気付かなかったのも無理がないと思う。
封筒が二重になっていて、その間に隠すようにもう一枚の手紙が入れられていたのだ。
「まさか、秘密の伝言か?」
身構えて開くと、
『ヴェルナーだけ読むこと!
他の物には見せないように!!
追伸
ファルコン号が世話になった。私からもお礼を言わせてくれ。
パンが美味しかったと、ファルコン号が言っていた。
それで、悪いが今回もファルコン号を一晩休ませてやってくれ。
ご飯と水も頼む
ファルコン号は肉食だが、パンや果物、野菜も好きだ』
ファルコン号について書いてあった。
「別に隠さなくてもいいのに」
「ふぁる〜?」
「ファルコン号はいくらでも休んでいって良いからな」
「ふぁる」
ご飯をおいしそうに食べながら、ファルコン号は嬉しそうに首を動かした。
「まだ続きがあるな」
もしかしたら、他のものに見せるなという理由はこの続きにあるのかもしれない。
『追追伸
結界発生装置、受け取った。悪くない。
だが、わしもこのぐらいなら作れるということを忘れてはいけない。
わしは、君よりもとても強いだけでなく、魔道具作りもうまいのだ。
それはともかく、君にしてはよくやったのではないか?
わしのいないところでも、研鑚を続けているようで何よりだ。
とはいえだ。この魔道具にも課題はある。
完璧な魔道具など存在しないのだから、それは当然だ。
だが、君も気付いているだろうし、克服する方法も思いついているのだろうから何も言わない。
未熟な君が、どうしても思いつかないとか、克服方法がわからないと困っているなら、ファルコン号に手紙を託せ。
仕方がないから、アドバイスしてやらないこともない。
今後とも頑張るように。
いつか、遥かなる高みにいるわしに追いつけるように』
前回、開発したばかりの結界発生装置をファルコン号に託してケイ先生届けたのだ。
「珍しく褒められたな」
ケイ先生はあまり褒める方ではない。
すごく照れる。
べた褒めだ。
ケイ先生が知らない人が読めば、べた褒めではないと言うかもしれないが、これはべた褒めなのだ。
べた褒めするから、他の者には見せるなということだったのかもしれない。
「……風邪?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
どうやら、また顔が赤くなっていたようだ。
コラリーが立ち上がって、俺の額に手を当てに来る。
「……そ」
「コラリーは、人の体調を気遣かえて偉いな」
「……熱が出たら死ぬ」
「そんなことは……」
俺は「そんなことはない」と言いかけて、言いよどんだ。
コラリーを見る。
十八歳だというのに、背も低いし、ガリガリ痩せている。
栄養環境が良くなかったのだろう。
「大丈夫だよ。俺はちゃんとご飯を食べているから、簡単には死なないよ」
きっと、コラリーの育った劣悪な環境では、熱を出してそのまま死ぬ子供が珍しくなかったのだろう。
「……そう」
「コラリーも熱出ても、簡単に死なないようにちゃんと食べなさい」
「…………わかった」
何かを察したのか、ハティがコラリーの頭を優しく撫でていた。
「……続きにはなんて?」
照れた様子のコラリーが尋ねてくる。
「追加の内容は他の人に読ませるなって」
「……そ」
「内緒の手紙なのじゃな!」
「そういうことだ」
「重要なことが書いてあるのじゃな〜」
「そうでもないんだが……」
今のところ、ファルコン号についてと魔道具の感想だ。
だが、もしかしたら、続きに重要なことが書いているのかもしれない。
『追追追伸
勇者にして、わしの姪のような存在であるシャルロットの修業は順調か?
まさか忘れているわけじゃあるまいな?
大魔王復活まで間がないぞ?
育っていない勇者など、簡単に死んで終わりだ。
それは君も望んではおるまい。
もちろん、わしも望んではいない。
できる限り早く、戦う力を身につけさせよ。
猶予はない』
それについては申し訳ないと言わざるを得ない。
大魔王の復活も、ロッテが勇者であることも、聞いている。
ケイ先生がいうのだから、本当なのだろうと、頭では理解した。
とはいえ、それが本当だと心から信じることができていなかった。
そもそも「そんなに時間がないなら、ケイ先生が、ロッテを育てればいいのでは?」
本気でそう思う。
それに「人を育てた経験がない、未熟な弟子である俺に託す時点で、ケイ先生自身の危機感も薄いのでは?」
とも思わなくもない。
『…………浅はかな君は、だったらお前が育てろよと思っているかもしれない。
本当に浅はかだな!
ぶっ殺すぞ』
ケイ先生はたまに怖いことを言う。
だが、俺の思考を先回りしているから、凄いと思う。
『いま、わしが行っていることは本当に危険で、未熟なシャルロットを連れて歩けば、五秒で死にかねない。
君より圧倒的に強いわしがついていてもだ。
それほど危険なことをしているのだ』
温泉でのんびりしている設定はどうなったのだ。
まあ、本当は温泉でのんびりしているが、面倒だから、適当なことを言っている可能性もある。
『本当に危険なことだ。
わしよりずっと弱い君ではすぐに死んでしまうだろう。
そのぐらい危険なのだ。本当だ。
ともかく、シャルロットを連れ回し、鍛えてやってくれ。
頼んだぞ。
君の偉大なる師匠にして、最強の大魔導師にして、魔道具のすべての元を作った者。ケイ』
俺は他に紙が無いか、封筒を念入りに探す。
どうやら、手紙はこれで終わりのようだった。