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094 身元引受

 俺は緊張した様子のコラリーに尋ねる。

「コラリー。俺が身元引受人で大丈夫か?」

「…………かまわない」

「両親は殺されたということは聞いたが、故郷に親以外の親類縁者はいるのか?」


 親類縁者がいるならば、そちらのほうが身元引受人としては最適だろう。

 口封じや見せしめに襲われる可能性がなくなれば、故郷に戻してあげた方がいい。


「……いない。村ごと消えた」

「村ごと?」

「……光の騎士団に襲われて子供以外皆殺しにされた。……私以外の子供がどうなったのかはわからない」


 コラリーの話を聞いてた隊長が教えてくれる。

「コラリーさんの供述の裏はとれています。八年前に突如村人全員が消えた村がありました。魔物の痕跡があったので、事件性はないと思われていたのです」


 凶暴な魔物の襲撃によって村が滅びることは稀にあるのだ。

 光の騎士団は、魔物の襲撃によって村が滅びたと偽装したらしい。

 だが、そう簡単に偽装が成功するとも思えない。


「お尋ねしてもよろしいですか?」

「もちろんです。わかる範囲でお答えいたします」


 隊長はそう言ってくれたが、上司である団長はどう思っているのだろうか。

 俺は無言で団長を見た。


「彼が調査の責任者ですから。魔導騎士団でもっとも事情に詳しいのが彼です。なんでもお聞きください」


 どうやら、調査結果について、近衛魔導騎士団は俺に教えてもいいと考えているらしかった。

 そういうことならば、遠慮なく尋ねられる。

 俺は団長と隊長にお礼を言ってから、尋ねた。


「よほど偽装が巧妙だったということですか?」

「偽装は確かに巧妙でした。ですが、捜査失敗の要因としては、発覚が遅れたことが大きいでしょう」

「どのくらい遅れたのですか?」

「三年です」

「三年? それは遅れに遅れましたね」

「はい。優秀な魔導師の隠れ里のような村で、外部との交流がほとんどなかったのです」

「なるほど」


 外部との交流がない村だからこそ狙われたのかも知れない。

 優秀な魔導師の住む村を全滅させる光の騎士団の戦力というのも気になる。


 近衛魔導騎士団が襲撃があったことを掴んだのが事件から三年後。

 そして、今回コラリーを保護したことで、さらに情報を得られた。

 だが、すでに事件から八年経っている。

 八年前のことを、今更改めて捜査してもわかることはほとんどないだろう。

 幼かったコラリーが覚えていることも、そう多くないに違いない。


 俺がコラリーを見ると、コラリーは俺の目をじっと見ていた。


「…………私には行くところがない。……無給でもいい。働かせてくれるとうれしい」

「うーん。そうだな」


 俺はコラリーにふさわしい仕事がないか考える。

 その間、ハティがコラリーの頭を撫でていた。


「コラリーが不憫なのじゃ。お菓子を食べるかや?」

「……ありがとう。でも大丈夫」

「遠慮しなくていいのじゃ。これを食べるのじゃ。美味しいのじゃぞ」

「……ありがと、ハティ」


 ハティに勧められてコラリーはお菓子を食べる。


「コラリー、何かしたいことはあるか?」

「……わたしはヴェルナーに助けられた。ヴェルナーは命の恩人。……なんでもする」

「なんでもか。そうだな。コラリーは魔法が使えるんだよな」

「……一応、使える」


 コラリーは謙虚なようだ。

 姉を襲撃した際、そして酒場で俺に襲いかかった際、コラリーが使った魔法は大したものだった。


「使えるのは攻撃魔法だけか?」

「……そう。攻撃魔法だけ。ヴェルナーは魔道具の専門家と聞いた。……わたしは役に立たないかもしれない。……でも掃除でも何でもする」

「攻撃魔法が使えるなら、手伝ってもらうことなどいくらでもあるさ」

「……ほんと?」

「ああ、俺が使えるだけの魔道具は不完全だからな」


 俺だけでなく他の魔導師も、充分に魔道具の機能を使いこなせるか確かめる必要がある。

 それは人ではないハティにテストしてもらうのは難しい。


「コラリー。改めて、こちらこそよろしく頼む」

「……うん。よかった」


 コラリーは初めて笑顔を見せた。


「コラリーよかったのじゃ。ハティに何でも聞くのじゃぞ」

「……うん、ハティもよろしく」

「コラリーには紹介しておこう」

「……だれを?」

「ユルング、ご挨拶しなさい」

「………………りゃ」


 コラリーたちが訪れてから、ユルングはずっと俺の懐の中で大人しくしていた。

 人見知りしているのだろう。


「ほら、ユルング」

「りゃ」

 ユルングは、懐からちょっとだけ顔を出す。


「コラリー、この子はユルング。しばらく俺と一緒に暮らすことになったからよろしく頼む」

「……よろしく。……かわいい」

「……りゃ」


 一言だけ鳴いて挨拶すると、ユルングはまた懐の中に潜っていった。


「ヴェルナー卿。その子が例の?」

「はい、古竜のヒナです。ハティに頼んで、親竜を探しているのですが見つからず」

「そうでしたか、それは心配ですね」


 団長も隊長も、あの日助け出されたユルングについては知っているのだ。

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