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100 ケイ先生からの手紙その2

 俺はケイ先生の手紙の内容を少し考えた。


「隠れ里か」

「……私の故郷のこと?」

「あ、そうか。コラリーの故郷も隠れ里のようなところだったな」

「……うん」


 コラリーの故郷は優秀な魔導師の隠れ里だったらしい。

 その隠れ里は光の騎士団に襲われて、全滅したという。



「いや、コラリーの故郷の話じゃないよ。ケイ先生が、魔道具師の隠れ里が存在しているんじゃないかって」

「……そう」

「ちなみに、コラリーの故郷では魔道具作りは盛んだったの?」

「…………わかんない。里に魔道具はあったと思うけど」


 魔道具があったからと言って、魔道具師の里とはいえ無い。


「魔道具を作ったりしているのを見たことは?」

「……魔道具を作っている人もいたかもしれない。でも、みんな魔法を使ってた」 

「魔道具師より魔導師の方が多かったと」

「……うん。多分」


 コラリーがさらわれたのは八年前。十歳の頃だ。

 その後過酷な環境に置かれていたのだ。記憶が曖昧でも仕方が無い。


「もしかしたら……」


 ケイ先生の曾孫弟子たちの里も、何者かに襲われて拉致されている可能性があるのかもしれない。

 コラリーの生まれ故郷と同様にだ。


 可能性は捨てないで頭に止めておくべきだろう。

 もちろん、隠れ里が自らの意思で敵に与している可能性も捨てるべきではない。

 手紙で、油断せずに考え続けろと怒られたばかりなのだ。


『隠れ里は、君が探しても見つかるまい。強くて賢いわしに任せるが良い。

 そして、ここからが本題だ。古竜のヒナの件だ』

「長い前置きだったな」


 長いが、大切なことなので、仕方が無い。

 どうやら、なぜかケイ先生は、ユルングのことを知っているらしい。


『親竜の調査を頼む。

 君はハティに頼んで、古竜のヒナの親を探したに違いない。

 そして、恐らく親は見つからなかったのではないか?

(まさかとは思うが、探していないなら、すぐにハティに頼んで探して貰うように)』


 ケイ先生はハティのことも知っているらしい。

 ユルングのことを知っているなら、ハティのことも知っていて当然だ。

 ケイ先生の情報網は世界中に張り巡らされているのである。


『親が見つかったのならばそれでよい。

 古竜のヒナをさらうなど、かつての勇者にも難しいことだ。

 それでも単純な誘拐事件ならば、親元に帰すこともできる。

 親竜から話を聞いて、敵の情報を収集することもできるだろう。


 親竜が死んでいる場合、悲しいことだが、まだ最悪ではない。

 親竜の強さ、巣の状況などから、敵の技術力や力を推測できる。

 ヒナを親戚に預けるというても取れるだろう』


 では最悪は何なのだろうか。

 俺は少し緊張して読み進める。


『最悪なのは、生死を問わず親が見つからないことだ。

 古竜の数は少なく、コミュニティ全員が顔見知りだ。


 その上、長命で強大であるが故に、ヒナが生まれることがとても珍しい。

 誰かがヒナを産んだのなら、古竜のコミュニティで広く知られることになる。

 そして、古竜の間では、卵が生まれることは何よりもめでたいことだ。

 種族全体で祝うべき、なのだ。


 卵が体に宿ってから、実際に産むまでの期間も長い。

 妊娠中の時点で、拡がることになる。


 まあ、このようなこと、ハティと一緒に住んでいる君には敢えて言うまでも無いことだな。

 魚に泳ぎを教えるようなことをしてしまった』


 ケイ先生はそういうが、俺は古竜のコミュニティについて、余り詳しくない。

 だから、ケイ先生の言葉が突き刺さる。

 古竜について学べる環境があるのに、全く勉強しないとは向学心がないのか?

 と言われているかのようだ。


『少し脱線してしまったな。

 親が見つからない場合がなぜ最悪なのかという話だ。


 存在しない親から生まれたヒナ。

 一体そいつは何者か?

 そして、なぜ、謎のヒナをガラテア帝国、いや、魔道具師の集団は手に入れることができたのか。


 わしの想定した以上の事態が起こっている可能性がある』


 具体的にどう最悪かは書いていない。

 だが、危機感を持っているらしいことはわかる。

 恐らくケイ先生も、事態を把握出来ていないのだ。


『わしには出来ないことを君に頼む。

 ハティを通じて、古竜のヒナについての調査を深く進めて欲しい。


 君とヒナも調査に同行させてもらうといい。

 君が無理ならば、ヒナだけでも、同行させてもらうんだ。


 古竜の古老ならば、ヒナを見て、何かに気付くだろう。


 偉大なる君の師匠。大賢者ケイ』


 長い手紙はそう締めくくられていた。


「あの、ハティ」

「どうしたのじゃ?」

「ケイ先生がな——」


 俺は料理中のハティに手紙の内容を口頭で説明した。

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