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101 ケイ先生からの手紙その3

 俺の説明を大人しく聞いていたハティは完成した料理を持って、テーブルへと移動する。 

「ふむう。確かにそうなのじゃ」

「そうっていうのは、コミュニティが狭いから、赤ちゃんが生まれたらすぐ気付くってことか?」

「それもそうなのじゃ。赤ちゃん自体、滅多に生まれないというのも本当なのじゃ。それよりご飯ができたのじゃ」

「ありがとう」


 俺はベッドから立ち上がって、ファルコン号の背中に乗っているユルングを抱き上げる。


「りゃあ?」

「ご飯ができたよ。コラリーとファルコン号もご飯を食べよう」

「……うん。ありがと」

「ふぁるるぅ」


 ハティの用意してくれたご飯は、俺のパン焼き魔道具で作ったパンと焼いた卵と肉だった。


「ファルコン号は……肉食?」

「ふぁる?」


 鷹か鷲のような猛禽類にみえるから、肉食なのではと思う。


「前来た時、ファルコン号は乾燥パンを食べていたのじゃ。乾燥パンもうまいが、主さまのパン焼き魔道具で焼いたパンも旨いのじゃぞ」


 そういって、ハティはパンと肉と卵を並べる。


「ファルコン号、食べたい奴を食べなさい。全部は食べなくていいよ」

 肉と卵が好きじゃないのに、無理に食べることになったらかわいそうだ。

 それに、実はパンが好きじゃないのに、前回は無理して食べていた可能性もある。


「ふぁるふぁるるる」


 ファルコン号は美味しそうにパンと肉と卵を食べる。

 どうやら、全部好きらしい。


「コラリーも食べなさい」

「……うん、いただきます」

「コラリーはやせているから、たくさん食べたほうがいいのじゃ」

「……ハティありがと」


 コラリーはパンを小さくちぎってゆっくり食べる。


「……おいしい」

「そうなのじゃ! 主さまのパン焼き魔道具で焼いたパンは旨いのじゃあ」


 ハティは凄く自慢げだった。

 俺はユルングに食べさせながら、自分も食べる。


 そうしながら、ハティに尋ねた。


「古竜の、ユルングの親の話なんだが……」

 今、ハティの父である古竜の大王が、全ての古竜に子供がさらわれてないか聞いてくれているところだ。


「りゃむ?」

 パンを食べていたユルングがこちらを見上げる。

 俺は、そんなユルングの頭を撫でた。


「父ちゃんが調べてくれてはいるのは間違いないのじゃ。だけど、主さまの師匠が書いていることも本当なのじゃ」

「つまり、ユルングの親がいない可能性が高いってことか?」

「聞いて回っているのは念のための確認みたいなものなのじゃ」

「ふむう」

「主さまの師匠はさすがなのじゃ。ハティも、そして父ちゃんも皆も、古竜のヒナをさらうことが可能だとは思ってないのじゃ」

「卵をさらうのでも?」

「ヒナも卵も同じなのじゃ。まともな方法が思いつかないのじゃ」

「まともじゃない方法なら、卵をさらうことは可能なのか?」

「親を殺すのが一番簡単なのじゃ。でもここ数千年、殺された古竜はいないのじゃ」

「殺されたことに気付いていないってことは?」

「さすがにそれはないのじゃ。殺されたら魔法でわかるようになっているのじゃ」


 どういう仕組みを使っているのかはわからないが、古竜の魔法技術なのだろう。


「殺さずに……となると大陸の半分を消し飛ばしてその隙にとか、そういうレベルの話になるのじゃ」

「確かにそうなると、ヒナがどうこう以前に人族の間でも大騒ぎになるだろうな」

「でも、親がいないのに卵が生まれることはないのじゃ」

「それはそうだな」

「だから父ちゃんたちも、困惑しているのじゃ」


 何千、何万年と生き、深い叡智を持つ古竜たちでもわからない事態。


「ユルング。誰から生まれたんだ?」

「りゃあ?」


 俺の困惑が伝わったのか、ユルングは不安そうな瞳でこちらを見つめている。


「ユルングはなにも心配しなくて良いよ。いっぱい食べなさい」

「りゃむ!」

「それで、ハティ。頼みがあるんだが」

「父ちゃんのところに行きたいのかや?」

「そういうことだ。無理か?」


 基本的に、古竜の王宮には古竜しか入れないとハティは言っていた。

 だからこそ、ハティは一人で実家に戻ったのだ。


「うーん。主さまなら、大丈夫だと思うのじゃが……」

「……私も行く」

「俺は構わないが、ハティ、どうなんだ?」


 古竜には古竜のしきたりや常識があるのだ。


「コラリーは、ううむ。ハティはいいと思うのじゃが……、父ちゃんがなんというか」

「……私の身元引受人はヴェルナー。だから一緒にいないといけない」


 別に身元引受人と四六時中一緒にいなければいけないという決まりはない。


「……私は役に立つ」

「じゃあ、主さまが王宮に行っていいかも含めて、父ちゃんに聞いてくるのじゃ」

「すまない。手間を掛ける」

「気にしなくて良いのじゃ。ユルングのためなのじゃし、ユルングはハティたちの同胞ゆえなー」

「…………ありがと」


 ハティが実家に戻って、聞いてきてくれることになった。

 俺が動くのはそれからになるだろう。


「おや?」

 手紙を折りたたもうとしたとき、封筒の中にもう一枚紙が入っていることに気がついた。

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