね」

「……りゃ」


 ちらりとロッテを見ると、幼竜は俺の胸に顔を押しつけた。

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