ハティに幼竜の親を探してもらう予定だ。
だが、どのくらいかかるかわからない。
早ければ数日で見つかるかもしれないが、もしかしたら、数か月かかる可能性だってある。
「じゃあ、俺が抱っこしとくから、姉さんから撫でてあげて」
今後、姉とロッテには、幼竜の世話をお願いする可能性だってある。
俺以外にも安心できる人がいた方が、幼竜にとってもいい。
「姉さんが撫でるよ、姉さんは怖くないからね」
「りゃあ」
「そ、それでは、幼竜殿、失礼して……」
姉は少し緊張しながら、俺の手からクッキーを食べている幼竜の背中を撫でた。
「りりゃぁ」
幼竜は特に緊張もしていない。
少し気持ちよさそうに鳴いている。
「あったかいのだな」
「恒温動物だからね」
古竜は鱗があって、どこか爬虫類っぽさがあるのに、体温が暖かい恒温動物なのだ。
「じゃあ、ロッテも撫でてあげて」
「はい、失礼して……」
「ロッテも怖くないからね」
俺は幼竜に優しく声をかけている間に、ロッテは幼竜の背中を撫でる。
「りゃりゃあ」
幼竜も特に緊張した様子もない。クッキーをおいしそうに食べている。
「意外と柔らかいんですね」
「柔らかいというより、しなやかなのじゃ。強靭な防御力が持つゆえ、一流の剣士が名剣で斬り付けたとて、斬れるものではないのじゃ」
そんな恐ろしいこと試そうと言う気にもならない。
それから、姉とロッテは一緒になって、幼竜を撫でる。
撫でている間に、俺の手からクッキーを二枚食べると、幼竜は「けふっ」とげっぷした。
「もうお腹いっぱいか?」
「りゃぁ」
幼竜は猫が顔を洗うような仕草をする。
そして、「……りゅりゅゅ」と小さく鳴きながら、眠り始めた。
「姉さんとロッテに撫でられていたのに、眠ったね」
「緊張してなかったのじゃなー」
ハティがそういうと、姉とロッテは嬉しそうだった。
幼竜が眠ったので、お昼ご飯は終了である。
俺はロッテとハティと一緒に、研究所に移動することにする。
もちろん、幼竜も抱っこしてだ。
母屋から研究所まで移動するとなると、少しの距離、外を歩くことになる。
暖かい格好をして、幼竜を懐に入れて外へと出た。
母屋を出ると、青空が広がっていた。
昨夜あれほど吹雪いていたとは思えないほど、良い天気だ。
母屋から研究所までは使用人が除雪してくれている。
俺のためというより、ロッテが研究所に移動できるよう、急いでくれたのだろう。
辺境伯家にとって、ロッテは賓客なのだ。
「除雪してくれてありがとう」
俺は歩きながら、近くにいた使用人にお礼を言う。
「これはヴェルナーさま。礼には及びません。我らの日常業務に過ぎませんので」
そういって、使用人は微笑んでくれていた。
研究所につくと、俺はロッテに課題を与える。
課題の内容は、犬の散歩用魔道具を一人で作り上げると言うものだ。
「ピピ」
今も犬の散歩用魔道具タロは研究室の中を動いている。
「タロも元気で何よりだ」
「ピィピ」
「私に作れるでしょうか?」
「まあ、難度は高い。だが、今のロッテなら研究ノートや設計図があればいけるだろう」
「が、がんばります!」
気合が入っているようだ。
ロッテは既にお湯を作り出す魔道具とパン焼き魔道具を一人で完成させている。
ステップアップしてもいい頃だ。
「犬の散歩用魔道具は機能が多く部品数も多い。だからこそ、完成までに得られる技術も多い」
「はい! わかりました」
「わからないことがあればすぐに何でも聞きなさい。もし自分で考えた方がいいと思えば、ちゃんとそういうからな」
「はい! すぐ聞きます!」
ロッテは凄く素直だ。
素直さで言うと、今まで教えた生徒の中でも一番かもしれない。
ケイ先生は「素直な弟子は伸びることが多い……ときもある、ような気しなくもないのである」みたいなことを言っていた。
いつになく歯切れが悪かったので、やけに印象に残っているのだ。
ケイ先生は、あいまいに言っていたが、きっとロッテは伸びるに違いない。
そんなことを考えながら、俺はゆったりと椅子に座った。
すると、ハティが俺のひざの上に乗ってくる。
そして、懐の中に入っている幼竜を、服の上から撫でた。
「幼竜のことは、我に任せておくのじゃ」
「親は見つけられそうか?」
「うむ。お昼ご飯も食べたし、これからハティは父上のところに行ってくるのじゃ」
「それは急だな。ハティも疲れているだろ?」
ハティに無理させるのは本意ではない。
「親竜は寂しがっておるのじゃ。あまりゆっくりは、していられないのじゃ」
そう言われたら、引き留められない。
「そうか。寂しくなるな」
「ハティはすぐに戻ってくるのじゃ」
「そうだけど……」
俺は懐の中にいる幼竜をみる。
幼竜は「りゅりゅるー」と鳴きながら、気持ちよさそうに眠っていた。
寂しいが、幼竜にとっても、親と暮らす方がいいに違いないのだ。