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093 コラリー

 ハティは外に向かって呼びかける。


「そなたたちも中に入ったらどうじゃ?」

 俺のいる台所からは見れないが、どうやら外には他にも騎士がいるようだ。


「いえ、我々は外で待機するのが職務ゆえ」

 気合の入った返事があった。


「ハティさま。感謝を。ですが、彼らのことはお気遣いなく」

「そうかや? 風邪をひくでないのじゃぞ?」

 そういって、ハティは、隊長と騎士の一人、それにコラリーをロッテの使っている綺麗な研究机へと案内した。


 入って来た隊長たちを、俺は見た。

 隊長についている騎士は、俺がいままで会ったことのない人物だった。


「少し待つがよいのじゃ」


 ロッテの使っている椅子だけでは足りないので、予備の椅子もハティは運んでくる。

 ハティは子供なのに、意外と手際がよくて驚いた。


「お客さんを出迎えるために作ってないから、申し訳ないのじゃが……」

「どうぞ、お構いなく」

「お茶を淹れるのじゃ! 少し待つのじゃ」


 そして、ハティは俺の方へと飛んできて、お茶を淹れる準備を始める。


 俺は丁度皿洗いが終わったところだった。

「ハティありがとう、お茶もお願いするよ」

「ハティにまかせるのじゃ!」


 俺はハティの頭を撫でると、隊長と騎士とコラリーの方へと向かう。


「お待たせしました」

「いえ、急にお伺いしてしまい申し訳ありません」

 隊長が立ち上がって、頭を下げてくる。

 同時に隊長の隣にいた、俺が見たことのない騎士も立ち上がった。


「ヴェルナー卿。お初にお目にかかります。近衛魔導騎士団の団長を勤めております、ガラント・ベンソンと申します」


 俺は思っていたより大物が来たので驚いた。

 近衛魔導騎士団のトップが団長だ。

 隊長は近衛魔導騎士団の中にいくつもある部隊の一つの指揮官である。

 当然、団長は隊長の上司にあたる。


「あなたが、かの高名な。お会いできて光栄です」


 あったことはないが、俺ですら名前を聞いたことがある。

 ベンソン侯爵家の三男にして、剣と魔法の達人。

 皇太子クラウス殿下と同年齢の幼馴染で、懐刀と呼ばれている人物だ。


「こちらこそ、お会いできて光栄です」

 そういって、ガラントは微笑む。


 適当に挨拶を済ませると、俺は本題に入った。


「今回いらっしゃったのは、コラリーの身元引受の件ですか?」

「その通りです」


 俺はコラリーを見る。

 給仕をしていたとき、顔は汚れ、ボロボロの服を着て、髪もボサボサだった。

 だが、今のコラリーは顔は綺麗になり、黒い綺麗な髪も整えられて、綺麗な服を着ている。

 近衛魔導騎士団で丁重に扱ってもらえたらしい。

 団長が自ら、身元引受けの話し合いに来たというのも、近衛魔導騎士団がコラリーが重要だと考えていることがわかる。


 俺たちが本格的に話し合いに入る前に、ハティがお茶とお茶菓子を持ってくる。


「どうぞなのじゃ」

「これはありがとうございます、古竜の王女にお茶を淹れて頂けたと、子孫に自慢できます」

「苦しゅうないのじゃ! 存分に飲むと良いのじゃ」


 上機嫌のハティが団長の頭を撫でる。

 止めようか迷ったが、ハティは古竜の大王の娘。構わない気もする。


「あ、ありがとうございます」

 団長もさすがに少し戸惑っていた。


 そんな団長の隣でコラリーはじっと無言で座っている。

 緊張した様子で、目は伏せていた。


 団長はお茶を飲んで、再びハティにお礼を言ってから、やっと本題に入った。


「では、改めて。ヴェルナー卿にコラリーさんの身元引受人になって頂きたいのです」

「それは構いませんが……」


 むしろ引き受け手がいないなら引き受けるつもりではあった。

 だが、俺が引き受ける場合、王宮への根回しが必要だとも思っていた。


 操られていたとはいえ、コラリーは辺境伯家の嫡子襲撃の実行犯だ。

 俺が身元を引き受ければ、当然、俺の弟子ロッテとコラリーが接する機会も増えるだろう。

 そして、ロッテは政治的に重要人物、ラメット王国の第三王女なのだ。


 コラリーをロッテに近づけることに危険はないのかと、色々王宮の方で問題になってもおかしくない。


 そのようなことを、俺は団長に尋ねた。

「偽証察知の神具を使って、コラリーさんが危険人物ではないことは明らかになりました」


 偽証察知の神具は魔道具ではなく、神の力のごく一部を地上に顕現させるための器具である。

 勇者の聖剣や神官の用いる神聖魔法、つまり治癒魔術などと体系が同種のものだ。

 原理は俺にもわからない。


 偽証察知の神具は貴族などの取り調べにも使われる。

 使われても痛くも苦しくもない。

 問いに応えて、もし嘘をついていたら、綺麗な鈴の音が鳴るのだ。


「ご配慮、ありがとうございます」

「ヴェルナー卿からもローム子爵閣下からも、そしてシャルロット王女殿下からも、よろしくと頼まれましたから」


 そういって、団長はにこやかに微笑む。

 近衛魔導騎士団には他にも真実を無理矢理暴く手段はある。

 その中でも、最も配慮した手段を選んでくれたようだ。


「問題がないようであれば、私が身元引受人になりましょう。姉にも一言報告しないといけませんが……」

「その事でしたら、問題ないかと思います。ローム子爵閣下からヴェルナー卿が引き受けると仰せつかっておりますゆえ」

「ああ、そうだったのですね」


 姉がそういっていたのならば、問題はなかろう。

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