幼竜に顔を背けられ、ロッテは悲しそうな表情になる。
「ロッテは怖くないぞ〜」
「りゃ」
俺がなだめると、幼竜はもう一度ちらりとロッテを見て、また顔を俺の胸にうずめる。
「人見知りしているのじゃ。赤ちゃんだから仕方ないのじゃ」
ハティがロッテを慰めながら、幼竜のことを撫でる。
「ロッテ、すまないな」
「いえ、赤ちゃんですから……そのうち慣れてくれると信じています!」
「そうだな」
その後、俺たちは食堂へと戻る。
まだ、姉は食堂で待っていた。今日は忙しくない日なのかもしれない。
姉は先日大怪我したばかりだ。
休養できる日には、ゆっくり休養したほうがいい。
「ハティ殿下、幼竜殿。おはようございます。お食事はどうされますか?」
姉はハティに対して腰が低い。
ハティが古竜の大王の娘だからだろう。
「おはようなのじゃ! ハティはパンを食べるのじゃ!」
「幼竜殿には何をご用意すれば?」
「りゃ?」
幼竜は姉をみて、首をかしげている。
とてもかわいい。
幼竜は、ロッテよりも姉に慣れている感じがする。
昨夜クッキーをもらったからだろうか。
「ハティ、赤ちゃんのときって、主に何を食べるんだ?」
古竜の赤ちゃんは豚を骨ごと食べると昨日ハティから聞いた。
それにクッキーも食べていいらしい。
「肉が多いのじゃ。何の肉でもいいのじゃが……魚でもいいのじゃ。甘いものも好きなのじゃ」
「何でもいいんだな」
「まさに、何でもいいのじゃ。人が食べられる物ならば何でもいいのじゃ。毒とかはダメじゃ」
「そりゃ、毒はダメだろうけど。例えば肉を食べないと大きくなれないとかないのか?」
人間の場合、お菓子ばかり食べたら、あまり良くない聞く。
「基本的に何でもいいはずなのじゃ」
どうやら餌に関して、古竜のヒナは手がかからないようだ。
「とりあえず、色々持ってこさせましょう」
姉が執事に指示を出す。
しばらくして、ハティ用のパンと、幼竜のための焼いた肉とお菓子、パン、ゆで卵などが用意される。
「うまいのじゃ! 乾燥パンもうまいが、主さまの実家のパンもうまいのじゃ」
「ありがとうございます」
ハティは両手でパンを掴んでバクバクとおいしそうに食べている。
「幼竜は何が食べたい?」
「りゃあ?」
こちらをみて首をかしげている。
「肉を食べるか?」
俺が肉をとって、口に近づけると、幼竜ははぐはぐ食べる。
「食いつきがいいな。肉が好きなのかも」
「古竜は肉が好きな奴がおおいのじゃ」
これからは主に肉を用意すればいいのかもしれない。
「りゃ」
「ん? ゆで卵も食べたいのか?」
ゆで卵を見て鳴くので、ゆで卵を取って幼竜の口元にもっていった。
それも幼竜は勢いよく食べた。
「肉より食いつきがいいな」
「古竜は卵も好きなのじゃ」
「りゃりゃ」
「パンも食べたいのか?」
幼竜はパンもバクバクと食べた。
パンを食べ終わるとクッキーも食べる。
「幼竜さんは、小さいのに健啖家ですね」
「ロッテより沢山食べてそうだな。やっぱり赤ちゃんだから、必要な食事量が多いのか?」
「うーん。古竜は赤子でも成長が遅いゆえ、食事量は少なくていいはずなのじゃ……」
そんなことをいうハティがバクバクとパンを食べているので説得力がない。
必要かどうかと、食べたいかどうかはまた別なのかもしれなかった。
「ヴェルナー。私も食べさせたいのだが……」
「わ、私も」
幼竜があまりにもかわいいので、姉とロッテがそう思うのも無理はない。
「いいよ。だが、まずは姉さんからだな」
幼竜は、ロッテより姉に慣れている。
だから、順番を姉から先にした。
「殿下。では失礼して」
「はい」
姉がクッキーを手に取って、幼竜の口元にもっていく。
それをロッテもどきどきしながら見つめていた。
「幼竜殿、クッキーですよ」
「りゃ!」
だが、幼竜は姉の持つクッキーから顔をそむけた。
「そ、そんな」
姉はあからさまにがっかりしている。
ロッテもそれは同様だった。
「もしかしたら、お腹がいっぱいになったのかもな」
「りゅりゅりゅりゅ」
「どうした? 鳴き声が変わったな。ハティなんて言っているかわかるか?」
「うーむ。主さまの姉上には悪いのじゃが……」
ハティは言いよどんだ。
「こやつは、もっと食べたいと言っているのじゃ」
「で、でも」
幼竜は姉の手から食べなかった。
「古竜のヒナは親からしか餌を食べないのじゃ」
「俺も親じゃないが……」
「主さまは、幼竜から親扱いされているのじゃな」
俺が試しに口元にクッキーを持っていくと、幼竜はむしゃむしゃ食べた。
「そうだったのか。残念だ」
「本当に」
姉とロッテは本当にがっかりしている。
「餌は食べなくても撫でるぐらいはいいんじゃないか? ハティどうだ?」
「いいと思うのじゃ。最初は主さまが抱っこしているときに撫でた方がいいとは思うのじゃが」
俺が抱っこしていると、幼竜は安心する。
その状態で、慣らした方がいいとハティは考えているようだった。